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4話

 数年前のある日、イリンと共に王都を出発したクロマは、その晩アーシュと焚き火を挟んで向かい合っていた。

 俺も仲間に入れてくれと追いかけてきた彼に、クロマは勇者の使命を丁寧に語って聞かせる。

 最高神アルエギが授けた神託によって、自身に課せられた勇者としての使命。

 魔王を倒した勇者として凱旋するか、途中で力尽きて故郷にも帰れぬまま死ぬか。

 本意ではないままに選択を迫られたクロマにとって、能天気なアーシュの振る舞いは不快でしかなかった。

 だが、彼の目はクロマの心理を見抜いていた。

 言葉の端に焦燥を読み取ったアーシュが、呆れたように語りかける。

「なあいいか?俺は生まれついての孤児だが、お前の勇者って肩書きは後付けだ」

「勇者がどうとか話す前にさ、お前がどう思ってるのかを話せよ」

 勇者の重みに苦しんでいる者を前に、勇者など大したものではないと鼻で笑う。

 あまりにも自分と対極的な青年の言葉は、クロマの心にある淀みをあっさりと打ち消してみせた。

「オレの、気持ち……?」

「まあ、すぐにとは言わねぇさ。暫く俺の働きを見てから決めてくれよ」

 それって当分の間ついてくるってことだろう、と頭を抱えるクロマを横目に、彼は大きな欠伸をかました。

 その日から程なくして、クロマはアーシュを正式なパーティの一員として認めることとなった。


 ◆


 アーシュがパーティから脱退することが決まってからはや三日が経ち、遂に彼と勇者達の別れの時が訪れた。

 未だ朝日が昇らない早朝、町の端に築かれた門の下で、クロマとアーシュは向かい合っていた。

 何とも言えない気まずさの中、先に口を開いたのはクロマの方だった。

「……金の入った袋は渡したよな?」

「……おう」

「ちゃんと数えたか?」

「きっかり金貨10枚。もう俺の物だからな」

 他に誰がいるんだよ、と吹き出す親友につられ、アーシュの顔にも自然と笑みが浮かぶ。

 久方ぶりに見た彼の屈託のない笑顔に、クロマが目を細めた。

 いざ別れの時になって、ようやく彼らの関係が親友へと戻った瞬間である。

 後に続く会話には、先程までの重苦しい緊張はなかった。

「王都から出発した日の夜、君が俺に言った言葉、覚えてるか?」

「あー『肩書きに踊らされるな』的なやつだっけ」

「そうだ」

「あの言葉に助けられたって?」

「そうだ……何だそのにやつきは」

「いや別に~?『まるで生娘みたいなこと言うな』とか思ってないぞ」

「こいつ…!」

「いつまでやっとるんじゃ坊主ども」

 何やらいちゃつき出した二人を見かねたのか、門の外で待機していたオディゴーが割り込んできた。

 流石に無駄話が過ぎたと反省し、再び向かい合う。

「……じゃあ、元気でな」

「……おう、お前らもな」

 別れの言葉にしてはあっけないやり取りの後、クロマ達は次の目的地がある山の向こうへと去っていった。



「さてと、そろそろ行きますかね」

 パーティを見送ったアーシュは門に背を向け、ある場所へと赴いた。

 背負ったリュックサックには、金貨の入った麻袋と予備の短剣が入っている。

 大通りに入り、宿泊していた宿屋の前を更に進むと、道沿いに他とは一風変わった建物が姿を現す。

 東洋の雰囲気を感じさせる建物の正面には、『薬屋ダイコク』と書かれた看板が掲げられている。その上に乗る独特な形をした屋根を見た彼は、心の中で舌打ちする。

 反省もそこそこに中へ入ろうとすると、店内から箒を持って出てきた青年と鉢合わせた。

「おおっと、アーシュ様でしたか。これは失礼しました」

「いや、こっちも悪かったよ。入ってもいいかい、オーナ」

 今は箒で店前を掃く係となっているオーナは、先日に移動販売の屋台を押していた青年である。

 突如としてアーシュに拉致された彼だが、薬草の知識を持っているアーシュの助力もあって、何とか少女の母親を救うことができた。

 許可を得たアーシュは店の2階へ上がり、来客用という貼り紙が貼られた扉を開ける。

 部屋の中にいたのは、件の母子だった。彼に気付くと、少女が嬉しそうに駆け寄る。

「きてくれたのね!おにいさん!」

「はいはい来ましたよ。奥さん、体の方はどうですか」

「えぇ、おかげさまで随分と良くなりました」

 まだベッドの上から動けない母親だが、その顔には幾らか生気が戻っていた。

 少女も同じようで、不健康なまでに白かった肌は僅かに赤みを帯びるようになっている。

 アーシュが満足そうに頷いていると、扉を開けて一人の老人が入ってきた。

 キモノと呼ばれる異文化の衣服を纏う老人は、深い皺が刻まれた浅黒い顔を険しくしている。

 この薬屋の頭であるクナビという老人の顔は、彼がこれまで経験してきた人生の深さを思わせた。

 無愛想な職人気質の彼だが、事情を聞くや否や母子をこの店に招き入れた張本人でもある。

 邪魔する、とだけ呟いた彼は、母親を一通り診断した後にふうと力を抜いた。

「…薬が効いている。言う通りに飲んでいれば、じきに立てるようにもなるだろう」

「おじいちゃん!それっていつ?」

「…そうさな…早ければ二カ月、悪くてその倍だろう」

 子供には長く感じられたのか、少女は帰ってきた答えに口を尖らせる。

「…あんまり騒ぐとおっかさんの体に障るぞ」と警告したクナビが、初めてアーシュに視線を投げかけた。

 意図を察して共に廊下へ出ると、更に奥へと案内される。

 廊下の先の自室にアーシュを招き入れたクナビは、その鋭い眼光のまま彼に質問する。

「それで、例のモンは持って来たんだろうな」

「はいよ、約束通りの金貨10枚だ」

 アーシュが促されて机上に投げ出した麻袋に入っているのは、クロマが今後の資金として渡した大量の金貨だ。

 個人の保有ならば大金と言っても差し支えないが、薬代と母子をこの店に住まわせるのに必要な金額、更には少女の盗みを見逃す対価と考えると、それでもやや不足していると言われても仕方がなかった。

 全ての金貨を検めたクナビは、再びアーシュに視線を向ける。

「…きっちり10枚、確かに頂いた。約束通り、これでこの件は終いだ」

「それで手打ちにしてくれるんだ、文句はないよ」

「…フン、オメェさんが払わなくても良かったものを」

「俺にも責任が無い訳じゃないんで」

「…威勢のいいことだ」

 一見すると険悪な空気だが、当人達は案外気楽なようだ。

 その証拠に、普段は無口なクナビが己の方から質問を飛ばす。これで本日3回目だ。

「…オメェさんは、これからどうする」

「どうしましょうかね。ま、当面は気ままに一人旅ですよ」

 あっけらかんと答えるアーシュに、溜息が漏れる。

 片腕が満足に動かなくとも、彼の戦闘力は未だ驚異的である。

 なまじ力がある分、そのような無謀な考えを実行できてしまうだろうことは、クナビにも予見できた。

 人情を知らぬクナビではないが、この能天気な男に仕事を斡旋してやる気はなかった。

 既に薬屋には、商品の盗難に気付かない阿呆が一人いる。

 さりとて良好な関係を使って余所に引き渡したところで、この問題児が関係を崩壊させないとも限らない。

 結局のところ、利益の薄い博打に出るようなことはせず、早めに立ち去るのを待った方が得策なのだ。

 必然、店の前まで見送った彼に、クナビは何も言わなかった。

 しかし、去っていくアーシュを呼び掛けた者が一人いた。

「まって!おにいさん!」

 背中にかけられた声に振り返ると、銀髪を靡かせながら走り寄ってくる少女の姿があった。

「さいごにひとつだけきかせて」

 無論、彼に拒否する理由はなかった。

「しょうがねぇな、1つだけだぞ」

「おにいさん……あたしのあとをつけてきた()()()()()()()ってなに?」

 全く意識していなかった所から核心を突かれ、アーシュの思考が珍しく硬直する。

 子供の鋭さを甘く見ていたと反省し、平静を取り戻した彼は答えた。

「……俺も昔、大切な人に間違って薬を飲ませちまったことがあるんだ」

「だから、できればお前さんには同じ目にあってほしくなかった」

「…そのひとはどうなったの?」

「言ったろ、質問は1つだけだ」

 己の顔が平時の軽薄さを失っていることは、少女の表情を見れば分かった。

 鏡を見せられたような感覚に襲われた彼は、やや強引に会話を切り上げる。

「達者でな、お嬢ちゃん」

「フローア」

「ん?」

「おじょうちゃんじゃなくて、フローアだよ」

「そうか…フローアか」

 初めて知らされた彼女の名を噛み締めるように呟き、今度こそ別れを告げる。

「じゃあな、フローア。お母さんと元気に暮らせよ!」


 朝日がようやく町を照らし始めた頃、アーシュは新しい旅路へと踏み出していった。


Q.結局、あの母子何だったの?

A.モブの上位種



初投稿な上に、類似作品を碌に参照せず出来上がった作品です。

ここの部分〇〇氏の作品とモロ被りじゃこのタコォ!という方がおられましたら、感想・レビュー等でそっと触れて下さると幸いです。


見切り発車の上に最後まで駄文たっぷりと、色々と反省する箇所は多そうな初投稿でした。

何はともあれ、アーシュの追放物語はこれにて終了となります。

読者の皆様、ここまでのご愛読誠にありがとうございました。

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