決着?
リオンは進む。
一歩踏み込むたび、炎はさらに激しさを増していった。
ミーナはリオンに託した。
その思いが伝わっているのか、リオンの足は止まらない。
ミーナの意識は、もう限界に近かった。
だが、気を失えば、地面から突き出した刃は消える。
男を解放してしまう。
だから、意識を保つことだけに集中した。
動けない。
声も出せない。
ただ、こちらへ向かってくるリオンを見ることしかできなかった。
リオンの身体は炎に覆われていた。
輪郭さえ曖昧になるほどの炎。
煙を上げながら、男へ向かっていく。
男にも、焦りが見えた。
刃から抜けようと、無理やり身体を動かす。
血が流れる。
だが、ミーナの刃は抜けない。
その瞬間。
男は、動くのをやめた。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
叫び声。
全身に力がこもり、腕や顔に血管が浮かぶ。
次の瞬間。
バキィン!!
魔力の圧力で、刃が砕けた。
剣の欠片が舞う。
ミーナはその衝撃に吹き飛ばされ、地面に尻もちをついた。
声を出す余裕もない。
息は荒く、視界もぼやけていた。
それでも、上半身だけを起こす。
この戦いの結末を、見届けるために。
男の右腕に魔力が集まっていく。
終わらせる気だ。
ミーナにも、それが分かった。
そして、その瞬間。
ミーナは敗北を悟った。
リオンには、あの一撃を防ぐだけの魔力操作技術がない。
そう思ったからだ。
――だが。
諦めかけた、その時。
リオンを覆っていた炎が、ふっと消えた。
いや、違う。
炎は消えたのではない。
手の中へ収縮していた。
燃え盛る炎が、リオンの掌へ集まっていく。
凝縮された炎の玉。
リオンが考えてやったのか、ミーナには分からない。
それでも――勝機はつながっていた。
リオンの炎の玉と、男の魔力を纏った拳がぶつかる。
ドゴォォォン!!
衝撃が炎を弾けさせる。
ミーナの身体も地面を転がった。
うつ伏せに倒れる。
それでも、目だけは二人へ向けた。
炎の玉に、男の拳が弾かれていた。
体勢が崩れる。
男の身体が後ろへ流れる。
リオンは止まらない。
一歩、踏み込む。
今度は、拳に雷が宿った。
最速の雷。
歯を食いしばりながら、リオンは拳を振り抜く。
その拳が――男の頬にぶつかった。
ミーナの目が見開かれる。
倒れる。
そう思った。
追い込んで。
弾いて。
ようやく掴んだ勝利。
そう感じた。
だが――結果は違った。
男の上半身は、確かに後ろへ捻られていた。
だが、それは崩れたのではない。
男が自ら捻り、力を流したのだ。
そして。
左拳には、すでに次の攻撃が仕込まれていた。
メキメキ――。
骨が軋む音が聞こえる。
今までで最大級の“纏”。
男の視線が、ミーナへ向いた。
「君から教わったことだ」
静かな声だった。
「一撃で壊れるほどの魔力を込めることで、最大の力を引き出す」
男の左肘から左拳にかけて、膨大な魔力が集中していく。
「俺流で、真似させてもらう」
その“纏”は捨て身だった。
自らの腕を壊すほどの魔力。
だが、それゆえに――最強の一撃。
振りかぶられた男の拳が、リオンの頭上から叩き込まれた。
ドゴォォォン!!
衝撃が、リオンごと地面を抉った。
土が爆ぜる。
地面にくぼみができる。
リオンは白目をむき、完全に意識を失っていた。
男は、傷ついた足や腕に手を添える。
回復魔法。
抉れた傷が塞がっていく。
何事もなかったように、身体が元へ戻っていく。
ミーナは歯を食いしばった。
追い込んだはずだった。
リオンとの連携もうまくいった。
全てを出した。
それなのに。
結果だけを見れば、圧倒的敗北。
戦った相手は無傷。
息すら切らしていない。
魔力にも、まだ余裕があるように見える。
まるで、この先にいるバスタルと戦うことまで計算に入れているかのようだった。
男の顔に、最初のような余裕の笑みはなかった。
それでも、男は立っている。
ミーナへ視線を向け、静かに言った。
「君たちを笑った俺を、笑いたい」
「君たちは強い」
「ここまで追い詰められるとは思わなかった」
男は、一度息を吐く。
「でも、これが現実だ」
そして、続けた。
「バスタルを噂だけの男と言って、すまなかった」
「君たちを見れば分かる」
「彼は、本物だ」
そう言って、男はミーナに背を向けた。
バスタルを追うために、先へ進んでいく。
男の言葉は、ミーナたちを認めるものだった。
それは分かった。
だが――悔しかった。
全てを出した。
リオンとの連携もうまくいった。
捨て身で、限界まで戦った。
それでも届かない壁がある。
その現実を、突きつけられた。
ミーナは自然と、地面を拳で殴っていた。
声にならない声で、叫ぶ。
この敗北は。
きっと、一生忘れない。
ミーナにとって、記憶に残る敗北になった。




