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WitchDoll〜傀儡人形は夢を見る〜  作者: うつろ
Chapter-7【アストルフォ編】

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〈7-7〉普通という特別

壊れてしまったアストルフォの街。

いつもの道も、学園も、そこにはもう無い。


それでも最後は笑っていよう。

みんなと出会って、初めて友達が出来たこの場所だから、最後まで笑って過ごそう。


「ねえスピカ!観光しようよ!!」

「全くあなたって人は…。でもまぁ、最後くらい思い出は残しておきたいわね」


まず、シキがスピカの手を握る。


「リゼットも一緒に行きましょ」

「…………………うん」


次にスピカがリゼットへ声をかけ


「…………………ヴェーターも、行く?」

「い、いいの?」


リゼットがヴェーターを誘う。


「俺も行く。どうせ明日くれぇにはここを出るんだろ?だったら最後くれぇ思い出作っておこうじゃねぇか」


そしてアルケーが四人の輪に入り


「私も一緒に行きます。私も、皆さんの友達の一人ですから」


最後にラミアが五人の隣に立つ。



紡がれたその手や声は、大きな輪となって今ここにある。

リゼット、シキ、スピカ、ヴェーター、アルケー、ラミア。

それぞれが出会い、衝突し、旅をし、そして繋がる。

どれも大切な思い出だ。


リゼットはそっと人形を抱きしめた。

まるで思い出に浸るかのように、彼女の口角が小さく上がる。


(………………普通に、生きる…)


彼女にとって叶うはずの無いその夢が、今はどこかすぐ近くにあるような気がした。


「じゃあどこ行く!!?」

「どこっつっても、全部壊れてんじゃねぇか。行くとこねぇだろ」

「そうね、どこがいいかしら。店もほとんど壊れちゃってるし…」

「私はどこでも大丈夫です。皆さんについて行きます」

リゼットが視線を前に向けると、いつも通りに話している皆がいた。


「で、でも回っていくのもいいかもね。リゼットはどこ行きたい?」


ヴェーターがリゼットへと視線を向ける。


リゼットは空を見上げると、少し考え

「…………………学園」

と、小さく呟いた。


「やっぱ学園だよね!!!」

そんなリゼットに、シキが目を輝かせて反応する。

「ふふ、リゼットらしいわね。じゃあ行きましょ」

スピカがそう言うと、六人はエウケー魔法学園へと向かった。


六人の笑い声が街の中に遠ざかっていく。

生き残った者達は、誰からともなくその背中を見送っていた。

泣いていた者が、絶望してた者が、小さく顔を上げる。

まるで小さな光でも見ているかのように、リゼット達の背中が輝いて見えた。


「英雄、か。きっと本当の意味で英雄と呼ばれるべきは、君達なのかもしれないな」


そんな六人を見つめながら、リベリオが呟く。


普通に生きたいと願う少女。

けれどその姿は、他の誰かにとっての夢そのものなのかもしれない。




────────────────────────




「ただいまぁぁああああ!!!」

「お前よくそのテンションでいられるな」

崩壊した学園を前に、いつもの元気で両手をあげるシキ。

そんな彼女にアルケーがすかさず口を挟む。


「とは言っても、入口は完全に塞がれてて行けそうにないわね。リゼット、上から入れるかしら」

「……………うん」


大量の瓦礫に塞がれた入口を前に、スピカは上から入ることを選択。

リゼットは人形の風魔法で六人を空へと浮かせ、崩れ落ちた屋上から学園の中へと入った。


「う、うぅ…。みんな………」

ヴェーターが思わず声を漏らす。


そこには、ついこの前まで同じ学園で過ごしていた生徒や教師たちがいた。

けれどもう、誰も動かない。

焼け焦げた制服、凍りついた床、赤黒く染まった廊下。


あの日まで聞こえていた声だけが、どこにもなかった。


「みんな、ごめんね……」

シキはそんな光景を見つめながら呟く。

けれど、涙は出さなかった。

「いいのよ…」

そんなシキの頭をスピカがそっと撫でる。


「…………………………」

リゼットはただ、沈黙の表情で教室を見つめる。


あの日出会った思い出は、まだ残ってる。

自分にとって特別な日常が、確かにここにあったのだから。


「私もいつか、学園に通ってみたかったです」


ラミアがそう言うと、リゼットがラミアへと視線を向けた。


「……………きっといつか、叶うよ」

きっと叶わぬ夢を見るリゼットが、ラミアに声をかける。


「叶えようぜ、俺達と一緒にな」

「う、うん。僕もいるから大丈夫だよ」


孤独のまま生きようとしたアルケーの声が、誰かと繋がるのを恐れていたヴェーターの声が、ラミアの心を優しく包み込む。


「きっと…きっと叶いますよね」

ラミアは笑顔を向ける。

リゼット達の隣に立ちたい。その夢はいつか、本当の形になって叶うと信じて。



「ねえねえ!!!!」

突然、シキが叫ぶ。

「卒業式しようよ!!!」

「はい???」

唐突に放たれたシキの発言に、リゼット達が首を傾げる。


だが、そんな中スピカは小さく笑った。

「ふふ。いいわね、それ」

「でしょ!!!」

「ええ。私達はもう、この学園に通うことも、戻ることも出来ない。だからやりましょ、卒業式。私達で最後を残しましょ」


きっとこの学園に来るのは今日が最後になる。

自分達を見送ってくれる先生も、背中を追いかけてくれる生徒も、もう何処にもいない。

だから最後は自分達で卒業しようと、そう決めた。


「……………………しよ、卒業式」

リゼットも二人に賛成する。


「先生役は俺だな」

「あ、アルケーもここの生徒なんだけどな……」

「私がやります。そもそも私生徒じゃないので」

「ラミアちゃんも一緒に卒業しよ!!!」


それぞれが話し合い、笑い合い、先生役と生徒役を決めていく。

まるでいつもの学園にいるかのように、面影も無い教室の中には小さな笑い声が響いていた。



そして

「そ、卒業証書授与」

ラミアが五人の前に立ち、小さな紙を持つ。

そこには卒業証書と大きく書かれており、それぞれの名前が小さく書かれていた。


「アルケーさん」

「おう」

まず最初に呼ばれたアルケーがラミアの前へと立ち、小さな紙を受け取る。


「ヴェーターさん」

「は、はい」

次にヴェーターが呼ばれて


「シキさん」

「はーい!!!」

シキが呼ばれて


「スピカさん」

「はい」

スピカが呼ばれる。


四人が卒業証書を受け取り、元の位置へと戻る。


そして

「リゼットさん」

「……………………はい」


最後にリゼットが呼ばれる。

リゼットは一歩ずつラミアの元へと歩いていく。

一歩、また一歩と踏み出す度に蘇る思い出。一年にも満たない短い時間の中で得た沢山の記憶が、その足と共に脳裏に映し出される。


「リゼットさん。あなたはエウケー魔法学園にて大きな功績を残し、この学園での生活を無事終了したことをここに示します。 エウケー魔法学園先生代理、ラミア」


ラミアから紙を受け取ると、リゼットは静かにラミアを見つめる。

この卒業は普通じゃない。けれど、この瞬間がリゼットには嬉しく思えた。


「……………………ありがとう」

リゼットは小さく微笑むと、元の位置へと戻っていく。


「それでは皆さん、ご卒業おめでとうございます」

最後にラミアが五人に向け声を出すと


「おめでとぉおおおおお!!!!!」

「みんな、おめでとう」

「お、おめでとう。なのかな…」

「いいだろ?おめでとで。卒業したってことにしようぜ」

「………………………うん」


それぞれが抱き合いながら喜ぶ。

皆が笑っている。まるで本当にこの学園を卒業したかのように、大きな笑みがそこにあった。


「おい!ラミアも来いよ!!」

「い、いいんですか?」

「うん。ラミアも僕達の友達だから!」

アルケーとヴェーターに呼ばれ、ラミアもその中に入る。


壊れてしまった教室。

もう普通では無くなってしまった場所で、六人は普通の時間を共に過ごした。



普通という、特別な時間を。

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― 新着の感想 ―
リゼットの周りの子たちがいい子すぎて胸が熱くなりました。友達といること、普通であることは、リゼットにとって特別なことですよね。個人的にスピカがよく周りを見ているなって行動を取るので、スピカがいると安心…
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