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にくきゅう薬局  作者: 渋谷 春
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プロローグ

プロローグ


その日は寒い上に雨だった。毎日好きじゃない仕事に嫌気がさしていたのに天気のせいでさらに憂鬱な気分になった。

「くそ!あいつ、本当に腹立つわ!」

今日の不満を誰もいないのに口から吐き出してしまっていた。上司の薬剤師、また看護師が自分についてねちねち言ってくることに本当にムカついていた。

「何が国立大学出身だから分かるでしょ?よ。1年目で完璧にできるかっての!」

そう叫ぶも周りからは雨の音しか聞こえない。しばらく雨の音を聞きながら彼女は次第に冷静になっていった。正直自分にこの仕事は合っていないのかもしれない、そう思い始めていた。

彼女、我流がりゅう 美夜みやは今年の4月から病院で薬剤師をしていた。今は11月で7ヶ月たつが、毎日のように怒られていたため、毎日一人で不満を爆発させていた。しかし、美夜は毎日あることで乗り切っていた。

”今日は、子猫でも見ようかな”

そう思いながら、帰ってからの予定を考え始めていた。美夜は猫好きで最近はインターネットで猫の動画を探すのが趣味になっていた。それなら猫飼えばいいのでは?とよく友人たちからも言われており、美夜もそうしたいといつも思っていた。だが、それをできない理由がある。

”やっぱり、一匹を部屋に残しておくのは不安なのよね”

そう、美夜は猫に対して過保護でもあった。もし、その間に火事とかになって逃げ遅れちゃったら…そう考えるとどうしても踏み切れなかった。

そう考えるうちに雨はますます激しくなってきた。

”最悪…” 

そう思いながら変わらない帰り道を歩いていると何か目の前を横切った。驚いたが、正体が分かり、すぐに安心した。猫だった。その猫は手のひらに乗りそうなほど小さくサバトラ柄で、雨でに濡れているせいもあってか見るからに弱っていることが分かった。近づこうとすると、「フウウッ」 と弱々しい声ながら警戒された。

”そんなに警戒しなくても…” 

少し悲しくなりながらも、美夜はかばんからビスケットを出した。猫は警戒してるようだが、ゆっくりと近づいてきた。そして、スンスンとにおいをかぎながらそっとビスケットをかじった。その様子を見ながらそっと頭をなでると、猫は少し嬉しそうに 「みい」 と鳴き、こちらを見るのだった。

”か、かわいい…”

その猫を見ていると、飼いたくなってきた。

”で、でも、今の状況じゃ、病院が忙しすぎて飼えない…他の職場探すにしても1年で辞めた人雇ってくれるかなあ。”

様々な不安が頭の中を駆け巡っていた。ここで安易に決めてしまうと、自分の今後のキャリアがえらいことになるであろう。

そのとき、子猫が美夜の足に抱きついてすりすりしてきた。

「みいぃ」 小さい声で鳴きながら、上目遣いで見てくるではないか。

美夜はその姿を見ると、今の悩みはちっぽけなことのように思えてきた。

「やっぱり仕事変えよう。住む場所も!」

自分の部屋がペット禁止であることを思い出しながらそうつぶやいた。


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