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悪役令嬢に転生したので職務を全うすることにしました  作者: 白咲実空
第七章 猫かぶり
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6

翌朝も、いつも通りだった。

寮を出て教室に向かっている途中、すれ違う人に指を指され、陰口を叩かれる。

仕方がない。

平民だから、地味だから、皆と違うから。

だからしょうがないことなのだ。

それらのことを、学園に入学してからメリアは学んだ。

ヒソヒソ聞こえてくる声に耐えながら教室に入ると、教室にいた皆の視線が一斉にこちらを向いた。

ふと、違和感を覚える。

いつもは、教室に入った瞬間、こんなに視線を集めることなんてないのに。

いつもと違う点に若干戸惑ったものの、メリアは適当に席へ座った。

「平民風情が……。失礼とは思わないのか? 」

「どんな罰を受けることになるのでしょうね」

「さすがに今回の件は……」

それは、いつもの悪口。

でも、内容はいつもと少し違っていた。

失礼? 罰? 今回の件?

メリアが誰かに失礼な行いをして罰を受ける、ということだろうか。

だが、生憎メリアは誰かに失礼なことをした覚えはない。

目立たないように細々と生きているメリアは、そもそもあまり人との関わりがないのに。

頭に? マークを浮かべていると、教室の扉が開く音がした。

そちらを見ると、ヨナが複数の友達と談笑しながら入ってきた。

声をかけようかと思ったが、話を邪魔してしまっては悪い。

授業はメリアの隣に座ってくれるから、それで良い。

それだけで、十分だ。

「それでは皆様席についてー」

授業開始を知らせる鐘が鳴ると同時に先生が入ってきて、生徒達は各自席へ着く。

どこでも良いと適当に座る人。

前の方は嫌だと後ろに座る人。

仲が良い人同士で座る人。

「隣、良い? 」

「あ、はい……」

それは、ヨナの声じゃなかった。

メリアの許可を得たアイビーが、隣に教科書を置く。

「それでは前回の復習からはいりますが――」

先生が教科書を捲り授業を始めるなか、メリアはチラリと後ろに視線を向けた。

そこには、真面目な顔で授業を一生懸命聞いているヨナがいる。

メリアとは離れた位置に、ヨナはいた。

アイビーが隣に座ったから、遠慮したのか。

いや、アイビーは授業が始まるギリギリに声をかけてきた。

ヨナは早い時間帯に「お隣、良いかしら? 」と言ってくれる。

今日は友達と話していて遅くなった?

いやでも……。

思考を巡らせるも、答えはでない。

その時、ヨナと一瞬目が合った……が、ふいっと直ぐに逸らされる。

いつもなら、目が合えば笑いかけてくれたのに……。

「アルストロさん? 聞いていますか? 」

「あ、すみません……」

慌てて教科書に視線を戻すも、意識までは戻らない。

その日、どの授業でもヨナがメリアの隣に来ることはなく。

それどころか、ヨナはメリアに一言も話しかけてこなかった。



「メリア・アルストロ! ちょっといいかしら? 」

放課後、生徒会室に行く途中メリアを強い口調で引き止めたのは、この学園内で最もメリアを嫌っているであろう人物、ミアだった。

すれ違った時等に声をかけられることはあるが、こんな風にわざわざメリアの所に来ることはあまりない。

「なんですか? 」

「どういうつもりよ」

どういうつもり?

何のことだろう。

「惚けても無駄よ。あなたが行ったことは、既に学園中に知られているのだから」

「え……? あの、本当に何……」

「しらばっくれないでくださる!? あなたがヤナギ様の悪口を言っていたことよ! 」

怒っている、けれどどこか余裕のある笑みを浮かべているミアに、メリアは思わず「は……? 」と返してしまう。

「ヤナギ様のことを悪く言っていたのでしょう!? あなたみたいな分際で、よくも……! 」

「ちょ、ちょっと待ってください! 私はそんなこと言っていません! 」

「知らないフリをするおつもり? 貴方がヤナギ様について話していたこと、聞いた人がいるって言うんだから! 」

「だからっ、私はそんなことしてな……」

「お黙りなさい! 」

ミアがより強い口調でメリアを責め立てる。

「あなた、自分の立場分かってるの!? 」

「そうよ! 恥を知りなさい! 」

周りにいた取り巻き達も、メリアがヤナギのことを悪く言ったと信じている。

今朝言われた悪口の意味が、ようやく分かった。

ヤナギの悪口を言ったなんて、平民風情が失礼極まりない。

どんな罰を受けるのだろう。

皆、そう言っていたのだ。

メリアはそんなことしていないのに。

何故かそんな噂が広まっている。

「それで、どう落とし前をつけるつもりよ? 」

「まさかとは思うけれど、これ以上ここに居座るつもりじゃないでしょうね? 」

「ここ……? 」

「学園から出ていけってことよ! あなたみたいな子がいること自体、最初からおかしかったのよ! 良い? ここは貴族の学園なの! 貴方、自分が場違いだってことに気づかなかったのかしら!? 」

「ここは、貴族の学園じゃありません! 受験に合格すれば、平民でもいて良いはずです! 」

「この私に口答えする気!? 」

ミアがメリアの頬をバシッと叩く。

じんじん痛む頬を右手で抑えながら、下を向いた。

「調子にのらないように」

ここは廊下だ。今は人なんてメリアとミア達しかいないが、手をあげたことが見つかれば困ると思ったのか、ミアはそう言って取り巻きと共に去っていった。

「……なんで」

気づかないうちに、メリアの知らないところで勝手な噂が出来ている。

勿論メリアはヤナギのことを悪く言った覚えはないし、失礼なことだってしていない。

誰かが嘘を振りまいた?

メリアを陥れるために?

一体誰が……いや、そんなまさか……でも……。

その時、頭に過ぎった1人の人物。

昨日、ヤナギのことで話していた人物。

もしかして、彼女が……。

「メリア! 」

大きな声で名前を呼ばれたかと思うと、肩を力強く掴まれる。

咄嗟のことだったのでビクッと身体を震わせると、「あ、すまない……」と手を離した。

「アイビー……様? 」

走ってきたのかハァハァと息を乱すアイビーは、心配そうにメリアの瞳をじっと見る。

「あの噂のことなんだが……」

アイビーの口から出てきた言葉に、心が不安で埋め尽くされる。

アイビーも、あの噂を信じているのだろうか。

「ち、ちが……私は……」

震える声で何とか弁明しようと言葉を紡ぐも、言いたいことは中々出てこない。

「大丈夫だ。あんなの嘘だって、分かってるから。俺はただ、嘘だっていう確認をしたかっただけ。大丈夫。後は俺が、何とかするから」

「私のこと、信じて……くれるんですか? 」

アイビーの目を見ると、ふわりと笑った。

「信じるよ。当たり前だろ? 」

良かった。アイビーはメリアのことを信じてくれていた。

そのことにほっとしたのか、肩の力が抜けてへなへなとその場に座り込む。

「よ、よかっ……。私っ、誰にも信じて……」

安心したメリアの背中を、アイビーが優しく撫でてくれた。

「それじゃあ、後は俺に任せてメリアは生徒会室に行って、造花作りを進めてくれ。皆いると思うから」

それは、とても頼れる言葉だった。

安心して寄りかかれる言葉で、ついつい甘えてしまいそうになる。

でも……。

「いえ。もう大丈夫です」

ふわりと笑って、メリアは言った。

「この件に関してはもう……いいんです」

クビを横に振りながら言うと、アイビーは目を丸くした。

「何故だ? このままじゃ、メリアは……」

「私が嫌われてるのは、元からですし。今更弁明なんて、必要ありません。それに……」

アイビーは信じてくれている、それが分かっただけで十分だ。

「メリア? 」

「いえ、何でも。それじゃあアイビー様、一緒に生徒会室に行きましょう? 」

蟠りが完全に消えたわけではない。

だが、何よりこれ以上アイビーに迷惑をかけるわけにはいかなかった。

アイビーには、虐められている時助けて貰ったり、話を聞いて貰ったりしていた。

また頼ってしまうのは、申し訳ない。

「……分かった」

口ではそう言いつつも、顔は納得していないと書いてある。

そんなアイビーに大丈夫だとニッコリ笑いかけると、アイビーの目元がふっと和らいだ。

でも、その目はどこか心配そうな色を帯びているように見えた。


例え悪口を言われても、虐められても、信じてくれる人がいるならそれで良い。

メリアが虐められるのは、仕方のないこと。

平民である以上、差別されるのはしょうがない。

周りと違って1人ワンピースだし、地味だし、のろま。

淑女のマナーだってなってない。

そんなメリアは、虐められて当然なのだから……。

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