第2話 お願い
次の日、八雲は薬局実習担当の野瀬教授に呼び出されていた。
「八雲君、何で呼び出されたか…分かってるよね?」
静かに話しているが、目は笑っていなかった。
「ええと、研究についてですか?もしかして先週教授に出した論文についてでしょうか?」
八雲は少し動揺しながら答えた。
「ち・が・う・よ~。ねえ、君が桜庭君に紹介した例の薬局についてだよ。」
次第に口調が強くなっている。よく見ると手に持っている書類にも力が相当伝わっているようだ。
「ああ、あれのことですか。何か問題でも?」
「大有りだよ!よりにもよってあの我流君がいるところじゃないか!彼女が大学時代どおれえだけ問題を起こしてきたか…君も分かってるよね?」
「いやー、まあそんなこともありましたけど…さすがに彼女ももう社会人ですからもう大丈夫じゃないですかね?」
「ちなみに私は…あの体験から彼女にはもう関わらないと決めているから、実習のお願いは君がしてくれよ。」
「あの体験?何かありましたっけ?もしかして先生のパソコン内の動画についてですか?大丈夫ですよ!当時だって誰も気にしてなかったじゃないですか。」
「あれは君たちの代がおかしかっただけだ!いいかね、とにかく彼女に学生の受け入れをお願いするときも余計なことを学生に話すなとしっかり伝えておいてくれよ!頼むよ!」
そう言いながら野瀬教授は八雲を教授室から追い出した。
“やれやれ、しょうがないなあ。まあがんばってみるか”
スマートフォンの画面で我流の名前を探すのであった。
八雲が待ち合わせ場所に来ると、指定されたテーブルには一人の女性が座っていた。腰まで届く栗色の髪に白い肌、顔立ちは整っており、美人な部類には入るだろう。しかし、八雲はその女性を見て少し緊張していた。近づくと彼女も存在に気づいたようでこちらを見た。
「いったい何なの?仕事の話って聞いたけど。」
すでにやる気のなさそうな気持ちが声で伝わってきていた。八雲はやれやれと思いながら彼女の向かいの席に座った。
「久しぶり、我流さん。今日はありがとう。相変わらずきれ…」
「どうでもいいから早く始めてくれない? 私早く帰りたいんだけど。」
美夜はさらに不機嫌さが増したようだ。
“本当に変わらないな、我流さん”
八雲は学生時代からこの扱いに慣れていた。そう、はじめて会った時から…
「だまってないでさっさと話してよ。」
思い出に浸る時間もなかった。
「実は、君の薬局に実習に行きたいって言ってる子がいてさ。どうかな?」
「ふーん。どんな子なの?かわいい?」
美夜は目の前のコーヒーに砂糖、シロップを追加しながら聞いた。既に空の砂糖が4本、シロップが3個である。
「かわいいけど、あれ、女の子って言ったっけ?」
「いや、ロリコンのあんたが紹介するって言うくらいだから女の子かなって。へ~え、かわいいんだ~。」
美夜はニヤニヤしながら八雲の方を見た。
「ロリコンじゃないって。それに声が大きい。」
八雲は必死になって答えた。だが、既に遅かったようで周りの何人かはひそひそ声でこちらを見ていた。
「え、でもあんた確か女子高生が好きって言ってなかったっけ?」
「あの時はまだ僕も二十歳だったろう!それに僕は胸が大きい人の方が…」
「じゃあ巨乳ロリならOKってわけね。」
八雲はもう何を言っても無駄だなと思い始めていた。
「それで…結局やってくれるの?」
「別に良いわよ。可愛い子でまじめなのなら最高ね。それに一回くらいやってみたいし。」
美夜は既に黒から白に変わったコーヒーをおいしそうに飲みながら言った。
「じゃあ、お願い! 後、これはお願いだけどあんまり昔のこと学生に話さないでよ?我流さんがやったことってあんまりいい影響与えないだろうし…」
美夜は満足そうにロールケーキを食べており、聞いているかは分からない。
だが、しばらくおいしそうにもぐもぐした後、幸せそうな顔で八雲を見た。
「大丈夫!あんたのパソコンの中に女子中学生ものの動画があったとか言わないから。」
「そんなものはもともとないから!」
八雲は今日一番大声で話していた。