第15話 全ては勢い
「我流さん! いつからそこに!」
驚いて八雲は手に持つハイボールを少しこぼしてしまっていた。
「ふふ、女子高生に現金3万円を渡し、靴下だけを残して裸に…のあたりからかしら?」
「そんな話はしてないよ!」
「ま~いいじゃない、そんなことは。それよりも…」
美夜は顔がまだ赤い文也の方を見た。
「あなた、本当に今日のことが教訓になったと思ってるの?」
「へ。なったと思いますけど…」
「単純に振られただけでしょ? 何の意味もないわ。」
「ちょっと、我流さん!」
吐き捨てる美夜の態度がさすがにまずいと思ったのか、八雲が諫めようとする。が、
「それに、あなた何だっけ名前… え、七條?じゃあ七條君、あなたなんで振られたと思う?」
「はあ? 桜庭さんに好きな人がいたからに決まってるじゃないですか!」
文也は酒のせいもあり、少しイライラした気持ちを美夜にぶつけていた。だが、そのさまを見ても美夜は落ち着いていた。
「違うわ。あなた、葵ちゃんがまじめっていうところを見落としてるわ。」
「え…」
「ぶっちゃけ、付き合ったら七條君は葵ちゃんと何がしたいの?」
「え…それは手をつないだり、デートしたり、キ、キスをしたりとか…」
最後のあたりは恥ずかしいようであまり聞き取れなかった。
「んで、結局やりたいってこと?」
「え、何をです?」
「何ってエッチやまぐわいやグッチャネに決まってるじゃないの。そこら辺の中学生だってわかる言い方でしょ?」
「グッチャネなんて河童じゃない限り通じませんよ!っていうかそうじゃなくて、別に僕はそんなこと…少しはまあ考えていたかもしれませんけど。でも、そんなことしたいために彼女を好きになったんじゃありませんよ!」
「へえ、じゃあ何で好きなの?ちゃんと納得させてくれる理由を言ってくれるんでしょうね?」
「ええ、あれは最初の講義の時です。あのとき、
他にも、僕が有機化学の単位落としそうになったんで勉強を教わったり、大学祭での仕事手伝ってもらったり、実験の時に作業手順教えてもらったりとか。ほかには…」
「長いわね。そして数が多い。誰も相手のいいところ100個言えって言ってないわ。結論をお願い。」
「っく! いいですか、とにかく僕は彼女の優しさが好きなんですよ! 僕を何度も助けてくれたあの優しが! でも接していくうちにそれだけじゃなくて急な対応できずにテンパるところとか興味ない人に対してそっけないとかそういう部分も含めて全部好きなんです!」
あまりにも大きな声で言うため、その場にいるものはみんなぽかーんとした表情になっていた。が、美夜はすぐに表情を戻し、なぜか引き戸に顔を向けた。
「だそうよ。葵ちゃん。」
そう言いながら美夜が個室の引き戸を開けると向かいの個室には葵がいた。酒のせいかはわからないが顔が真っ赤だ。
「へ…」
「私は今日葵ちゃんと飲みに来てたのよ。じゃあ私は葵ちゃんのところに戻るから後は勝手にやってね。」
「あ、あの桜庭さん。さっきのは…」
「ご、ごめん、七條君。ちょっと今は…少し考えさせて!」
ピシャっと美夜が個室の引き戸を閉めた。
「どうだった? 彼の本当の気持ちは。」
「すみません。すごく恥ずかしんですけど…というか明日から気まずいというか…」
「まあ、酒のせいにして忘れるのもいいし、まじめに向き合うのもよし。頑張って~」
「そんな他人事な… まあ、さすがになかったことはひどいので向き合います。もう少し彼のこと知ってから考えますよ。」
赤い顔から元に戻らない葵を見ながら美夜は思った。
”まあ八雲より七條の方がまだましでしょう”
次はまじめな話に戻ります。




