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生徒会室に入ると、メリアとヤナギ以外のメンバーは既に出揃っていた。
「遅れてしまい申し訳ありません」
「わ、私もごめんなさい。お昼休みも来るって、知らなくて……」
謝ると、造花から顔を上げてアイビーがこちらを見た。その顔は若干青白く、見るからに疲れきっている。
「ああ……。これは別に個人が勝手にやってるボランティアみたいなものだから……絶対昼休みに集まらなくてはいけないわけじゃないし……。だがまぁ人手が増えるのは助かる……。ヤナギはこっちの百合を……メリアはセルフに教わりながら青薔薇を頼む……。俺はブレイブにピンクの薔薇を教わ……あ、また針が指に……」
「え、ちょ、大丈夫ですかアイビー様? 小指から血が……」
「大丈夫だ。もう見慣れたからな……」
「アイビー様、どうしたんですか? やたら疲れているようですけど……」
手元の薔薇に目線を戻すアイビーを心配すると、代わりに答えたのはブレイブだった。
「アイビー様は俺たちが来るより先にずっと作業をしてくれていてな……。寮に持ち帰ってやってたぐらいらしいし。ちまちました作業を不器用ながらに頑張ってくれていたんだ」
「そうだったんですか……」
アイビーは薔薇に付ける細々としたビーズ等のパーツを数を間違えないように「1つ、2つ、……」とぶつぶつ数えながら震える指先で完成に近づけていた。
「こんなこといっちゃいけないのは分かってますけど……なんというか、とても王子には見えませんよね」
ズバリメリアが言うと、ブレイブとセルフも深く頷いて「だな」と同意してくれる。
「それじゃあメリアは俺が教えた通りに作れ。いいな? 余計なことはするな。俺が教えた通りにするだけでいいからな? 」
セルフがメリアに隣に座るように促しながら、強い口調でそう念押ししてくる。
「わ、分かってますよ! 余計なことはしません! 変な所縫ったりビーズの量足したりしません! 」
青い薔薇の布を手に取り、まずは使うだけの量をハサミで切った。
「じゃ、ヤナギ様は僕の隣来てくださーい! 」
別の机で作業していたシードが座っている位置を少しずらしてヤナギの分の席を開ける。
「では」と言ってシードの隣に座るヤナギを見て、ブレイブの眉が少し動いたのはメリアの気の所為だろうか。
シードとヤナギが作業する机では、カルミアとその他1年生3人がいた。
少し太った男ガルマと、シードが命名したガリガリ1号とガリガリ2号がカルミアに造花作りを教わっている様子。
「ここ、雑すぎる。もう少し丁寧にできないのか」
「は、はい……すみません」
「ねぇ1号、お茶入れて〜」
「おい! 勝手に命名した癖に更に短縮して呼ぶんじゃねぇ! ガリガリをちゃんとつけろ! 」
「え、そこ気にするの? 」
わいわいと楽しそうな雰囲気に比べて、こちらはなんだかどんよりしていた。
いや、どんより、というか黙々と作業しているだけなのだが。
静かすぎる。どちらかというとメリアは楽しんで作業したい派なので、どうにも落ち着かずにそわそわしてしまうのだ。
「おい、何そわそわしてんだ」
手が止まったメリアを見かねてセルフが聞くも、なんでそわそわしているかは分かっているのだろう。
「なんでって……。セルフ様も思いませんか? 静かすぎるっていうか……もう少し楽しんでやらないと、ただでさえ大変な造花作りも捗りませんよ? 」
「まぁ、それは確かに……」
同じ気持ちだったらしいセルフは、視線をブレイブに寄越した。
「なぁブレイブ、何か面白い話してくれよ」
話を振られたブレイブが、神妙な顔で首を捻る。
そんな話より真面目に作業しろ、と言わないあたり、ブレイブも退屈に思っていたらしい。
「面白い話……ないな」
「え、そんなないものですか? 」
「そもそも普通に暮らしてて何か面白いことがあったとしてもそんなのいちいち覚えてない」
「ま、基本剣しか目にないもんな。って、俺もだけど。アイビー様は? 」
「……昨日机の上に置いてあったビーズ箱を床に全部落とした時の話をしようか? 本当に大変だった……。全部拾ったと思ったら誤ってまた……は、はは……。負のエンドレスだったな……」
「いや、それはいいです。その話はしないでください。面白くないし」
セルフがキッパリ断り「面白い話はねーか」と諦めたように言う。
そのセルフに、メリアはキラキラとした瞳を向けた。
「……何だよ」
「いえ。私には聞かないのかなー? って」
「何かあるのか? 面白い話」
「ありますよー! それはもう面白い、というか、最近嬉しかったことなんですけどー」
意気揚々と語り出すと、3人の目が興味あり気にメリアに集まった。
その視線を受けて、メリアは実に自慢気に、口を開いた。
「私、初めて友達ができたんです! 」
そうドヤ顔で決めると、思っていた反応とは違った、何か哀れみを含んだ目が3人、そして、隣で作業していたテーブルのヤナギを外した5人、計8人の視線がメリアを突き刺した。
「え、何ですかその可哀想なものを見るような目は」
「いや、うん……すごい。よくやったな、うん」
セルフが遠い目をしながらそう言ったが、褒めて暮れていると思って良いのだろうか。
「あ、でも初めてとはいっても、村ではちゃんと友達沢山いましたからね! ただ、学園でできるのは初めてってだけの話で……」
「ああ。そういえば、最近はお昼ベンチのところにいないもんね。誰かと食堂にでも行ってるの? 」
シードの質問に、メリアはえっへんと大きく頷いた。
「美人で優しくて、もうほんと、憧れの女性って感じなんですよ〜」
それに何かいい匂いする。
お花のような、太陽のような……そんな温かい香り。
「こんな私にも話しかけてくれるし……」
そこまで言うと、ブレイブとセルフが意外そうに目を小さく見開いた。
「その、デリケートな話だったらすまないが……メリアって、学園では……」
ブレイブが遠慮がちに口を開いた。
しまった。心配させてしまっただろうか。
「……はい。あんまり友達できなくって」
「メリアちゃん、虐められたりしてるんだよー? 」
「え、虐め!? 」
シードが不機嫌な口調で言うと、真っ先に驚いたのはセルフだった。
ブレイブも、少し驚いたような顔をしている。
普段ブレイブは騎士、セルフは騎士の養成所にいるのだから、学園でのメリアは知らなくて当然だ。
「あ、虐めっていうか、その……ちょっとした言い合いというか……」
「いやいや、どう見てもあれ虐めでしょ。この前なんて、突き飛ばされてたし。言い合いなんて、メリアちゃんが一方的に責められてるだけじゃん」
「まぁ……えっと……」
ただ新しい友達ができたことを言いたかっただけなのに、自分で墓穴を掘ってしまったようだ。
心配してくれるセルフとブレイブに申し訳ない気持ちが募っていく。
「だ、大丈夫ですよ。確かにいろいろ言われてたりしますけど……もう慣れましたし! 」
「慣れちゃ駄目だろ、それ」
ボソッと言われたセルフの言葉になんと返して良いか分からなくて、「あはは……」と曖昧に笑っておく。
「メリア。何かあったら、俺に相談してくれ」
唐突に言われたそんな台詞に、驚いて声の主を見る。
そこには、真っ赤な目をまっすぐに向けてくる、アイビーがいた。
「今度は、ちゃんと助けるから」
「今度? いや、アイビー様はいつだって、私を助けてくれていますよ。逆に、何でもかんでも頼りすぎちゃって、申し訳なく思ってるくらいで……」
「ごめん」
一際大きく聞こえたそれに、メリアの肩が小さく揺れる。
「え? アイビーさ……」
「ちゃんと、注意しておくから」
ハッキリ言われて、これ以上何も言えなくなる。
何か決意を固めたような、そんな瞳。
気まずい空気が流れているのが肌で分かった。
元はメリアが振りまいた種だ。最後はメリアが回収しなければならない。
話題を逸らすことも考えたが、あからさまな話題転換は皆に気を遣われてしまいそうな気がした。
「そ、それで、友達になってくれた人のことなんだけど……」
虐め問題からは離し、話題を元に戻す。
そうすると、周りもメリアの気持ちを察してかのってきてくれた。
「そうだ、美人で優しい人なんでしょ? ねぇ、おっぱいは? おっぱいはどのくらい大きかっ……ゴフッ! 」
「おまえは何を言っているんだ。こんな女性もいる場で」
「そ、それはすみませんでしたけど、でも頭殴ることはないでしょ!? カルミア様、暴力は禁止……痛い痛い痛い! 髪、髪引っ張るのは止めて! 」
「それで、何ていう名前の子なんだ? 」
さっきの厳しい目付きとは違った穏やかな表情で、アイビーが聞く。
それにメリアは頬をポリポリと掻きながらはにかんで告げた。
「えっと、ヨナ様っていう子なんですけど……」
ガタンっ。
大きな音が響いて、視線がそちらに注がれる。
音を立てたのはシードで、ソファから落ちた時に机を揺らしてしまったらしく、尻もちをついた状態のシードがいた。
「大丈夫ですか、シード様」
「ああ、うん。ありがとうございますヤナギ様」
ヤナギが伸ばした手をシードが掴み、痛むお尻を抑えながらソファに座り直していた。
「ヨナ様、か……」
「? シード様、知ってるんですか? 」
「うん、ちょっとね……」
知り合いというのに、その目は真剣味を帯びていた。
ヨナと知り合いなら、喜びそうなものなのに。
「メリアちゃん、ちょっといい? あ、皆は作業しててくださーい。ヤナギ様は休んでて良いですよ! 」
「は? ちょ、シード勝手に……」
「じゃ、セルフ様ばいばーい! 」
「あっ、おい! 」
腕を引かれて、生徒会室から一旦退出させられる。
シードは、さっきセルフにばいばいした時とは打って変わって、鋭い目をメリアに向けた。
「シード様? 何か……」
「メリアちゃん」
低い声で、でも怒っている感じではなかった。
どこか、焦りのような、迷っているようにも見える。
「ヨナ様はやめといた方がいいと、僕は思う」
告げられたのは、そんな台詞だった。
「僕は」と付けたのは、やっぱり迷っていたからなのか。
メリアの脳裏に、初めて言葉を交わしたあの日、ヤナギのことを冷たい瞳で見ていたヨナの姿が過ぎる。
揺らいだ瞳を逃さないというように、シードはメリアをじっと見つてくる。
「……どうしてですか? 」
小さな声で、そう返した。




