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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
王国兵士編
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のほほん8

将軍の根回しによって、ヴィータはレフィリア姫の旅の護衛を務めることが決定した。王国兵たちからは不満を訴える者もいた。


王族の護衛を任せられるのは名誉なこと。実力を認められた証。地位を名誉を得たい者達にとっては一歩前進するものでもある。あわよくば王族に認められ親衛隊に所属することが出来るかもしれない。と夢が広がることだからだ。


親衛隊はそのほとんどが貴族出身でエリートたちだ。志願して兵士になった者達と違い、最初から王城での護衛を任されるような貴族の才能ある者達から、さらに厳選されて選ばれた者達。


最低レベルは30台後半で、ほとんどの親衛隊が40台に到達している。貴族出身であるため礼儀作法、学問に長け、魔法にも詳しい。王族の守りを任されることの誇りを持っている。とはいえ、すべての親衛隊が貴族という訳ではない。少数だが平民もいる。


志願した兵たちの中でずば抜けて実力がある者が選ばれることがある。親衛隊候補に挙がった者達から礼儀作法、学問、魔法を学ぶ。そして合格した者の中からさらに厳選され、親衛隊に相応しいと認められれば入隊することが出来る。


そしてさらに王に認められれば貴族になれると言うわけだ。もし親衛隊に入れなかったとしても実力は確かなため、優遇されるのだ。


王族の護衛は優秀でなければ務まならない。ヴィータのように鍛錬について行くことが出来ない者に護衛など務まるわけないと将軍に直談判しに行く者もいる。ヴィータ自身も務まるわけがないと将軍に辞退すると言いに行ったのだが、それらすべてが将軍により却下されていた。


ヴィータの才能が開花してほしいと、ヴィータの決意を、信念を、覚悟を見つけるきっかけになればいいという将軍の密かな願いによって決められたものだ。こうしてレフィリア姫の見識を広める旅は始まったのであった。


この旅はヴィータが兵に志願して2年と8か月経ったときのことだった。


(……相変わらず綺麗な人だなぁ……)


旅が始まる前、レフィリア姫の軽い挨拶から始まり、挨拶が終わった後レフィリア姫の一歩後ろに待機していた親衛隊隊長エレノアと共に馬車へ乗る。その一つ一つの動作を間近で初めてレフィリア姫を見ていた兵たちはその美しさに見惚れている。ヴィータもその一人だ。


馬車が動き出し、親衛隊は馬に乗り馬車の後ろを、護衛に選ばれた兵たちはそのさらに後ろを隊列を組んで歩いて行く。普段の鍛錬と違い、徒歩での移動だが、ヴィータにとってはかなりきつい。


「ヴィータ、遅れているぞ。隊列を乱すな」


「はいであります! オランド隊長!」


「テキパキ歩きなさい!」


「はい……であります! ……アリア先輩!」


親衛隊を除く兵たちは25名。小隊は5。その中の一つの小隊にヴィータはいる。ヴィータが呼ぶオランド隊長とアリア先輩はヴィータが参戦した戦争でもかなりの功労者である。


オランド隊長は将軍が認めているほどの人物で、親衛隊に入ろうと思えば入れるほどの実力者。貴族の礼儀作法は堅苦しくてやってられないと本人が言うため親衛隊には入っていない。


アリア先輩の性別は女で、女の身でありながら兵に志願した変わり者だ。伝統である新人いびりにも平然としていたと聞いたことがある。さらには男がついて行けないほどの厳しい鍛錬にも1か月経たないうちに順応するなど、凄まじい才能を持っているらしい。先の戦争でもオランド隊長と共に戦い抜いた実力者である。


兵に志願するなどという女はいないが、貴族出身で女でありながら軍に所属する者はいる。親衛隊にも何名か所属している。その筆頭は親衛隊隊長を務めるエレノアだ。彼女はレフィリア姫が生まれてからずっとそばでレフィリア姫を支えている。


一日中歩くだけ、鍛錬についていける者なら苦もないのだが、ヴィータにとっては地獄だ。王族が乗る馬車が目の前にいるというのにたった一人だけ少しずつ歩みが遅くなる。遅くなるたび、隊長に注意される。


そしてそれは普段合うことのない親衛隊に伝わり、王族であるレフィリア姫にまで伝わってしまう。斬り捨てられても文句が言えないほどの無礼を働いているのと同じだ。


たった一日でヴィータは早くも帰りたいと思うようになってしまう。


「あなた……確かヴィータと言ったわね。こちらに来なさい」


「は、はいであります」


1日程度では他の村や街に辿り着けないため野宿をする。その夜にエレノアに呼び出されてしまった。


「あなたあれは一体なんです?」


「も、申し訳ありません!」


あれとは1日の行軍だ。たった一人だけ遅れているのだから呼び出されるのは当然だ。


「……あなたがなぜ将軍の推薦を受けたのか本当に疑問です。もっと王族を守る兵としての自覚を持ちなさい!」


王族に泥を塗ってしまっていることはヴィータにもわかっているのだが、やはり直接言われるとさらなる劣等感を抱いてしまう。


「将軍に言われてなければ、とっくに斬り捨てています! わかりますか!?」


尊敬する将軍にまで迷惑をかけている。わかっているのにどうすることも出来ない。


「エレノア殿。その辺でいいではないですか」


「あなたは……オランド殿。しかしですね……」


「ヴィータも十分絞られた。ちゃんと反省している」


「……申し訳ありません……」


「……ですが!」


「それにそろそろエレノア殿のことを心配してレフィリア姫が出てきてしまいますよ?」


「……そうですね。明日は魔獣も出るようになるでしょう。しっかりやりなさい!」


そう言ってエレノアは姫のいる馬車へと戻る。


「思う所があるだろうが、お前が努力していることは親衛隊以外のすべての兵が知っている。明日もしっかりついてこい。いいな?」


「……はい……」


「返事はしっかりしろ!」


「は、はい!」


「それでいい。さぁ飯だ」


オランド率いる小隊の輪へ戻り、食事をとる。


「……オランド隊長」


「どうした?」


「どうして俺はこの護衛に任命されてしまったのでしょうか?」


「将軍は言っていた。お前のきっかけになればいいと」


「きっかけでありますか?」


「あぁ、農民出身のお前は王国を旅したことなどないだろう?王国を見て回れば何か得られるかもしれない。そう言っていた。ま、難しく考えんな。今は斬り捨てられないように必死について行けばいい」


「そ、そうでありますね」


「アリア」


「いやです」


「……まだ何も言ってないだろう」


「話の流れでわかります。フォローするのと甘やかすのは違うと思いますが?」


「そうなんだがな……」


「よくわからないでありますが、明日は何とか遅れないようにするであります!」


「その精神は学べるんだがな……アリア」


「……ふぅ……私の魔力が持つかわかりませんよ?」


「謙遜するな。お前なら余裕だ」


「???」


ヴィータはそんな初日を終えた。

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