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悪役令嬢に転生したので職務を全うすることにしました  作者: 白咲実空
第七章 猫かぶり
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3

ヨナと話したあの日から、メリアはほぼ毎日ヨナと行動を共にするようになった。

朝教室に行けば「おはよう」と挨拶して、移動教室は一緒に行って、お昼もヨナがいてくれるおかげで食堂で食べることができる。

頭の良いヨナはメリアに勉強を教えてくれるし、授業中も隣の席に座って寝ていたらこっそり教えてくれたりした。

「ヨナ様、次の授業何でしたっけ? 」

「次は薬学の授業よ。実験室に移動らしいから、早く行きましょう」

「そうだね……あ」

平民であり、村出身のメリアは敬語はあまり使い慣れていなかった。

村の人達は皆顔見知りで、年齢関係なく親しく話していたから。

ついうっかり、とヨナを見ると、ヨナは少し眉間に皺を寄せて頬をプクッと膨らませていた。

少し怒っている顔もたまらなく可愛い。

「メリアさん? 」

「す、すみませんヨナ様! 偶に素に戻っちゃう時があって! 気をつけてはいるんですけど……」

「それでも、そういうのは社交界では通用しないのよ? もし私より身分の高いお偉いさんとかだったら……」

「そ、そうですよね……すみません」

しゅんとなって謝ると、ヨナは顔を和らげてメリアの肩をポンと叩いた。

「全く……。これからは気をつけてね? 私も、貴方のために言ってるんだから」

「はい……って、ヨナ様時間! 」

「あら本当! 早く行きましょうか」

そうして、慌てて2人で実験室へと向かった。



お昼休み。いつもならヨナと一緒に食堂に行くのだが、今日はそうはいかなかった。

「お昼は他の方とのお約束があるのだけれど……その……」

モゴモゴと口篭りながら困ったような顔をしてヨナは言った。

ヨナは美人で頭も良くておまけに優しい。

そんな人は当然、メリア以外にも友達はいる。それも沢山の人数の友達が。

「他の方との約束があるのだけれど、メリアさんも来る? 」そう言いたいのだろうが、メリア相手に無闇にそんなことを言えないと気遣ってくれているのだろう。

メリアはヨナと違って沢山の人から嫌われているのだ。

そんなメリアがいきなりヨナの友達とのお昼に混ざるとなれば、友達の方は良い気はしない、寧ろ場がシラケてしまうに違いない。

メリア自身もそんなこと望まないので、あまり気が進まないと言うのが本音だった。

ヨナの意図を察して、メリアは丁重にお断りさせてもらう。

「すみませんがヨナ様、私は遠慮しておきます。でも、私なんて気にせず楽しんできてください。私もお昼は用事があったので、丁度良かったです」

そう言うと、ヨナはほっとしたように「そう。それじゃあね」と言って教室を出ていった。

勿論、用事があるなんていうのは嘘だ。

そうでも言わないとヨナはメリアに対して、きっと申し訳なく思ってしまうだろうから。

「……どうしようかな」

今日は食堂に行けそうにない。

今までも何度かヨナと都合が合わなかったことがあり1人で食堂に行ってみようとチャレンジしたことはあったが、未だに成功した試しはない。

1人だとやはり周りから嫌な目を向けられて、何だか気後れしてしまう。

となると、メリアにできることは1つだ。



野菜とハム、その他マヨネーズ等の調味料をパンに挟む。

その工程を何回か繰り返し、数種類のサンドイッチを作ってバスケットに入れ、寮を出る。

食堂に行けない日は毎日こうやって、自分でお弁当を作って1人で食べていた。

向かった先はいつもの中庭。

噴水前に設置されているベンチは、放課後は恋人同士が座っているところをよく目にするが、お昼休み中はあまり人がいない。

中庭だけじゃなく、皆食堂を使っていてそもそも外にあまり人がいない状態となっているのだ。

だが、ベンチに座ったところでまた腰を上げた。

「そうだ。ゴマにご飯あげないと……」

ゴマはこの学園に住み着いている黒猫だ。

この前メリアが時間つぶしに花壇の方へ行ってみると、そこに1匹の黒猫が日向ぼっこをしているのを見かけた。

「にゃあぁ」と可愛らしい声を発して地面にこてんと蹲り眠ってしまった姿は、メリアのハートを一瞬で撃ち抜いた。

はわわわと興奮しながら眠っているその可愛らしい寝顔に近づき、微かに耳に触れた途端……大激怒した。

「フシャー! 」と明らかに敵対視され近づけていた手を強い力で引っ掻いて、そのまま茂みの中へ飛び込んで行くその姿を、メリアはポカンと眺めていた。

それからというもの、メリアはその黒猫に「ゴマ」と勝手に名前をつけて心の距離を近づけようと努力しているが、ゴマには逃げられてばかり。

触るどころか、少し近づいただけで猫パンチを食らわして逃げてしまう。

「ゴマ〜ご飯だよ〜。今日はハムがあるよ〜」

花壇の傍にある茂みに向かってそう声をかけると、目的の主はひょっこり顔を出す。

今日も今日とてハムだけ貰いに来たのであろうその顔は、さっさとハムだけ置いてどっか行けとかいている。

「ほら、ハムだよ〜」

いつもならハムを地面に置いて食べてもらうのだが今日はそうしない。

目の前でぶらぶらとハムを見せびらかして、こちらに来てもらうように促す。

今日こそは、絶対触らせてもらうのだから。

「ほらほら〜。こっちに来ないとあげないよ〜? 」

そう言ってハムを目の前まで持っていく……と。

「へぶしっ! 」

メリアの顔面に強烈な猫パンチがお見舞いされた。

思わず手からハムを落としてしまい、その隙をついてゴマはハムを口に咥えて茂みに隠れてしまった。

「ゴ、ゴマぁ〜」

へろへろと手を伸ばすも、そこにゴマの姿はなく。

残ったのは風で揺れる綺麗なお花と1人残された少女のみとなった。

はぁとため息を吐き、これ以上ここにいても仕方がないと思い立ち上がる。

ベンチに戻ろうと振り返った、時だった。

「……あ」

睨むような目とぶつかり、思わず後ずさりをしてしまう。

目線をさ迷わせていると、がぐがくと足が震えているのが分かった。

「あらメリア、ごきげんよう」

令嬢、ミアが取り巻きの女性達と共にメリアにそう挨拶をしてくる。

挨拶は人を爽やかな気持ちにさせる効果があると昔母に言われたことがあるが、それは違うと今ハッキリ言えるほど、メリアは暗い気持ちになっていた。

「ご、ごきげんよう。ミア様」

未だに慣れない挨拶をしどろもどろになって言うと、ミアはふふんと口元に笑みを浮かべて自身のサラサラの髪をかきあげた。

「貴方、今日は食堂にいらっしゃらないのね。残念だわ」

「ざ、残念……? 」

いたらいたで「おまえなんかがこんな場所に来るな」と牽制するくせに、それなら一体どうしろと言うのだろうか。

「ええ。とっても残念。だって貴方の哀れな姿を見ることができないんですもの」

「哀れって、何が……」

「場違い、って言葉ご存知? 貴方に向けられる数々の視線には心当たりがあるでしょう? 私たちはそれを見るのが好きなのに、今日はそれが見られないなんて。本当に残念」

「あの、私もう行っていいですか? 」

嫌味なら聞きたくない。

そう思ってミア達の横を通り過ぎようとすると、取り巻きである内の1人がメリアに足をかけた。

「きゃっ」

声を上げて転んでしまう。

土が服についてしまい、汚れてしまった。

「あら、とってもお似合いよ。ねぇ? 」

「本当。その姿、貴方の1番の衣装なんじゃないかしら」

クスクスクスと、彼女達は嘲笑う。

「っ……あ! 」

起き上がろうと地面に手をつき目線を上げる。

そこには、地面に散らばったサンドイッチがあった。

慌てて拾い集めようと手を伸ばす。と、拾うより先にサンドイッチがぐしゃっと音を立てて潰れる音がした。

ミアが、足でぐりぐりとそれを踏みつける。

「なんで……? なんで、そんな……なんでっ!? 」

「なんで? 口の利き方には気をつけなさい。なんで、じゃなくてどうしてでしょうか、でしょう? ったく、これだから平民は」

呆然と、踏みつけられるサンドイッチを見つめる。

「ま、貴方がよくここにいるのは知ってるから。また来てあげるわよ」

ミアが不敵に笑い、周りもそれに同調するように笑う。

メリアはもう、動けなかった。

「アルストロ様? 」

その声を、聞くまでは。

「ヤナギ様……!? 」

ミアが焦った様に声の主を見ると、そこにはじっとこちらを見下ろすヤナギがいた。

「ヤ、ヤナギ様っ! 見てください! メリアの無様なお姿を! 」

額に汗を浮かべて、それでも笑いながらメリアを指さすミアに、メリアは俯くことしかできなかった。

握りしめた手に、乾いた土の感触がする。

「大丈夫ですか? 」

だが、ヤナギはそんなミアの台詞を無視するかのように、転んだままでいるメリアに手を差し出した。

「ヤナギ様! 何をして……」

「倒れているアルストロ様を起き上がらせようとしているのですが、何か間違っていたのでしょうか? 」

「間違いだらけですわ! なんでそんなこと……」

「倒れているからです」

ヤナギは、出した手を引っ込めない。

メリアはおずおずとその手をとり、起き上がった。

「ヤナギ様、何故……どうなさったのですか!? 私、本当に心配で……」

ミアが必死に訴えるも、ヤナギは分からないと首を傾げるばかりだ。

「そ、そうですわ! ヤナギ様、この女を、水浸しにしてさしあげましょう! ほら、ここは花壇! ここにバケツがありますわ! 」

何がそうですわなのかは分からないが、ミアの言った通り、そこには水が満杯に入ったバケツがあった。

用務員さんが置いていったものなのだろうか。

「分かりました」

なんとヤナギはミアの申し出をあっさり承諾し、そこに会ったバケツを持ち上げる。

重そうに見えたが、結構軽々持ち上げた。

「ふ、ふふ……! やっと、やっといつものヤナギ様に戻ってくれたのですわね! さぁヤナギ様、メリアに思う存分水を……」

「……して、バスタオル等は何処にあるのでしょうか? 」

「へ? バスタオル……? 何故そんなものを……? 」

「このまま水をかけてしまっては、アルストロ様が濡れてしまわれます。故に、バスタオルで身体全体を覆っておけばアルストロ様は水に濡れることなく、風邪をひくこともな……」

「ちょ、ちょっと待ってくださいまし! 」

「……申し訳ございません。今の私ではこんな策しか思いつかず……。この策でも多少なりとも濡れてしまうことにはなりますが、そこは水をかけた瞬間アルストロ様の身体を拭けば……」

「そういう話をしているのではありませんわ! 何故、何故ヤナギ様はそんな……そんなに……」

ミアがワナワナと身体を震わせて怒りとも似た、どこか困惑した表情をすると、取り巻きから「ミア達、どうか落ち着いてください」と声をかけられる。

ミアは下唇をギュッと噛み締めて「もう、行きますわ……」と疲れた様子で取り巻きと共に去っていった。

「あ、あの、ハラン様……どうしてここに? 」

「花を見に、よく来ていますので」

メリアもゴマの様子を見によく花壇には来ているが、数分程度しかいない。

ヤナギとは入れ違いになっているようだ。

「あの、助けてくれて、ありがとうございました」

「助けた? 」

お礼を言われたヤナギは、なんの事か分かっていないらしい。

「さっき、手を差し出してくれたので……」

そう言うも、ヤナギはこてんと首を傾げるばかりだった。

ヤナギの中でどうやらあれは「助ける」の分類に入らないらしい。

「お花、好きなんですか? 」

「はい。といっても、今日はそんなに長居できませんが」

「どうしてですか? 」

「生徒会室に行って、造花を作るんです」

文化祭委員として造花を作る使命を出されたメリア達1部の1年生は、放課後生徒会室に集まって作業をしなければならないのだ。

「え? でもまだお昼休みですよ? 」

「この作業だけ他と比べて遅れているとのことなので、少しでも進めておかないといけないのです」

確かに、シードは最近腕を上げてきたが、アイビーとメリアは未だに不器用なままだし、ブレイブとセルフも他の仕事を手伝いに行くことが最近多いので、実質ヤナギとカルミア、シードの3人だけで作っていることになる。

それだと作業が遅れるのも仕方がない。

「それでは、私はもういきます」

ヤナギが花壇から目を離して後ろを向く。

その背中に、メリアは勇気を出して声をかけた。

「あ、あの! 私も、生徒会室に行きます! 」

あまりできることはないだろうが、文化祭委員に入った以上できることはしたい。

それと……踏みつけられて、ぐちゃぐちゃになったサンドイッチを見る。

もうお昼は食べられそうにない。

この後はただ、暇なだけだ。

「はい。では、行きましょう」

ヤナギの返事にぱっと顔をあげると、そこにはメリアのことを嫌だとか、そんな瞳は一切存在しなかった。

その瞳を見て、心の底から安心する。

「はい! 行きましょう! 一緒に! 」

サンドイッチを拾ってバスケットに入れ、ヤナギの横に並ぶ。

今日も、1人ではなさそうだ。

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