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水平線を超えて渡る青い空と海  作者: 破魔 七歌 


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4/12

4.なんか、このクラスって……

 





 新学期──。新しいクラス。

 始業式の後、早速クラス替えの発表があって、私はミサキと新しいクラスにやって来た。──と言っても、誰もミサキの存在には気づかない訳だけれども。

 最初は名前の順。出席番号順って言うのかな。そのはずなんだけど……。壇上の黒板に番号をチョークで書かれた座席表を見る限り、海が見える窓際の席。一番前。どうやら今回は、そこが私の最初の席になるらしい。けれど──。


「あぁ、もぅ終わった……。まさかの誰も知らん子ばっかりやん? 少子化の影響? 私だけ一人やん? 皆、キャーキャー言うとるのに、こんなクラスにぶち込まれるとは……。早々に浮いてもとるやん、私」

「ま、まぁまぁ。わ、私が居るじゃないですか? 不安なら私が、ずっとついて居てあげますから。ね?」

「うん。ずっと、ついて居て……ミサキ」

「了解っ! 大丈夫! 私が美世ちゃんを守ってあげるんだからっ!」

「うん……ずっと守って」


 私は、新しいクラス替えと言う現実を受け入れられずに……椅子に座ったまま机に顔を俯かせて項垂れていた。ミサキは、幽霊女子なのに私を逆に元気づけようとしてくれている。健気だ……。とっても良い子だと思う。


「わぁ! 美世! 同じクラスなんだ?! 嬉しい! 実家の民宿旅館、いつも大変だね? あ、大樹は……?」


 自覚のない底抜けに明るい声──。思わずビクッと身震いした。藤堂陽菜だ。前クラスの中心的な存在。男女から人気の高いカリスマ。髪金にポニーテール。一年生の時に東京? 都会から転校して来た。その愛くるしい瞳と屈託のない無邪気な笑顔に、誰もが惹き寄せられる。それ以来、何かと皆からの注目の的。羨ましい。


「え? あ、あぁ、よろしく、陽菜……。同じクラスだね……ハハ。た、大樹? さ、さぁ?」

 

 机から顔を上げた私の頬に、自分の茶色い栗毛の長い髪がくっつく。笑顔が引き攣る。苦笑い。なんで私に大樹のこと聞くかな? あぁ、そうそう。大樹って大会前になると吹奏楽部に呼ばれてピアノ弾いてたりする。この子はサックスって言う楽器担当らしい。派手かと思いきや、しっとりと聴かせる音色。なんで知ってるかな、私……。


「なんか、すっごく明るそうな女の子ですね? 私みたいな?」

「ハイハイ。ミサキは明るいよね? って、?!」

「? 美世? なんか言った?」

「いやぁ、何でもない! なんでもない……」


 コソコソと耳打ちしたミサキの声に思わず反応してしまった。陽菜にもミサキのことが見えていない。曇りなき瞳で、陽菜が不思議そうに私を見つめている。うっかり独り言は要注意だ。これから気をつけなきゃ。私は一瞬だけ人差し指を唇に当てて、ミサキに黙っててって合図をした。ミサキは唇を手で隠すようにしてフフッと笑っていた。


「あ、陽菜……同じクラスなんだ? よろしく。美世も? これって、何かの縁? なんか、不思議……」


 静かな声──。なのに透明感があってハッとさせられる。振り向くと、私の制服の内側で背筋がゾワッとした。

 斉明寺凪……。凪は、地元の名家のお嬢様。大きな御屋敷と広いお庭からは、いつもフルートの美しい音色が聴こえて来る。私と陽菜と同じ前のクラス。吹奏楽部所属。誰とでも打ち解けられるのに、誰にも汲みしない。まさに孤高の存在、高嶺の花。黒髪ツインテールにして、その凛とした性格は、男女からの憧れの的。隠れファンも多い。知っている自分が嫌になる……。


「大樹くん……。居ないか」


 凪が辺りを見渡してから溜め息をついた。いやぁ、モテモテですなぁ、大樹クン。って、凪……大樹って言った? えぇ? この子もっ?! 陽菜に続いて、なんで大樹? そんなに好き? いやいや、吹奏楽部関連で何かあるんかな? 聞きたくないけれど……。


「音大受験──、副科ピアノのことで大樹君にお願いしようかなって……」

「あ! そうそう! 一緒だよね? 私も大樹のこと探しててさ? 同じクラスっぽい噂を聞いたんだけどなー。違った?」


 お、音大受験っ?! ふ、副科ピアノ──?! って、何それ? 少し不安になる。得体の知れない焦燥感に駆られる。やっぱり皆、進路のこと考えてるんだ。何をしているんだろうか……私。もしかして、大樹も?

 って言うか、陽菜の情報網のスピードには驚かされる。けど、え? やっぱり大樹も同じ新しいクラスなんかな? 実は廊下で一瞬だけ、大樹の背中──後ろ姿を見かけた。けれど、何処かへ直ぐに居なくなってしまった。違ったかな……。陽菜が言うように。


 私の席を学年2トップのビジュアルの頂点を担う女子二人が囲んでいる。あり得ない──。クラスの皆の視線が自ずと私の居る席の方へと向く……。何だ? コレ──。

 ちょっとだけミサキの方を振り向く。ちょんちょんって指先を突っつく様にして、ミサキが私の席の後ろを指さしていた。


「あ、大樹……居ない? 新浜さん見かけたから、もしやって思ってたけど」


 えーっ?! お、沖野悠真っ?! な、なんで沖野君まで?!

 お、同じクラス──。そう言えば、大樹って沖野君と仲良かったっけ?


「い、いやいや! ま、まさかっ! い、いつも大樹と居る訳じゃないし……」

 

 沖野君は、センター分けがこの上なく良く似合う今時の男の子。陽菜と凪と同じ吹奏楽部所属にして、勉強も運動もソツなくこなす。難易度が高いオーボエと言う楽器を容易く奏でる──。その旋律と美しいビジュアルは、男女を問わず虜にする罪深さ。ギルティ。なのに清廉潔白にして爽やかさが過ぎる佇まい。

 しかし、おぉっ?! な、なに……その甘ささえ漂う髪を掻き分ける仕草……。眩しく突き刺さるそのオーラ?! ま、まさに神様に愛されし申し子?! ハァハァ……な、なに言ってんだ、私。心の中で……。


 けど、沖野君、なんで私が大樹と居るって思ったんかな? うーん。幼馴染みでは、そりゃああるけどさ? べ、別に私は大樹のこと──、いや……何を期待しているんだろうか、私。大樹も同じ新しいクラスだったらって……。


「なんか、すっごい絵に描いたようなイケメンさんですよね? その神々しい光に私、成仏しちゃいそうです……」

「ま、まって! い、いかないで!! 成仏しないでっ!! ミサキ!!」

「成仏……ミサキ? 大樹のこと聞いたんだけど……? 新浜さん、目の下すっごいクマ……出来てる?」

「え?」


 しまった──。またしても、やらかしてしまった。そして、目の下のクマ……。なんか興奮してて忘れてた。なんか、眠気も吹き飛んでて。

 ミサキも、しまったって顔をして手で口を覆って私を見た。私も瞬きをしてミサキを見つめた。

 陽菜と凪が、私を不思議そうな顔をして覗き込むと、一瞬、クラスのざわめき声がシーンと静まり返った。


「と、藤堂さん? さ、斉明寺さんも一緒なんだ? 新浜さんと……」


 お、沖野君が、ちょっと挙動不審になってる? なんなん、この空気──。気まずい? 大樹、別のクラスなんかな……。ね、願わくば、大樹……。は、早く私のクラスに──、来て。


「あ! 悠真君! そうそう! 大樹が、このクラスかもって噂を聞いたんだけどなぁ。知らないよね?」

「悠真君も一緒か……。じゃあ、後は、大樹君だね。必須科目、音大受験の副科ピアノ──、陽菜も悠真君も大樹君に教えてもらうんでしょ?」

「ハハ……バレたか。そう、僕も副科ピアノのことで大樹のこと探してて。少なくとも高3の春から副科ピアノの練習をしないとね? けど、居ないよね……」


 な、何?! やっぱり副科ピアノっ?! 音大受験に副科ピアノって、そ、そんなの初めて聞いた……。私だけ、置いてけぼり──。

 しかも四人は、大樹を下の名前で呼び合う仲──。そして、陽菜に至っては大樹を大樹呼びする仲?! い、いや、知ってたけどさ……。わ、私だって大樹のこと、大樹って呼ぶんだから……。


 そんな中──。突然、教室の前の扉が開いた。


(ガラガラ……)


「あ、あれ? 皆、一緒なの? クラス……間違ってないよね?」


 なんだ? その、ベートーヴェンみたいな寝癖と髪型は? なにキョトンとしてんの? 最初の一言が、それ?

 春風大樹──。いつも、ボーッとしてて眼鏡の奥で何考えてるか、分かんない人……。天才は遅れて来るのか?

 よく見ればイケメンにも見える私の幼馴染みは、今まで何をしていたのか……猫背気味の背中を少し丸めて、私の隣の席に座った。



 



 



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