つなぐ戦い?
「リオンさん――援護してください!」
そう叫んだ瞬間、ミーナ自身が一番驚いていた。
(……私、こんなに感情的になるなんて)
もっと冷静で、もっと大人で、感情を抑えられる人間だと思っていた。
だが、今は違う。
胸の奥で燃えている怒りが、剣を握る手にまで伝わっていた。
ミーナは戦い方を変えた。
攻めるためではない。
男の拳を流し、防ぐことに集中する。
ガギィン!!
拳と剣がぶつかる。
その衝撃を受け流しながら――意識を地面へ向ける。
次の瞬間。
ドゴォッ!!
地面から無数の刃が突き上がった。
男の目が、わずかに細くなる。
ライナ・ガードナーの魔法。
ミーナが模倣した魔法だ。
本家ほどの威力はない。
だが、その代わりに数、範囲、連続性では負けていない。
本来なら、地面に手をつかなければ精度は落ちる。
だがミーナは、剣を振るいながら、同時に地面から刃を発生させていた。
当然、代償は大きい。
刃はミーナ自身の足や腕もかすめる。
血が流れる。
だが――男は、それ以上だった。
刃が太ももを貫く。
腕を貫く。
腹を裂く。
「……っ」
男が初めて顔をしかめた。
ミーナは確信する。
(通用する……!)
男には自己再生がある。
だが、完全な自己再生ではない。
手で傷口に触れることで、回復の精度が上がる。
なら――回復する暇を与えなければいい。
男が後ろへ退こうとした瞬間。
ミーナは剣を伸ばした。
ギィィン!!
伸びた刃が男の腕を貫く。
さらに、胴をかすめる。
(逃さない)
捨て身の攻撃。
それが、男を追い詰めていた。
ミーナの戦い方は、模倣でできている。
それも、精度の高い模倣だった。
模倣しているのは、二人。
一人は――ライナ・ガードナー。
かつてバスタルと戦い、ミーナ自身が完膚なきまでに敗北した剣士。
もう一人は――ワンダ・スコット。
アルカニア帝国で騎士団隊長まで上り詰めた、黄魔道士。
ワンダ・スコットは、ライナ・ガードナー、アビル・エレノーラと並び、“三騎士”とまで呼ばれた存在だった。
武器変形の魔法。
剣を伸縮させる魔法も、その一つ。
ミーナの憧れであり、姉でもある人。
その二人の力を借りて、ミーナは戦っていた。
憧れた人を馬鹿にされ。
尊敬した人たちの力を借りて。
ここで負けるわけにはいかなかった。
男の顔から、余裕の笑みが消えていく。
だが、次の瞬間。
ゴッ――!!
男の拳が、ミーナの腹へめり込んだ。
「っ……!!」
息が止まる。
口から血がこぼれた。
身体が吹き飛びそうになる。
だがミーナは、背後に刃を出現させる。
壁のようにして、強引に耐えた。
(……回復させない)
離れない。
回復の隙を与えない。
そう意識していた。
だが、それでも今の一撃で、二人の間に距離が生まれる。
男の左手が、傷口へ触れようとしていた。
(まずい――)
そう思った瞬間。
バチィィィン!!
空から雷が落ちた。
「うっとおしいな」
男が声を荒げる。
空には、リオンがいた。
雷を纏いながら、男の頭上を跳んでいる。
男は魔力を上げ、雷を防いだ。
回復する暇を与えない。
リオンも、ミーナと同じだった。
男が拳を引く。
そこへ、魔力が集まる。
次の瞬間。
ドン!!
魔力の塊が放たれた。
――魔力弾。
“纏”を応用した遠距離技。
だがリオンは、楽しそうに笑いながら、空を蹴るように身体を捻り、全て避けていく。
男の顔が、さらに険しくなった。
「……腹が立つな」
リオンが雷を纏い、空を跳ねながら再び突っ込む。
ミーナも男へ向かおうとして――止まった。
(……今だ)
直感だった。
勝機は、今しかない。
ミーナは男へ向かわず、地面へ手をつく。
(決める)
男はリオンを見ている。
視線が逸れている。
今しかない。
リオンの拳。
ミーナの刃。
二つが同時に男を襲う。
だが――
「……え?」
ミーナの刃が、男を貫いた――ように見えた。
だが、感触がない。
リオンの拳も、空を切った。
男の姿が揺らぐ。
そして――消える。
「……幻影!?」
ミーナの顔が青ざめた。
悔しさで、歯を強く噛みしめる。
(なんで……白魔法しか使えないと思ったの……!)
男が使ったのは、光魔法。
赤魔法の一種。
光の屈折による幻影だった。
適性とは、効率の話に過ぎない。
白と黒を除けば、他系統の魔法だって使える。
リオンだってそうだ。
赤魔法で浮遊し、青魔法で雷を操っている。
なのに――なぜ敵は使えないと思ったのか。
ミーナは、自分の甘さを呪った。
幻影が消えた瞬間、男の実体が見えた。
幻影の背後。
そこに本物の男がいたのだ
右拳に左手を重ねている。
今までで、最も大きな魔力。
リオンは、まだ状況を理解していない。
ミーナには、それが分かった。
叫ぼうとした。
だが、遅かった。
ドゴォォォン!!!
男のアッパーが、リオンの腹へ突き刺さる。
空気が破裂したような轟音。
リオンの身体が、宙へ吹き飛んだ。
意識があるのかも分からない。
だが、ミーナにそれを確認する余裕はなかった。
男が、もう目の前に迫っていたからだ。
ドガガガガッ!!
拳の連撃。
ミーナは剣の峰で受ける。
流す。
受ける。
流す。
だが――間に合わない。
男の傷が、みるみる塞がっていく。
(……届かない)
ここまでやっても。
憧れた人を馬鹿にされ、捨て身で戦っても。
まだ、届かない。
拳が、顔に入る。
腹に入る。
視界が揺れる。
魔力も、もう限界だった。
顔に入った一撃で、意識が乱れる。
視線が逸れた。
その先で――
リオンが、立ち上がろうとしていた。
傷だらけで。
ふらつきながら。
自分より年下の少年が。
それでも、まだ戦おうとしている。
その姿を見た瞬間。
ミーナの瞳に、再び火が灯った。
防御に回す余裕はない。
私にできることは、一つだけ。
ミーナの意識が、地面へ向く。
次の瞬間。
ドゴォォォッ!!
無差別に突き出した刃が、男の足を貫く。
腕を貫く。
そして――ミーナ自身の太ももも、腕も貫いた。
「っ……あ……!!」
痛みで、声が漏れる。
男の目が、大きく見開かれた。
(姉さんが見たら……)
(精度が低いって、怒られるかな)
でも――ミーナは笑った。
痛みで震えながら。
それでも、誇らしそうに。
英雄とは、自己犠牲を恐れず。
見返りを求めず。
すべての責任を背負うもの。
それが、バスタルの英雄思想だから。
(……少しは、近づけたかな)
ミーナの笑顔を見て、男が震えた。
ミーナは、最後の力で叫んだ。
「リオンさんッ!!」
リオンが、ふらつきながら走る。
その身体から、炎が噴き上がった。
燃え上がる炎。
煙を撒き散らしながら、全力の突進が男へ向かう。
もう――意識は、ほとんど残っていなかった。
ミーナは、仲間へ勝利を託した。




