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にくきゅう薬局  作者: 渋谷 春
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第40話 MRさんその2

「荒田さん! お薬準備できてますよ!」


「ありがとう、葵ちゃん。相変わらずかわいいわねえ。そう思わない?羽場君?」


そういいながら羽場さんの方を見る。


「え、ええ…。そうですね。」

さっきまでの落ち着いた様子はどうしたのか、目をそらし、言葉も少し震えており、動揺しているのが私でも分かった。。


「葵ちゃん、あれは好きな人に対してうまく話せなくなる中学男子みたいなものよ。」

私の様子に気が付いたのか美夜先生は教えてくれた。しかも私どころか羽場さんや荒田さんにも聞こえる大きな声で。


「ちょっ! 先生、誤解を招くようなこと言わないでください!」

声も裏返り、目に見えるような汗を頬にかくなど、必死な形相になりながら言っているが…。


「ひどいわ!羽田さん、私のこと愛してるって言ったのはうそだったの?」

荒田さんは涙目に。肩を震わせながら泣くのを必死にこらえている姿はとてもかわいそうだ…。


「葵ちゃん、あれが1度寝たくらいで彼女ヅラするな!っていうクズの見本よ…。」

さっきよりも一段と大きい声で言っている。そのおかげでソファーで寝ていたキサラちゃんがビクッと動いていた。


「えっ、最低…」

私も思わず口に出す。


「にゃふ…」

眠たげな声でキサラちゃんも同調したような声を出す。


「だから違いますって! 先生はさっきから嘘ばっかり言わないでください!私は確かに昔荒田さんに告白しましたけど、すぐにちゃんと別れました!別に体の関係も持っていません!」


必死すぎて逆に怪しい…。この人ってあんまりいい人じゃないのかも。


「ひどいわね、男の人って。一緒にホテルに行ったのに何も起こってないわけないじゃない!」

何で先生がそんなこと知ってるんだろう?


「だから何も…」


「私、男の人とホテルに入ったの初めてだったのに…」


荒田さんが口に出す。ここまで美人な人に対して、ひどい!


「羽田さん、さすがにそれはひどいと思います。」


「桜庭さん!だまされちゃいけないよ!だってこの人はお…」


「29にもなりながら言い訳なんてみっともない!それに比べて波留ちゃんは現代の大和撫子そのものじゃない!最近の若い子は体を安売りしてるのも多い中でさあ!そんな子を傷つけるなんて!」


先生が熱く語っている。ちなみにキサラちゃんはソファーの背もたれとクッションの間に体をうずめている。2度寝できるようできるだけ雑音を聞きたくないんだろうな。

しかし、荒田さんて美人な上に貞操観念もしっかりしてるなんてすごい!


「荒田さんすごいですね!同じ女性として尊敬します!」


「いやね、ちょっと出会いがなかっただけよ。」

すでに涙も乾いたようで笑顔が戻っている。よかった。

「荒田さんすごい美人なのに出会いがないなんて、そんな…」


「だって大学まで共学じゃなかったしね!」


「あ、女子高ってことですか?」


「いや、男子校よ。」


「…」

男子校?ああ、確かに男子校だったら女子とはつきあえ… いや、荒田さん女だよね?なんで男子校?もしかして私今まで勘違いしてた?男子校って女子だけがいるところだっけ?

あれ、そもそもだんしこうって漢字が違うのかな?暖子高みたいに高校名とか!あ、これなら全然おかしくない!私ったら何勘違いしてんだろう!


「あ、そういう名前のこう…」


「いや、高校名じゃなくて男の子の男子校だからね!」

羽場さんが突っ込む。やっぱりそうだよね…。え、ていうことは…


「あの…もしかして荒田さんって、男なんですか?」


「それは昔の話!今は身も心も女よ!」


だったらいいの…かな?まあ、そこら辺の女の人より美人だしいいよね?


「…体はまだっ」


羽場さんが何かしゃべりかけたが美夜先生に頭をはたかれていた。何を言おうとしたんだろう?

あれ、そういえばこの前似たようなことがあったけど…。


「先生、女装みたいなこと嫌いじゃなかったんですか?」


「ああ、この前の危なそうな人のこと?あれは見た目が気持ち悪いから駄目ね!私は見た目がかわいいかきれいなら別にいいわよ?」


何当たり前のこと聞いてるの?という感じで言った。


「葵ちゃん…、美夜先生は面食いなのよ。」

あ、それは何となく気づいてました…。人によって態度違うし…。


「ほんとですよ!先生はもっと中身を…」


「見た目で判断して大失敗した人が言うと説得力あるわねえ~」

その言葉で少し顔をしかめる羽場さん。そんな傷口えぐるようなこと言わなくても…。


「まあ、どうでもいい話は別にして、医療従事者はどんな患者でも差別しちゃいけないからね?これ、

医療における基本権にもあるから。だからニューハーフどころかロリコンでもショタコンでもスカトロ、さらにはハードリョナが好みな人も冷たい目で見ちゃいけないのよ。」


何か聞いたことない単語が多いけど詳しく聞かない方がいいんだろうな…。


「でも、前の女装した人は思いっきり冷たい態度でしたよね?よかったんですか?」


「いや、だって公衆衛生的にも教育的にも良くないから2対1でいいのよ。」


「そんな無茶苦茶な…」


「桜庭さん、実際にはそんなことしちゃいけないからね?大人は我慢しないといけないから…。世の中にはこの薬局以外にも変な先生多いからさ…。」


遠い目をしながら答える。MRってやっぱりつらい仕事なんだろうな…。

「あんた、その代わりにMR手当を月7万もらってる上に飲食代の経費とか嘘ついて代わりにふうぞ…」


「先生!声が大きい! 確かに7万はその通りだよ。でもMRは残業代がないからその代わりだからね?」


「は、はい。そういえば美夜先生が最後に言おうとしたのって何なんですか?ふうっていうのは?」


「それは…」

すごく答えづらそうだ。何なんだろう?


「まあまあ、葵ちゃん、人には言いたくないことも1つや2つはあるものよ?それにMRって商品に不備があると代わりに怒られたりするし医療系の人からは高圧的な態度とられるし、精神的にとてもきついのよ。だから葵ちゃんもMRさんには優しく接してあげてね~」


「分かりました!羽場さんも今日はいろいろとありがとうございます!」


「ありがとう…。お礼言われるのは力になるよ。でもお願いだから我流先生みたいにはならないでね?」


「何か言ったかしら?」

口調は明るいし笑顔だが、目が笑ってない…。


「な、なんでもありません!」


「あ、美夜ちゃん、私仕事だから帰るね!」

そういいながら荒田さんは出口に向かう。そういえば今日はすごい秘密知っちゃたな。

人は見かけによらないってことね…。


「ちょ!荒田さん!一緒に帰りましょう!」

急いで羽場さんも後を追う。外はいつの間にかオレンジ色になり、夕日が沈もうとしていた。


「くあ~」

キサラちゃんも昼寝が終わったようだ…。


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