11.どうにもこうにも、なんだかな……
それから──。例のお約束イベント。御守り購入へと皆で社務所に立ち寄った。ユーレイの我が友、無二の親友であるミサキも一緒だ。
「ねぇねぇ! 凪? コレ、可愛くない? 楽器入れる鞄かリュックに着けちゃぉっかな?」
「うーん。私は、これかな? やっぱり値段とともに効果は比例すると言うか。御札にしたいけど、携帯するには、ちょっと……」
相変わらず。陽菜と凪の仲には入って行けない。隣を見ると、沖野君と大樹も何やら御守り選びに、ご執心なご様子だったけど。
「うーん。迷うなぁ。アレもコレも……どれも全部良い。大樹は?」
「いやいや。流石に自分ん家の御守りだし。悠真が気に入ってくれるのは、とっても嬉しいけど……。僕は、父さんと……この神社でお祀りして居るからね」
うーん。まぁ、大樹は自分んとこの御守りだし。そりゃあね? なんも持ってなくても、大樹には大樹ん家の神様が、大樹にはしっかりとついて居てくれてるような気がする。沖野君には、物珍しいかもだけど。
すると、ミサキが、ちょんちょんと横から指先で私の背中を突っついて来た。
「美世ちゃんは、御守り……買わないの?」
「ん〜。どうだろね? いや、何にしようかなって」
「やっぱり〝縁結び〟……とか?」
「いやいや! な、何言ってるのかなぁ……ミサキさん? そ、そんな、誰かとって……」
「決まってるでしょ。そこは、大樹君との恋のおまじないですよ。ガッツリと」
「わー! ちょ、ちょっと!! え?! み、ミサキさん?!」
焦った。思わずミサキの口もとを……んぐっ!と、手で覆ってしまった。
(聴こえてない? 誰にも……? ミサキは、ユーレイやったっけ。凪……も、陽菜と御守り選びに熱中してるみたいやし?)
見渡すと、他の皆が社務所のガラスケースの前で会話しながら、どれにするのか……まだ迷っているみたいだった。
すると、何を想ったのか──。突然、陽菜が私の方へと振り向いて来て……手招きしていた。え? 私も、こっちへ来いってことですか? い、嫌な予感がする。私は、ここでミサキと一緒に居られるなら、別に良いですけど……。
「美世は、どれにする?」
「い、いや、べ、別に……」
選べない。さらに御守りを選びにくくなった。良縁祈願……ましてや、縁結びなんて。もってのほか。
「あ、あぁ……ひ、陽菜は? な、凪も、ど、どの御守りを買うのかな?」
たどたどしく……言葉が上っ面と言うか。聞きたくもなければ、言いたくもない。
「私? んー。合格祈願もそうだけど、良縁祈願? いや、縁結びが良いかな? 色々と」
え、縁結び? い、色々と? い、意味深だな……陽菜。
「凪って、ズルいよね~。もぅ、早速の大樹のパトロンしてんじゃん? 私……ビックリしちゃったよ? ね、美世?」
そ、その話か……。わ、私に振られてもな……。返答に困るだけやんか。け、けど、ズルいよねって、言っちゃって良いのかな。隣に大樹が居る訳だし。それって、大樹に半分告白して居るような……。
陽菜の真っ直ぐに私を見つめる瞳に、苦笑いしか出来ない。な、なんて言おうか……。
チラッと凪の顔を横目に見ると、凪が涼しい顔をして私と陽菜を見つめて居た。
「ううん。なんて言うのかな……。お礼がしたかっただけ。まぁ、宣言どおり、私が大樹を押し上げるけど?」
やっぱり、流石の陽菜も凪姉さんには敵わない。一瞬、私の隣でビクッと怯んだ陽菜の笑顔が、引き攣っていた。けど、なに? 大樹を押し上げる? パトロン宣言に嘘偽りなく……ってコトなんかな。
大樹は……眼鏡の奥で黙って自分ん家の神社の御守りを見つめている。隣に居る沖野君の御守り選びの話しぶりに、頷きながら。
すると、陽菜が──、縁結びの御守りを手のひらに取って……何かを話そうと見つめていた。
「私……ね? 正直言うと、辛いんだ。皆と離れ離れになるって言うのも……そうだけど。特に、楽器の練習してると孤独だし、不安だし。一人、落ち込む。何が正しいんだろうって。けど、迷いは無いよ? だから、大樹や皆を……引っ張って行けたらなぁって」
その時──。サァッと風が吹いて……大樹ん家の神社の森から桜の花びらが目の前に飛んで来た。ふと見上げると、神社の森の上の方で桜が満開になっているのが見えた。岬さくら祭りの会場は、大樹ん家の神社から見て直ぐそこだ。今日も青空が晴れ渡っていて良いお天気だった。賑やかなお客さんたちの声とか、イベントか何かの音響が、私たちにも届いていた。
「だからさ……。〝縁結び〟買わない? 皆で一緒の御守り。あ、大樹もだよ〜? なぁんか大樹、一人で抱えちゃってるぽいからさ。ね? これからだよ……。大樹。音楽も未来も……私たち一緒に、繋がって行くのはさ」
今まで裏の読めなかった……陽菜の言葉にドキッとした。な、なんか……いつにも増して、陽菜が美人に見えた。とっても。
すると、隣に居たミサキがコソコソと何かを私に耳打ちして来た。
「今のとこ、良いとこ無しですよ、美世ちゃん? 何か気の利いたこと言っとかないと。大樹君や皆への印象が」
「……」
きっと凪にも聴き取れない、ミサキが耳打ちした小さな声。
確かに。確かに、そうだ。ミサキの言うとおりだ。皆に馴染めてない私が、今ここで発言すれば……きっと。皆と打ち解けやすくなる。そうだ……。よし。
私は──、さっきから熱くなっていた手と指先を……ギュッと握り締めた。音楽も未来も、陽菜が言うように……私にはまだハッキリとは見えては居ないけど。
「あ、あの……ひ、陽菜が言うように皆で、え、〝縁結び〟の御守りを……」
「あ! そうだね! 良い! とっても良いよね!! 〝縁結び〟の御守り!! だろ?! 大樹?」
「え、えぇっと……。ぼ、僕は……」
「じゃあ、ここにある〝縁結び〟の御守り──、全部ください」
「えぇっ?! 凪っ?! ふふ。凪には参っちゃうよね~? いつも、いつも。せっかく、私が良いコト言えたのにさぁ〜? ね、美世?」
「う、うん……」
お、押し切られた。わ、私の精一杯の勇気がこもった発言が。こ、この青春パワー。な、何なんだ。〝ザ・音大ズ〟?! あ、侮れない……。
私って、自分が想ってる以上に……。そして今、皆が私を想ってる以上に。とっても大人しい女の子になってしまって居る気がする。い、いつもは、こんなじゃ無いのになぁ。私、本当に。なんだか、影の薄い子みたい。
◇
それから──。皆が遠慮する中……。良いから良いからって、凪が皆の分の〝縁結び〟の御守りを購入して居た。全部同じお揃いの御守りを気前良く。
そんな最中。また陽菜が、今度はコソコソと私に耳打ちをして来た。ミサキみたいに。
「ね? 美世? 何をお願いしたの?」
陽菜の金色のポニーテールが、背中で揺れてる。すると、今度はミサキの方から私にコソコソと耳打ちをして来た。
「ドーンと、陽菜ちゃんに言っちゃえば良いんですよ、美世ちゃん? 私の大樹に近づくなーって。まぁココは、〝秘密〟か〝恋敵には教えられない〟ですかね? 〝それ言っちゃうとご利益が……〟ってのもあるし?」
ど、どうしたの? ミサキ……あ、悪魔? い、言える訳ないやん。そんなの……。まぁ、最後の〝ご利益が……〟ってのは、確かにそうかもだけど。
「いやぁ、私。寝ちゃってたからな……。ご祈祷の最中に。お願いしそびれちゃったかな」
これは、本当。本当のことだ。悔やまれて仕方がない。せっかくのチャンスだったのに。
私は、自分の栗毛にした長い髪を触りながら、陽菜の顔を見ないようにして居た。大樹の神社の神様にも、申し訳がない……。
「ふぅ~ん? 私は、てっきり美世が大樹と……って、お願いしたのかなって」
え?! なに、それ?! わ、私が大樹と?! い、いやいや。そこは、陽菜の方こそ。大樹と……なんて、願ってたんじゃないの? ──って、想ってしまうんやけど。
あからさまに、〝どうなん?〟って、今の私には陽菜には聞けない。凪なら、ストレートに聞いたかもだけど。
すると、陽菜が背中のポニーテールに……そっと触れた。陽菜の真っ直ぐな瞳が、私を見つめて居る。
「私ね? 美世が一番、大樹に近いって想ってるんだ」
「え?」
思わず陽菜から視線を逸らした。社務所の方を見ると、凪に沖野君が居て……大樹と、私の目が合った。皆が御守りの購入が済んで、こっちに近づいて来る。
(ザッ……ザッ)
神社の玉砂利を踏む──、三人の足音。私がもう一度、陽菜の方を振り向くと、陽菜が……ふふ、と肩に掛かったポニーテールを揺らして笑って居た。
「それとね? 美世、視えてるよ? 影……。ここ最近の美世。いつも影とお話してるよね? 変じゃない?」
ドキッとした。なんて言って良いのか。胸が……。陽菜にも。み、ミサキのことが陽菜には影みたいに視えるって、言ってたけど。
屈託のない、悪びれても居ない……陽菜の澄んだ笑顔。そう言うと、陽菜がクルリと私に背を向けて、凪と沖野君……大樹へと振り返った。
変じゃない──。変じゃないけど。なんか……胸を張って、ここにミサキが居るんだって……。陽菜にも凪にも沖野君にも言えなかった。それから、やっぱり、大樹にも……。




