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6

大広間の舞台裏にて、ざわざわと賑やかな様子を見せる生徒たちを横目に、カルミアは持っていた本を傍にあった机に置き小さなため息を吐いた。

「なかなかの賑わいだな……」

「イベントが嬉しいんじゃないかな。僕もそうだけど、最近テストばっかりで疲れちゃってたから……」

カルミアの言葉にぼそぼそとオルガが答えると、リュカも話に入ってきた。

「おしっ! 絵本の素晴らしさを大衆に見せつけてやる! 見ててくださいね! ヤナギ様」

「はい。頑張ってください」

いつの間にかハラン様からヤナギ様に変わっていることに眉をぴくりと動かす。

「頑張って」と言われたリュカはさらにやる気を上げたようで握り拳を作って「やるぞー! 」と声を上げていた。

「それじゃあ、そろそろ始めますから。皆、準備はいいかしら? 」

「はい! いつでもどうぞ! 」

「は、はい。大丈夫です……」

「問題ありません」

「はい」

各々の返事を聞いたところで、先生は笑顔で1度うんと頷いた後舞台へと出ていく。

「それではこれより、読書発表会を始めたいと思います。発表時間は1人約6分。その後に約4分間の質問時間を設けますので、何か感想や言いたいこと、聞きたいことがある人はその時間中にお願いします」

軽いルール説明のようなものを済ませた後、先生は早速と言ったふうにカルミア達がいる舞台裏の方へと視線をやった。

「最初の1人はこの方です! どうぞ〜」

「ひぃっ! 」

呼ばれたオルガが青い顔をして肩を揺らす。

あまりこういう場が得意ではないオルガはすっかり挙動不審になってしまっていた。

「お、おい。大丈夫かよ? 」

リュカが心配そうに声をかけるも、オルガからは痙攣に似た震えで首を横に振っている。

「い、行ってくりゅ……」

首を横に振りつつも行く勇気を見せたオルガは、やがて産まれたての子鹿のように足をぷるぷると震わせながら、舞台へと出ていった。


「ぼ、ぼぼぼぼぼぼぼぼ僕がし、し、し、紹介する、のはっ! え、えーと、えーと……こ、これっ! これです! あ、うわ、わわわ……」

「あいつ、本当に大丈夫かよ……? 」

「大丈夫じゃないな」

「はい。あれは大丈夫な人ではありません」

舞台に出ていったオルガを頑張れという気持ちで見ていると、オルガは緊張したまま本を見せた。

「れ、歴史本、です。サリファナ王国についての歴史、とかが載っていて、歴代の王様とか、あと、騎士、とかが、その……と、とにかく歴史本です、はい……」

それだけ言うと、オルガは黙ってしまった。

確かに、6分間も喋り続けなければいけないのはキツいだろう。

後何を言えばいいのか分からないらしく、オルガは「う、あ……」と言葉にならない声を発していた。

「れ、歴代の王様なんですが、最近で言うと、ア、アイビー様とか人気ですよね〜。かっこいいですし、皆に優しいですし? まさに次期王様にピッタリっていうか〜アハハハハ、ハハ……」

「え? あ、ありがとう、な……? 」

何とか絞り出した言葉に、観客として聞いていたアイビーが礼を述べる。

お礼を言われたオルガはといえば、本人がこの場にいることまで頭が回っていなかったのだろう。

「えぇ!? アイビー様!? あ、そうか……この発表会は、アイビー様も……うわぁぁぁぁぁ恥ずかしいいぃぃぃぃぃぃぃぃ! 」

と1人舞台で絶叫していた。

すると、アイビーの名前が出たことによって、オルガの発表に興味を持った者が何人か出てきたようで、

「確かに、アイビー様は王様になるのに、相応しいですわよね」

「本当。男性の方から見てもかっこいいなんて、アイビー様は誰からも好かれる存在なのですわね」

そんな話し声がどこからか聞こえてきた。

「あ、あと、騎士についても、その……。ブ、ブレイブ様とか、ほら、騎士として、えっと……」

そんな調子で長く感じた6分間は幕を閉じた。

だが、オルガにとって、ここからが本当の頑張りどきとなった。

「そ、それでは、何か質問がある人は挙手をどうぞ……」

どうせこんな自分なんかに質問をしてくる人なんていないだろう。

そう思っていたオルガの考えは、容易に打ち砕かれることになる。

「はい! その本は、この国の歴史について書かれているのよね? でしたら、昔の貴族のドレスや装飾品などについても載っているのかしら? 」

「え、あうわ……うぇっと、そう、ですね。記載はあったと、思います……」

「はい! それなら昔の料理とかはあったりするんですか? 」

「この学園の歴史については? 」

「アイビー様のことについては、詳しく書かれているのかしら? 」

「え、ええ!? ちょ、ちょっと待ってくださ……」

次々に聞かれる質問の嵐にオルガはてんてこ舞いになっていた。

あたふたと一人一人の質問に答えているうちに、4分間なんてあっという間に過ぎてしまう。

「ご、ご清聴ありがとうございました! 」

去っていくオルガに拍手を送る生徒たちは、皆満足そうな顔をしている。

「盛り上がってたな! 」

「う、うん。楽しんでくれたみたいで、何よりだよ……」

やり切った、というようにほっと胸を撫で下ろすオルガの次に、リュカが1歩前に出る。

「よし! 次は俺だな」

わくわくした様子で、リュカは舞台へと上がって行った。


「えー皆さんこんにちは! 俺が紹介する本はこちらです! 」

挨拶も早々に、リュカは手に持っていた絵本を高く掲げた。

「あっ! 私これ知っていますわ! 」

観客の1部からそう言った声が上がると、リュカは笑みをますます深くした。

「はい! 皆さんご存知こちらの絵本ですが、読めば誰でも感動すること間違いなし! 俺はこの本を今まで100回くらい読んだんですけど、今だに少しうるっとくるものがありますね。本当、優しい気持ちになれるっていうか……。俺は、絵本大好きなんですけど、特にこの本はオススメなので、皆さんぜひ読んでみてください! 宜しくお願いします! 」

その後も、リュカが絵本の見せ場やらキャラクターの魅力やらを語っているうちに、6分は過ぎていった。

語っている時のリュカは本当に楽しそうで、その本がどれほど良いものなのかがしっかりと伝わってくるような内容だった。

その笑顔は、見る人全てを惹き付けていて、観客は皆リュカの話をとても楽しそうに聞いていた。

質問も「他にオススメの絵本はあるか」、「妹や弟がいるのだが男女関係なく好む絵本はあるか」など、オルガの時とまではいかないが多くの質問が飛び交った。

「ありがとうございましたー! 」

そう言って舞台裏に戻ってきたリュカは、出ていった時よりも笑顔になっていた。

「ヤナギ様! 俺の発表、どうでしたか!? 」

「大変良かったと思います。皆さんも、とても嬉しそうです」

「へへ……! ありがとうございます! 」

髪を手でかきあげながら言うリュカに背を向けて、今度はヤナギが舞台へと歩き出した。


「私が紹介させていただく書籍は、黒猫と魔法使い、です。この書籍は1巻から5巻まであり、今回私が紹介させていただくのはそのうちの1巻を……」

「やっぱすごいですね、ヤナギ様。威厳みたいなものを感じる……」

カルミアの隣で、リュカが感嘆の声を漏らす。

「……おまえ、ヤナギのことをどう思っているんだ? 」

急に名前で呼び出したり仲良さげに話していたりと、気になる点が幾つかあったため単刀直入にそう聞くと、リュカは少し照れたようにこう言った。

「なんだろ……。恋、かどうかはわかりませんけど、でも、好感はありますよね。普通に仲良くしてたいっていうか……はは」

そう曖昧に言ったリュカから顔を背けて、カルミアはまたヤナギの方に視線を向けた。

「ロジック様、何か安心してません? 」

「? 安心? 何故だ」

「いや、それは知りませんけど……」

ヤナギは淡々と本について説明している。

主人公と黒猫が一緒に冒険していくお話で、黒猫は危機に陥る主人公を助けていく。

大きな問題に当たっても黒猫と乗り越えていく、最高で最強のコンビを描いた物語。

「その主人公と黒猫のお互いを支え合う相棒のような関係……私の胸に刺さりましたわ。ぜひ読んでみようと思います」

質問の時間で、ある令嬢がそう感想を述べた。

質問時間でも感想や意見を言う者は何人かいる。

オルガとリュカの時は質問が多かったが、ヤナギの時は感想の方が多いようだ。

「俺も読んでみます。聞く限り、とても面白そうですから」

「私もぜひ。面白かったら、知人にも紹介したいと思いますわ」

そんな感想が届いている。

「ご清聴、ありがとうございました」

頭を下げてそう締めくくると、拍手が沸き起こる。

「良かったですよ、ヤナギ様」

「ありがとうございます」

リュカがヤナギを褒め称えるなか、いよいよ最後の、カルミアの番がやってきた。

「頑張ってください、ロジック様……」

「ああ。ありがとな、オルガ」

見送られ、カルミアは机の上に置いていた本を持ち上げた。


「カルミア・ロジックです。本日は、宜しくお願いいたします」

挨拶をして手に持っていた本を胸元まで持ち上げた。

「何? あれ」

「随分と大きな本ね……」

「わかったわ! 図鑑じゃない? 」

観客が言った通り、カルミアが持っていたのは図鑑だった。

「俺が紹介するのは、植物図鑑です」

皆が図書室に来ない理由の1つとして、まず本を読む人が少ないということが挙げられる。

本が、文を読むことが苦手な人がいるならば、文ができるだけ入っていない、絵が多めの本をオススメするのが得策だ。

リュカの紹介した絵本も、効果はあっただろう。

「この植物図鑑はあらゆる花が取り揃えており、絵も実物に最も近づけて描かれています。まず、どんな花が載っているのか、1部を挙げてみますと……」

春の花、夏の花、秋の花、冬の花。

それぞれの季節の花を1つずつ紹介していく。

どのような場所で育つのか、この花の由来は何か、別の色の種類の花など、事細かに説明していく。

「これはコスモスという花で、ちょうど今学園の花壇で花を咲かせています。この花はピンクや白、黄色などの色があり、夏頃から見頃を迎え秋頃まで咲くことができ……」

初めこそ、皆熱心に聞いてくれていた。

花は人の心を惹き付けやすい代物だから、女性の方は特に興味を持ってくれているようだった。

だが、それも3分を過ぎた辺りから、雲行きが怪しくなってくる。

「綺麗な花なのでしょうけど……絵も小さくてよく見えませんし、あまり面白くありませんわね」

「おやめなさいな。ロジック様がお話していらっしゃいますのよ? 」

「そうは言っても、長々とした説明は、私どうも好きではありませんの……」

「確かに俺も。ちょっと飽きてきたよな……」

「おい馬鹿。そんなこと言うんじゃねぇよ」

面白くない、そんな声が一部から聞こえてきて、それは段々と大きくなっていく。

もう既に3人の紹介を終えているということもあってか、疲れてきた人もいるようだ。


先程までの雰囲気とは、明らかに違っていた。


「この花は、冬頃に咲く花なのですが……」

「ご覧になったことあります? 」

「私ありますわ。ですが、あまり綺麗とは言えませんでしたわよ。色も暗い色でしたし」


「この花は、気候によって……」

「さすがロジック様。知識が豊富ですわね」

「ですが、私には何を言っているのかさっぱり……」


皆、カルミアの話を聞いてくれてはいるが、楽しい、面白いなどの表情は見られなかった。

何が駄目なのだろう。

自分は、真面目に発表しているのに。

この図鑑について、正しい知識を伝えているはずだ。

なのに何故、オルガやリュカ、ヤナギの時のような盛り上がりがない?

「それで、この花の育てかたなのですが、暖かく日当たりの良い……」

「つまらないよな」

どこからか、そんな声が聞こえた。

自分は、真面目にやっている。

なのに、なんで……。

植物にしたのが間違っていたのか? いや、花は女性に人気があるはず。

わからない。

ちゃんと知識を取り入れて、説明しているのに。

聞いてはいるけれど困ったような顔をする人。

はたまた眠そうに欠伸をする人。

明るい雰囲気では、なかった。

何故だ? どこで間違えた? カルミアは、真面目に発表しているのに。

なのに、何故こんな、いたたまれないような空気になるのだろう。


「植物というものは、呼吸と光合成を繰り返し行う生き物なので、これは酸素を……」

ざわめきが響く大広間で、カルミアは説明を続ける。

話を途切れさせることなく、真面目に6分間喋ろうと努力していた。

だが、話せば話すほど、空気はどんどん悪くなっていく。

もはや、誰もカルミアの発表に興味をなくしてしまっていた。

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