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にくきゅう薬局  作者: 渋谷 春
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第1話 淡い期待

まだ、暑さが残る9月。大阪医療創造大学 薬学棟の一室にて一人の女子大生が悩んでいた。肩まで伸びる黒髪で顔は幼く見えるが可愛い顔立ちである。

「う~ん。決まんないな~」

桜庭 葵はマウスを適当にいじりながらパソコンの画面をぼんやりと眺めていた。今は来年の5月から行く薬局実習先を探していた。ちなみに薬局実習とは薬学部の5年生が2ヶ月ほど薬局で働くインターンのようなものである。と言っても候補は無限にある。なぜなら薬局は大手から個人店まであり、コンビニより数が多い。当然そんなに多いとレベルの差が激しい。場所によっては忙しく、学生を放置して何もやらせてもらえないことがあるからだ。

ちなみに先輩からの情報も多々あるが、当然そこを志望する学生は多く、家の位置や教授の意向等が優先される。しかし、葵の所属する研究室の教授は立場が弱いので、選ばれるのは最後になってしまう。ゆえに、あまり知られておらず、かつ面倒見のいいところがいいがそんなに都合のいいところが早々あるわけではない。

「全然見つからないなあ。将来のことを考えていろんなことが勉強できるところがいいけど」

そんなことを言いながら葵はそばにあったコップからオレンジジュースを飲もうと口をつけた。

「じゃあにくきゅう薬局はどうかな?」

「ぶっ!げほっ!」

急な声に驚いて口の中のジュースがのどに入り咳き込んだ。

“ちょっ!!。鼻からも出たんですけど。誰よ!”

少し怒りを覚えながら振り返ると、入り口に若い男が立っていた。その男の顔を見ると葵は急いでハンカチで口元のジュースを拭いた。

「え!! 八雲先生!いつからそこに?というかにくきゅう薬局って何ですか?」

葵は何事もなかったように振舞おうと、急な質問でごまかした。だが、八雲にはばればれだが、苦笑しながら話し始めた。

「僕の大学時代の同級生が働いてるんだ。本当にいろいろなことを学びたいなら桜庭さんにはおすすめだよ。でも…」少し考えるように八雲は葵を見た。

「まだできて2年くらいだから、桜庭さんは嫌かも…もっとしっかりしたところで学びたいよね。」

「いえ、このまま悩んでも決まらないと思うのでそこに希望出してみます!それにせっかく先生がそういってくださるんですから、間違いはないと思います!」

「そ、そう。なら良かった。」

一気に言う葵に少し押されながら八雲は答えた。


八雲が去ってから、葵は満面の笑みで希望書に薬局名を記載していた。研究室に入ったときからひそかにあこがれていた先生に話しかけられた上、これから実習での話題を話せると思ったからである。

“私ってやっぱり日ごろの行いが良すぎるのかな!これから本当に楽しみね。”自分の運の良さに心底感謝するのであった。



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