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番外編 ~端から見た2人~

 第三者視点が欲しいとのリクエストがあったので、部長視点です。

 「とった!」


 またじゃれてるよ。

 今年入ってきた新入部員は、4人。そのうち男子は、この原口尚哉1人だけ。

 そもそも、全部員15人のうち、男子は4人しかいない。いや、4人も、というべきかな。

 茶道部に入る高校生男子なんて、どう考えたって変わり者だもの。

 お茶をやってる家柄とかでない限り、自分からお茶を習おうと思う、もしくは親がお茶を習わせてみようと思う対象は、普通は女の子。いくら男女平等とか言ってみても、男らしい、女らしいといった感覚は、小さな頃から培われたもので、なかなか消えるものじゃないから。お茶とお華と言えば、花嫁修業の代表格だものね。

 そうやって希少だからこそ、文化祭では、4人しか出られない発表会の亭主役の半分が男子部員と決まっているのだし。普段から肩身が狭いのに頑張っていることへのご褒美としての晴れ舞台なんだよね。

 もっとも、男子部員がみんな真面目に茶道に邁進しているかといえば、そんなことはないんだけど。

 今いる4人の中では、せいぜい2年の片岡信宏くらいか、本心からお茶をやりたいなんて思っているのは。

 もう1人の2年生、山野浩一は、3年の並河紗枝が目当てで入部(はい)ってきた。

 部活動紹介で見て一目惚れしました、と入部の挨拶で宣言した大馬鹿だ。

 残念ながら、虚仮の一念とはならず、とっくに砕け散った後だけど。部活動が必須でなければ、さっさと退部していたんだろうけど、辞めると行き先がないからね。おかげで、やる気のなさが座ってるみたいな奴で、部活でも亭主役になったことがない。1年の原口でさえ、一度はやったのに。


 その原口は、どっからどう見ても、真田麻紀が目当てで入部してきたのが丸わかりだ。下手すると、この高校受けた理由まで真田だったりするんじゃなかろうか。試験前になるとひいひい言いながら勉強してるようだし、すっごくありそう。

 部活動は最低限真面目にやってるけど、いつでもどこでも目が真田を追ってるのがわかる。あれは、気持ちを隠すつもりがないね。

 用がないのに話しかけるのも、無駄にちょっかいかけるのも、真田が相手の時だけだ。ほかの1年の2人と話しているとこなんて、ほとんど見た記憶がない。

 それくらいわかりやすいから、女子の足を撫で回してるようにしか見えない姿も、“またじゃれてる”ですむんだけど…。本当なら、私が雷を落とさなきゃならないんだろうけど、原口は休憩時間的な隙間を利用して真田に寄っていくだけで、部活中は一応きちんとやってるからなあ。

 多分、きちんと周りに目を配って、どこまで許されるか理解した上でやってるんだろう。

 下手なことすると、真田も部にいづらくなりかねないから、ちゃんと計算して、一線を引いてるんだね。悲しいことに、肝腎の真田だけが全く気付いていないけど。

 あのニブさは、ちょっとすごい。

 とはいえ、ねえ。私の見る限り、真田は朴念仁って感じじゃないんだけどなあ。

 むしろ、真田も原口のこと好きだと思うんだけど。なにしろ、生足触られて本気で怒らないんだから。




 「部長、あのバカップル、なんとかしてくださいよ! まだ付き合ってないらしいですよ!」

 夏休みが明けても、原口と真田のやりとりは全く進歩していなかった。

 高1の夏休みだよ? 幼なじみが殻を破ってカップルになるのに、うってつけの時期じゃないの? 祭に海にプールに花火に、イベント満載でしょ?

 なんで一歩も進んでないのよ!

 お前ら、小学生か!





 「発表会の亭主役を発表するよ。

  男子は、3年・沢村、2年・片岡。女子は私と、1年・真田。

  真田は、事前に一度、中山さんから着付けしてもらうから、そのつもりでいて」


 夏休みの間、原口との仲は全く進展しなかったくせに、真田のお点前はずいぶんと上手くなっていた。夏休みの間、教室にでも通ったんだろうか。

 どうも負けず嫌いが激しいようだし、それだけ選ばれたかったってことなのかな? ま、熱心なのはいいことだ。





 あ…。

今、真田の所作が乱れた。着慣れてない着物で、裾でも踏んだかな? 動揺してるね。動きが目に見えて悪くなった。まあ、完全に動きが止まったりしないだけ偉いけどね。

 ふと、原口を見ると、何とも言えない目で見てる。

 ほんとは駆け寄って慰めたい、みたいな感じ? できるわけないから、必死に我慢してる。

 真田が持ち直したのを見て、うんうん頷いて、お前は真田の保護者かって。





 「ちょっと来いよ」


 片付けの時、原口が真田を攫っていった。

 あ~、ついに告白するのか。

 と思っていたら、背後から「なんだよ、やっとか~」なんて誰かが言った。

 ほかにも、遅いとかなんとか、賛同する声が聞こえる。



 片付けが終わっても、原口達は帰ってこない。


 「部長、じゃ、鍵お願いします。あいつらに“爆発しろ”って言っといてください」

なんて言って、みんな帰っていった。

 私が貧乏くじを押しつけられたらしい。部長って損だ。






 「ほら、いちゃつくのは後にして、さっさと帰るよ」


 無事カップルになって戻って来た原口達を追い出して施錠し、鍵を職員室に返しに行く。

 横目で見たら、2人は手を繋いで帰っていった。

 まったく、いい気なもんね。


 …しまった。「爆発しろ」って言うの、忘れてた。

 「麻紀、今の所作、なんかよかった。なんだろ、手首?が柔らかくって」


 「ほんと? 嬉しい♪」


 やっとくっついたと思ったら、バカップルぶりがパワーアップしてしまった。

 どうしよう。胸焼けの薬って、部費で買えるかな?

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和語り企画
― 新着の感想 ―
[一言] 甘い、甘い、甘いいいいいいいい(のたうちまわる) だがそれがいい!!! くううっ、もう1杯!!!(青汁かよ) すいません、あまりのバカップルぷりに雄叫びをあげてしまいました。もう好き、この…
[一言] 部長、(´・ω・)つ胃腸薬です。 さぞや、お疲れのことでしょう(笑) 番外編、想像通りで楽しかったです。ありがとうございます。
[良い点] 部長さん、お疲れ様(笑) 原口くん、思ったよりもしっかりしてたんですね。端からみれば坂田さんの方が危なっかしかったんだー。 部長さん視点、面白かったです。
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