引きこもり生活?
サバイバル生活二日目
魔法の家の近くに、魔獣がいるらしい。
ロックベア。
名前だけ聞くと巨大な熊みたいだが、実際は子犬ほどの大きさのイノシシ型魔獣だ。
王都でも高級肉として有名らしい。
硬めの肉だが、脂が乗っていて絶品だとか。
「食べてみたいですね」
「うまそうだな」
そんな話で盛り上がり、俺たちはロックベアを捕まえに行くことになった。
サバイバル生活は想像以上に快適だった。
水もある。 火もある。 家まである。
……正直、完全に浮かれていた。
*
森を歩く。
リオンは木を垂直に走りながら登っていた。
……多分、魔法だろう
羨ましい
「上から探してくる!」
そう言って、木の枝を飛び回っている。
猿だな。
その時だった。
「見つけました」
先に見つけたのは、リオンではなくミーナだった。
ミーナは静かに目を閉じている。
また“感”とかいうやつらしい。
ロックベアは魔獣。 魔力を持っているから、感知できるのだとか。
「リオンー! 降りてこーい!」
木の上に向かって叫ぶ。
リオンと目が合った。
だが次の瞬間、あいつは露骨に顔を逸らした。
……無視しやがったな。
高いところが気に入ったらしい。
「……もういいや」
俺とミーナは、リオンを置いて先へ進んだ。
そして――
「……おお」
ロックベアの群れを見つけた。
大量だ。 小さい。 だが、丸々としている。
そして――うまそう。
俺の目が輝く。
猪型の魔獣と聞いていたから、もっと危険なやつを想像していた。
だが、これならいける気がする。
「子どもでも捕まえられますよ」
ミーナが平然と言った。
「おお」
その瞬間、俺の脳内で計算が始まる。
大量の高級肉。 売却。 借金完済。
――これが島の宝では?
わざわざ宝箱を探さなくても、この肉を売ればいいんじゃないか?
俄然やる気が湧いてくる。
「ミーナ。全部捕まえるぞ」
「はい。豚小屋でも作りましょうか」
「いい判断だ」
俺たちはロックベアへ向かって走り出した。
*
サバイバル三日目
俺は家に引きこもっていた。
昨日の元気が嘘みたいになくなっている。
ロックベアという強敵との激闘により、右腕を負傷していたからだ。
もちろん、誰にもバレないように隠している。
それだけは頑張った。
「子どもでも捕まえられますよ」
……あれは嘘だ。
俺がロックベアを捕まえようとした瞬間。
突進してきた。
避けられなくもない速度だったと思う。
だが、人間の体というのは意外と咄嗟に動かない。
そして右腕に、ありえない衝撃。
「っ……!」
声が出そうになった。
だが、一応英雄を演じているので耐えた。
俺は静かに後退し、ミーナへ告げた。
「……あとは任せた」
できるだけ英雄らしく。
するとミーナは目を輝かせた。
「なるほど……試練ですね」
「私の力を見るために、バスタル様は手を貸さないと」
とりあえず頷いておいた。
*
サバイバル四日目
腕はまだ痛い。
多分ヒビが入っている。
だって、腕が動かないもん。
俺は家に引きこもった。
三食、ミーナが運んできてくれる。
料理はやたら本格的だった。
ステーキのソースとか、どうやって作ってるんだ。
*
サバイバル五日目
変わらない日々を過ごした。
*
そして時は流れ――
サバイバル八日目
気づけば、完全に引きこもり生活になっていた。
ニート生活だった。
……転生前の俺じゃん。
腕は治っていた。
意外と軽症だったらしい。
食事は運ばれてくる。
寝る。 食う。 寝る。
最高である。
だが、その時ふと気づいた。
(……俺、これでいいのか?)
少女にご飯を作ってもらい、俺はただ寝て食っているだけ。
簡単に言えば――ヒモニート。
この生活は最高だ。
もう元に戻れる気がしない。
だが、流石にダメすぎる。
とりあえず。
体を洗うことから始めようと思った。
……で、どうやって体を洗うんだ?
ミーナはどうしているんだろう。
気になった俺は、久しぶりに外へ出た。
森の空気が気持ちいい。
忘れかけていた。
只今、サバイバル中だった。
外では、ミーナが料理をしていた。
火を出すコンロのような魔道具。 中華鍋。 大量の調味料。
「……本格的だな」
「あ、バスタル様。お久しぶりです」
首を傾げるミーナ。
確かに、顔を合わせるのは久しぶりだった。
ミーナの横に巨大リュックがあった
そうか。
俺は理解した。
あの巨大リュック。
調理器具が詰まっていたのか。
どうりで料理が本格的なわけだ。
「……ミーナ」
「はい?」
「あまり、甘やかすのはやめてくれ」
「? はい」
ミーナは不思議そうに笑った。
一応、注意しておいた。
これ以上ダメ人間になりたくない。
元に戻れるうちに始めなければ。
まずは――
「……体洗いたい」
するとミーナが立ち上がる。
シャワーヘッドみたいな魔道具と、タオルを持ってきた。
「これをどうぞ」
「魔道具か?」
「はい。ホースを水につけておけば、温度調整もできます」
「川の水を溜めてあるので使ってください」
「おお……便利だな」
異世界すごい。
俺が感心していると、ミーナが当然のように言った。
「あのー……よければ、お背中流しましょうか?」
「……いや、いい」
即答した。
ミーナは平然としている。
まるで介護でもするみたいな口調だ。
ミーナは俺をダメ人間にしたいらしい。
ヒモ英雄という、新しい存在になりそうだ。
*
部屋へ戻る。
ホースを水につける。
シャワーヘッドを構える。
……水が出ない。
シャワーヘッドをよく見る。
魔法陣のマークがあった。
(ここに魔力を流すのか?)
なるほど。
簡単だな。
「…………」
……俺、できねぇじゃん。
魔道具には魔力操作が必要だった。
終わった。
今さら「やっぱり背中流して」は言えない。
恥ずかしいし。
……やっぱり俺はダメ人間だ。
「……川行くか」
俺は小さく呟いた。
*
川の水は冷たかった。
全身を川につける。
自然の中で全裸になると、妙な開放感がある。
やっぱり引きこもりは良くない。
人をダメにする。
たまには外へ出るべきだ。
そう思った、その時。
ガサッ。
茂みが揺れた。
俺は固まる。
武器はない。
……まぁ、あってもだけど。
(やっぱり引きこもっとけばよかったか?)
さらに音が近づく。
そして現れたのは――
巨大な蛇の頭部。
「うおっ!?」
俺は後ろへ倒れ込み、尻から川に落ちた。
だが。
「何してんの?」
蛇は喋らなかった。
代わりに、聞き慣れた声がした。
蛇の頭を持っていたのは、リオンだった。
顔は泥だらけ。 服もボロボロ。
なのに、楽しそうに笑っている。
逞しすぎる。
もはや野生児だ。
「お前こそ何してる?」
「今日の飯取ってた」
リオンは巨大蛇を掲げる。
「色々食べたけど、猪よりこっちの方がうまかった」
「ああ……そうか」
普通に適応してやがる。
俺が呆れていると、リオンがニヤッと笑った。
「なぁ、師匠」
「面白い場所、見つけた」
「面白い場所?」
「うん」
リオンは楽しそうに言った。
「多分、あそこに宝箱あるよ」
その瞬間。
俺は、完全に忘れていたことを思い出した。
宝箱を見つけ、借金を返す。
そうだ。
俺たちは、そのためにここへ来たんだった。
サバイバルをするためじゃない。
ニート生活を再開するためでもない。
借金を返すためだ。
翌日。
俺たちは、リオンの見つけた“面白い場所”へ向かうことになった。




