〈6-20〉無意識の功績
その瞬間、その場にいた全員が大きく息を飲んだ。
先程までの騒がしさが消え、部屋の空気が張り詰める。
メルゴは新聞から顔を上げると、スピカへ視線を向けた。
「…………アーカーシャ教団ね」
「知っていることは全部。些細なことでも構わないわ」
「そう言われてもねぇ……」
メルゴは困ったように頭を掻く。
そして少し考え込んだ後、静かに口を開いた。
「まず、アンタ達はどこまで知ってるのよ?」
そう言われたスピカは、一本ずつ指を立てながら、かつてエメリアから聞いた情報を話す。
「世界各地で暗躍する巨大な組織。そして、いくつか下部組織を置いていること。その目的は、魔法世界そのものを終わらせること、そして、セフィラの魔術師も元を辿ればアーカーシャ教団によって作られた組織であること。あたりかしら」
スピカの発言に、メルゴは目を細める。
「そこまで知ってるなら、話すことないじゃない。アタシ達だって全てを知ってるわけじゃないし」
「他には?」
「知らないわよ。教団の本拠地も、構成員の正確な数も知らない。上に誰がいるのかも知らないわ。強いていえば、既にアーカーシャ教団の信仰者は各地に多数存在している事くらいかしら」
「そう……」
スピカが小さく息を吐く。
「新しい情報は無し、か」
アルケーが壁にもたれながら呟いた。
確かに新しい情報は得られなかった。
強いていえば、エメリアとメルゴの言った情報が一致しており、その信憑性が高くなったことくらいだ。
「あれ?」
不意に、スピカの声が漏れた。
「……………………?」
リゼットが首を傾げながら彼女を見る。
「セフィラの魔術師は、アーカーシャ教団の下部組織として作られたのよね?」
突然の問いに、メルゴが眉を寄せる。
「ええ。そう言ったでしょ?」
「そして、ヴェルテクス、ゲラーテ、トルポルは死亡。ルーペスも既にいない」
スピカは指を折りながら、一人ずつ数えていく。
「メルゴとテンペスは離脱。そしてアビスは現在、私達と敵対していない」
「…………それが?」
スピカは考え込むように数秒黙り込むと、やがてその口元が僅かに引きつり、目を見開く。
「私達、アーカーシャ教団の下部組織を一つ丸ごと壊滅させたことにならない?」
少しの沈黙の後
「ええええええぇぇぇぇええええええ!!!!!」
最初に声をあげたのはシキだった。
「……………………」
リゼットも静かに目を輝かせる。
「そ、そんな凄いことしてたんだ……」
「そうなんですか?」
ヴェーターは気まずそうに視線を逸らし、ラミアは小さく首を傾げる。
「でも言われてみれば、そうなるじゃねぇか……」
アルケーもまた、無意識の功績に驚いていた。
「最初はメルティとゲラーテを追いかけてただけだよね!!!?」
「ええ。でも、結果的にこうなったのは事実よ」
シキの言葉に、スピカは淡々と頷く。
そもそも、この旅の目的はメルティの援護だった。
その過程の中でロドモンテに辿り着き、セフィラの魔術師達と戦った。
その結果、気が付けばアーカーシャ教団の傘下にあった巨大な組織を一つ壊滅させていた。
リゼット達は想像より遥かに大きな事を成し遂げていた。
すると、それまで黙っていたメルティが小さく笑う。
「まぁ、壊滅っていうのは少し違うけどね」
「違うの????」
メルティの言葉に、シキが首を傾げる
「セフィラの魔術師そのものが無くなったわけじゃない。アーカーシャ教団の下部組織だったセフィラが無くなっただけさ」
そう言うと、メルティは静かに笑みを浮かべながら言葉をつづける。
「今日からは、僕達のセフィラだよ」
「………………」
リゼットは新聞に記された自分の名前を見つめる。
昨日まで敵として立ちはだかっていた者達の席。その場所に、今は自分達の名前が刻まれている。
アーカーシャ教団によって作られた組織は、その形だけを残して中身は全く別のものへと変わった。
本当の意味で、この世界の一つの勢力となった瞬間だった。
「…………乗っ取った?」
「まぁ、そんなところかな」
不意にリゼットが呟き、メルティが言葉を返す。
「けど、新しい情報が得られなかったのも確かだ」
歓喜に傾いた空気を引き戻すように、メルティは冷静な声を落とす。
新しい情報が無い。それが意味することは一つ。
アーカーシャ教団についての謎は、まだ多く残っている。
司祭長の名前も、魔法も、拠点の場所も。
「まだ何も見えてこないわね……」
スピカが小さく呟く。
自分達が相手にしようとしている存在は、一体どれほど巨大なのか。
空気が再び張り詰める。
アーカーシャ教団の謎。その問いに答えられる者は、この場には誰一人としていなかった。
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「んでよ、これからどうすんだ?元々俺たちの成すべき事は遂げてるわけだし」
二人からの情報収集を終えた後。
アルケーはこれからのことについて問う。
「そうね、私達は一度、学園に戻るとしましょ。」
その問いに先に言葉を返したのはスピカだ。
そもそもリゼット達にとってアーカーシャ教団というのは、ゲラーテとメルティを追う中で得た情報でしか無い。
元を辿れば五人にとっては無関係のことだ。
「学園に戻る!!やったぁぁあああああ!!!!」
「ひ、久しぶりだな。学園に戻るの」
「………………帰れる」
スピカの言葉に、それぞれが学園にいた頃を思いだしながら言葉を吐く。
「僕達はアーカーシャ教団について調べるとするよ」
「あら、あなたも学園に戻らなくていいの?」
メルティの意外な言葉に、スピカは軽く驚くように返す。
「言っただろ?ここからはセフィラの魔術師として動くって。それに、アーカーシャ教団という組織が出てきた以上、放っておく訳にはいかないからね」
メルティの言葉に納得し、スピカは頷き微笑む。
「それで、君はどうするんだい?」
メルティが視線を向けた先、それはラミアだ。
ラミアも既に父の仇であるヴェルムを撃破している上に、リゼット達といるのもたまたま居合わせただけだ。
「私は……」
ラミアは足元を見つめて少し考えた後、リゼット達へと視線を向ける。
「私は皆さんの隣に立ちたいです。友達であり、同じセフィラの魔術師として。皆さんと一緒にいたいです」
それは、ラミアの新たな夢だった。
マルフィーザの屋敷を出てから、彼女は世界を知った。
そして、一人では成すことの出来ない壁もあると言うことも。
ラミアは守られるためではなく、同じ立場として隣に立つことを選んだ。
「…………………………いいの?」
そんなラミアに、リゼットは静かに言葉を返す。
「はい。リゼットさん達には何度も救われてきましたし、私も皆さんと一緒にいたいって思ったんです」
ラミアの決意の言葉に
「ラミアちゃんんんんん!!!!よろしくねぇぇぇえええええ!!!!」
と、シキが勢いよく抱きついた。
「く、苦しいですシキさん……」
「やめなさい。嫌われるわよ」
そんなシキをスピカはまた呆れた顔で引き離す。
「じゃあ、それぞれの目的は決まったね」
メルティが八人を見渡す。
彼のその瞳に返事をするように、それぞれが大きく頷いた。
「じゃあ、行くとしようか!」
メルティの言葉で各々は一室を片付け、出発の準備を整えた。
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「ねぇメルティ」
「なんだい?」
リゼット達が部屋を出た後、その場に残されたスピカがメルティに問う。
「シキが二席にいる理由、教えてくれないかしら」
「そのことか……」
それはアルケーと同じ質問だった。
その言葉にメルティは軽く周囲を見渡すと、再びスピカへの視線が戻る。
そしてそこから、二人の会話が続いた。
「ハッキリ言わせてもらうよ。リゼットとシキ、この二人の魔法は極めて異常なんだ。人形を操り、それぞれに複数の魔法を同時に放つ傀儡魔法、幽霊との干渉を可能にさせ、その軍勢で攻める霊魂魔法。この二つの魔法は今まで僕が見てきた魔法の中でも頭ひとつ抜けている」
「たしかに、二人の魔法は面白いわ。けれど、それのどこが異常なのかしら」
「使い方だよ。まずリゼット、人形を操るだけならまだしも、それぞれに魔法を撃たせたり、更に別々の魔法を同時詠唱できる。そこが異常なんだ。多重詠唱は出来ても二つか三つ。けど、彼女はそれを二十体の人形に同時に行っている。正直言って人間とは思えないくらいだ」
それはスピカにとっても納得できる言葉だった。
彼女の魔法を身近に感じすぎたせいで違和感を覚えてなかったが、たしかに彼女の魔法は異質すぎる。
「そしてシキ。彼女の魔法は下手したら国家一つを丸ごと潰せる程の魔法だと僕は見ている」
「シキの霊魂魔法が?」
「うん。彼女は使い方がまだ未熟だから強く感じないだろうけど、その戦い方と魔法の性質はリゼットと同じで異常だと思ってる」
「たしかに、リゼットもシキも一つの軍隊を作り出してるようなものだし。理解できるわ」
「正直怖いくらいだよ。この二人は」
傀儡魔法と霊魂魔法。
二つの魔法の異質性に改めて気付かされたスピカは、机に置かれた新聞を手に取る。
第一席と第二席。そこに書かれた名を真剣な瞳でただ見つめた。




