〈6-15〉勝利を信じて
それぞれの戦いが終わり、リゼット達はホテルに帰還していた。
ただ、一人を除いて。
「二人の治療は終わりました。特にアルケーさんは傷が酷すぎたので少し傷は残りますが、命に別状はありません」
リゼットがアルケーとテンペスをホテルへと連れ帰った後、二人はラミアの操血魔法により治療を受けていた。
しかし、二人とも損傷は酷い。治療したとはいえ目を覚ますのは時間を有する程だった。
「よかったぁぁあああああ!!!」
「う、うん。無事で良かったよ」
アルケーの生還に、シキとヴェーターが喜び笑みを浮かべる。
「けど……」
そんな二人の間を挟むように、スピカが小さく口を開く。
「遅いわね、メルティ」
メルティが未だ帰ってきていない。
その他の全員はこの一室に揃ったが、彼一人だけがまだこの場所に帰ってきていなかった。
「相手はゲラーテだよ!!長引いてるだけだよ!!!」
「そ、そうだよ。メルティなら負けないよ」
シキとヴェーターはメルティの勝利を信じ、声を発する。
だが、その表情は言葉とは裏腹に心配そうな顔をしていた。
一室に重い空気が漂う。
「……どうかしらね」
少しの沈黙の後、口を開いたのはベッドに腰をかけるメルゴだった。
「相手はあのゲラーテよ?あいつが勝てる保証なんてどこにも無いわ。いくらあんた達が信じてたって、結果はどうなるかわかんないもの」
メルゴの一言は、その場にいた全員の胸に強く刺さる。
信じていたところで結果が変わることは無い。
全てはメルティ本人次第なのだと、改めて感じさせられた瞬間だった。
「で、でも!!」
シキが口を挟む。しかし、その先の言葉が出てこなかった。
「違うわ、私達が信じてるから勝てるんじゃないのよ」
重い空気の中、スピカが再び口を開く。
「じゃあ何よ」
「勝つって信じて待つ。ただそれだけよ」
スピカの言葉に、メルゴは軽く身体を震わせる。
まるで心を撃たれたかのような、そんな感覚がメルゴの全身を駆け巡った。
メルゴはスピカの瞳を見つめると、彼女の眼差しに小さく目を見開く。
スピカだけでは無い。全員が同じ瞳をそこに宿していた。
「はぁ…………」
メルゴは深くため息を付くと、その視線を足元へと落とす。
「勝手にすればいいじゃない」
と、彼女は足を小さく揺らしながら、口を尖らせて小さく呟いた。
そんな彼女を見てスピカは微笑むと、次にその視線を椅子に座っているリゼットへと向ける。
「リゼット」
「…………………………ん?」
「私達は勝つことを信じて待ってる。けれど、メルティだって五体満足で帰ってくるとは限らないわ。だから、迎えに行ってあげて欲しいの」
スピカは軽く微笑みながらリゼットを見つめて告げる。
「……………………わかった」
リゼットはいつもの沈黙の表情で返事をすると、机の上に置いた人形を抱いて扉の前へと向かう。
重い空気が段々と軽くなっていくかのように、リゼットの足取りはどこか軽やかだった。
「行ってらっしゃい!!!」
シキが大きく手を振りながら、扉を開けようとするリゼットを見送る。
「き、気を付けてね……」
「帰り、待ってます」
ヴェーターとラミアもまた、彼女の背中を見つめながら小さく声を発した。
それぞれの言葉を受け取ったリゼットは、そっと人形を抱きしめる。
「……………………行ってきます」
リゼットは振り向かぬまま小さく声を漏らすと、静かに扉へと手をかけた。
彼女の後ろ姿を見送る四人の表情は明るかった。
リゼットも、メルティも、絶対に帰ってくる。そう信じるように、笑顔で彼女の背中を柔らかく見つめた。
「さて」
リゼットが部屋を去った後、スピカが小さく声を漏らす。
「アルケーとテンペスが起きたら、情報を頂きましょ。メルゴ、あなたからもね」
「わかってるわよ。って言っても、アタシが知ってることなんてほんのちっぽけなもんだけどね」
メルゴはわざとらしくスピカから視線をそらすと、その口を尖らせる。
敵陣だった二人が今目の前にいる。それは貴重な情報を入手する絶好のチャンスでもあった。
「ちっぽけでも、貰うものは貰っておくわよ」
「はいはい」
スピカの言葉に、メルゴは足元に視線を向けながら気怠げに返事をする。
「はいはいはい!!うちから質問!!メルゴって何歳なの!?」
「は、はぁ!?」
まるで空気を読まぬかのようなシキの問いに、メルゴが大きく目を見開く。
予想外のことを突然聞かれたメルゴは、驚いたようにシキを見つめた。
「なんで年齢なんか聞くのよ!」
「だって知りたいじゃん!!」
シキの純粋な質問に、メルゴは小さくため息をつく。
隣にいたスピカもまた、呆れた表情でシキを見つめた。
「二十一よ」
「えぇぇええええ!!意外と若いね!!!」
「意外って何よ!見た目通りでしょうが!」
シキとメルゴのやり取りに、ラミアとヴェーターは小さく微笑み、スピカは頭を抱えていた。
「シキ、少しは状況を考えなさい」
バシッ
「いたっ!!!」
まるで空気を読まないシキに、スピカのデコピンが飛ぶ。
しかし、スピカ達は気付いていない。
シキとメルゴのやり取りが、この重かった空気を無意識に軽くしていたことに。
ホテルの一室では、いつもと変わらぬような平和な日常がそこに訪れていた。
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メルティを探しに外へ出たリゼットは、人形の風魔法で小さく空を舞いながら進み続ける。
そして
「…………………………あっ」
リゼットは静かに地へ降りる。
そして、足を止めて沈黙の表情で視線を一点に向けた。
その先へ進むことを、身体が拒んでいるような感覚が胸を伝う。
彼女の視線の先には、一人の人影が倒れていた。
その胸を、一本の氷の結晶が貫いている。
月明かりが、その光景を静かに照らしていた。
「………………………………」
リゼットは何も言わなかった。
ただ、黙ってその光景を静かに見つめることしか出来なかった。




