その後の話2 お妃様はご機嫌ななめ?
「あー、アリッサ、少しいいか?」
私は、妻の侍女を呼び止めた。
アリッサは、ロザーリエが故国から連れて来た侍女で、最も心を許している相手だ。
「近頃、ロザーリエがふさぎこんでいるように思うのだが、心当たりはないか?」
「心当たりは、ありすぎです」
「本当か。やはり、あれか? ホームシックか?」
故国をこよなく愛している彼女のために、居室の全てをエルクラウス風に調えているのだが、やはりそれでは足りないのだろうか。
「ホームシックではございません。姫様――妃殿下は、ご自分に魅力がないのではないかと悩んでおいでです」
「そんな馬鹿な。あんなに美しいのに」
アリッサは深々とため息をついた。
「ご無礼を承知で言わさせていただきます――この一週間、うちの姫様が可愛らしく、ええ、この上なく可愛らしく、あの手この手でロベルト殿下の気を引こうと頑張っていらしたのをお気付きではないのですか?」
「は? そうなのか? 可愛いのはいつも通りだから、いや、いつもにも増して可愛いなとは思ったのだが……」
「わたくし相手に惚気てどうするんですか! 今すぐ、姫様にそれをおっしゃって下さい! そして口づけて、抱きしめてやって下さい! それで元気になります!」
「わ、分かった」
アリッサのすごい剣幕に、やや腰が引けた。
そうか。あれは私の気を引こうとしていたのか。
先週調子に乗りすぎて、閨で無理をさせてしまったから、自重していたのだが。
「ロザーリエ」
私の紅薔薇は、少し拗ねたような眼差しで私を見た。
「こちらへおいで。貴女のキスがほしい」
私の大切な愛しい姫は、頬を薔薇色に染めると、嬉しそうに笑って私の腕に飛び込んできたのだった。