■前篇
ざっくりした登場人物紹介。
・桜井 春樹:十八歳。一応、主人公。進学を機に上京してきた。
・桃山 麗:二十歳。春樹と同学年。日常会話は関西弁。
・小野寺 梅花:二十一歳。同好会のマドンナ的存在。東北人。
・東堂部長:二十二歳。梅花と同学年。歴史オタク。
大型連休に行われた春麗のミステリーツアーから、早三ヶ月。
僕とうららさんは、キャンパスの最寄り駅近くにある小さな神社で開催されている、納涼夏祭り大会にやってきてる。
境内には参道の両脇に夜店が並び、カランコロンと石畳を歩く下駄の音がしたり、ドンドコピーヒャラと太鼓や笛の音が鳴り響いたりしている。
地元では有名な祭りなのか、それなりに混雑して賑わっている。
「そしたら、今度はベビーカステラかな」
「よく食べますね、うららさん」
「もちろん。そのために、ここ二ヶ月ほどバイトを頑張ったんやないの」
うららさんは、コワモテの店主に臆することなく、大袋入りを購入した。
ここに来るまで、タコ焼き、箸巻き、焼きそば、リンゴ飴、焼きトウモロコシを完食しているというのに、凄まじい食欲だ。
もちろん、軍資金の出処が食べる本人の巾着であり、ビー級グルメを堪能するのを邪魔してお祭り気分に水を差すつもりは無い。
ただ、胃袋のブラックホール具合には、見ているこちらが驚かされる一方だ。
ちなみに、うららさんのアルバイト先は、昔ながらの下町風情が色濃く漂う一画にある個人経営の居酒屋である。
落ち着きがなくてミスが多いところはあるが、持ち前の明るさと人懐っこさで、年配の常連客には人気なのだとか。
勤務時間中は忙しいし、たまに変な客に困ることもあるそうだが、まかないが絶品なので、もうしばらく続けると言っている。
今日、僕とうららさんが着ている浴衣も、そこの女将さんからお借りしたものだ。
「ハルくんも、一つ食べる?」
「いえ。僕は、もうお腹いっぱいなので、遠慮します」
「ふ~ん。小食なんやね」
そう言いながら、うららさんは次々にベビーカステラを口に入れていく。
小麦色の球体は、みるみるうちに吸い込まれるように消えていく。
それを横目で伺いつつ、きっと僕と違って、うららさんは夏痩せとは無縁なんだろうなぁと、うら若き乙女に対して失礼なことを考えていた。




