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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
英雄誕生編
89/92

のほほん88

ヴィータが王都を去ってから1か月が経った。


王都にはもう人気がほとんどない。王が命を出し、王都にいる兵に王都中にいる民達に呼びかけた。その王の言うことを信じなかった民くらいしか王都には残っていない。王都の門ももう一ヶ所しか空いていなかった。帝国側から最も離れた門のみ空いている。


王国の友好国たちは援軍を寄こせない。帝国の差し金によって帝国に与する国たちの妨害、あるいは戦争を仕掛けられ、それどころではなくなっているのだ。徹底した王国潰し。そしてそれがもうすぐ成されるかもしれない。


そんな王都の中で最も閉鎖的な場所、そこに在るヴィータの家でまだ過ごしている人がいた。それはティアやコン太達ではなかった。


「レフィリア様。早く王都から離れましょう。もう王国軍も限界だという報告がありました。王も、レフィリア様が残っていると知ったら嘆かれます。それになぜ、ティアさん達と共に行かなかったのですか? わざわざティアさんから家の鍵を借りてまで残る理由はないはずです」


ヴィータが去った後、レフィリアは突然残ると言い出した。


考えたいことがあると。


そしてこの誰も来ない場所の方が城より深く考えられそうだからと、ティアにお願いをして家に残ることを許してもらったのだった。ティア達も残ろうとしたのだが、レフィリアの個人的なことだからと、説得され王都から出ていった。


エレノアはレフィリアの専属の護衛。

護衛でなくともエレノアは出ていく事はしないだろう。

エレノアにとってレフィリアは本当に大切な存在なのだから。


レフィリアが生まれた時からずっと共にしたエレノアにも、今のレフィリアがなぜここに残ると言ったのかわからなかった。出来ることは危険だから離れようと説得することだけ。しかしレフィリアは説得に応じず、考えたいことがあるからと頑なに家から、一つの部屋から出ようとしなかった。


「私は今も考えていますから。エレノアがここに残る必要はありませんよ」


「誰が何と言おうと私はレフィリア様の傍にいますよ。王妃様から頼まれ、そしてそれが私自身の誓いに変わったこと。レフィリア様を助け、見守るという使命がありますから」


「……そうですか。もしかしたら私はこの家からずっと出ないかもしれないんですよ?」


「でしたらずっとこの場に残るだけです。例えこの場に私が勝てなかった帝国将がやって来ようとも、命を懸けてレフィリア様を守りましょう」


「もし……もし、本当にそうなったら……そしてどうしようもなくなってしまったら、エレノアは私を終わらせてくれますか?」


「っ! そ、それは……」


「私は誰かに利用されたくありません。利用されてしまうのであれば、終わりにしたいです」


エレノアは深く悩む。


レフィリアの幸せを誰よりも望むエレノア。それがもし叶わない、壊されてしまうかもしれないのなら、エレノアはどう動くのかを。


「……もし……もし、本当にそうなってしまう事態になったのであれば、私が、私自身の手で終わらせます。それをレフィリア様が……望むのであれば」


「……そうですか……ありがとう……ごめんなさい。エレノア」


エレノアは答えを出した。

深く悩み、結論を出した。

レフィリアのためならばと。


そして深く呪った。

自分の弱さを。


レフィリアはそのエレノアに自分のすべてを任せられることをその存在を感謝し、そしてそんな役目を与えてしまうかもしれないということを謝った。


「レフィリア様、そこはありがとうだけでいいのです。謝る必要はありません。すべては私が至らないせいなのですから」


「それは私も同じです。一人ではずっと悩んでいたでしょうから。エレノアのおかげで答えが出せました」


「答え……ですか?」


「えぇ。お父様は、王は言いました。どんな結末になろうとも、最後まで王として残ると。愚王と罵られようと何と言われようとも民を守るために、そして民を守るために今も命を懸けて戦い続ける兵士たちのために」


レフィリアは自分の気持ちを確かめるように言う。


「王国の兵士たちはいつも、私のような力の無い者達の代わりに命を懸けて戦い、中にはその命を散らせていったでしょう。今だってそうです。勝てるならともかく、負ける可能性の方が高いはずの戦場で逃げずに民たちを守ってくれています。その兵士たちの活躍は私にも聞こえてきます。全滅してもいいと言わんばかりに、最後の砦で残り続けています」


ヴィータは王都から王国の兵士たちがいる拠点まで行った。


その後、何度も何度も帝国兵達と刃を交えた。オランドの言う通り、民たちを逃がす時間を稼ぎ、踏ん張り続けた。


だが限界がやってきた。


帝国将軍は攻め手を緩めず、確実に王国軍を追い詰めたのだ。王国軍は拠点を捨て、王国の最後の砦に篭ることになった。その報告はエレノアを通してレフィリアにも伝わった。


エレノアはレフィリアに言わなかったが、それが最後の伝令だと兵士は言った。後は自分達が全滅するまで時間を稼ぐ、だからその間に民達を家族を恋人を逃がしてほしいと。王国は、王国軍は、ヴィータ達は追い詰められた。次もし王都にやってくる兵がいるとしたら、それは帝国兵だろう。


レフィリアはエレノアにそのことを伝えられていない。けれど察したのだろう。


「ヴィータさんもそうです。本当に死ぬかもしれない死地に、私達を守るために、王国兵達と一緒に戦うために王都から出ていきました。本当に死ぬかもしれない。生き残れないかもしれない。そんな場所へ行きました。ヴィータさんが、お父様が、王が、王国のすべての兵士たちが命懸けで戦っているのに、私は言われるがままに逃げてしまっていいのでしょうか?」


レフィリアは胸に手を当てて自問自答する。

本当にそれでいいのかと。


「私もお父様と同じです。たまたま王族に生まれただけの女です。けれど王国の民たちは皆、私のことを王国の象徴と言います。その象徴と呼ばれるような者が、誰よりも安全に、誰よりも裕福に過ごし、そして危険になったからと誰よりも先に逃げていいのでしょうか?」


「……レフィリア様……」


「私は普通の、平民の暮らしに憧れています。王族を辞めたいとも思っています。でも今この時くらいは真に王族であろうと思います。ヴィータさんが私を、皆を守ると言って戦場へ行ったように。お父様が、王がそうすると言ったように。私も、私にも出来ることをやろうと思います」


「どうする……おつもりですか?」


「私は戦うことは出来ません。でも支えることくらいなら出来ます。私にはお父様とお母様が与えてくれた回復魔法が使え、王族として生まれ様々なことを学んできました。それをこれから活かしたいと思います。今も戦うヴィータさんや王国の兵士達のために。それに象徴と言われるくらいですから、行けばやる気になってくれるかもしれません。勇気を与えられるかもしれません。ヴィータさんもそう言ってくれましたから」


「行くつもりですね? 死地へ。そのために私に聞いたのですね。終わらせることが出来るかと」


「行きます。エレノアが言ってくれなければきっとここに残り続けたかもしれません」


「そうですか……でもなぜこの部屋からほとんど出なかったのですか?」


「そ、それは……」


さっきまで王族として相応しい姿だったそのレフィリアが、途端にもじもじとしていた。部屋からほとんど出ない。いや、ベッドの中から出ないという方が正しいか。


エレノアが今までで一番誇らしい姿を見れたと心の中で歓喜していたが、途端に胸騒ぎがした。


いやまさかレフィリア様とあろうものが?

この家に残りたいと言い出した理由はまさか?

深く考えられる?

この部屋はまさか?


今のレフィリアは、エレノアのよく知るレフィリアだった。先ほどまで心の内を読めなかったはずなのに、今のレフィリアの気持ちはよくわかってしまった。


「いえ、やはり今の質問は……」


「ヴィータさんの匂いがするのでつい……」


キャッ、言っちゃった! みたいなノリだった。エレノアに今までで一番強烈な衝撃を受けた。眩暈がして倒れてしまいそうになってしまう。そして今までで一番ヴィータを憎んだ。


今のレフィリアはどこにでもいる恋する乙女。愛する者のベッドに潜り込み幸せそうにしていた。もしかしたらずっと狙っていたのかもしれない。


「レフィリア様!!! 先ほどまでの感動を返してください!!!」


「少しくらいいいではないですか! ヴィータさんだって許してくれます!」


「……あの野郎……覚えておけ……レフィリア様にあんな事までさせやがって……」


レフィリアは隠していたことがバレたと恥ずかしそうにはしていたが、知られたことで開き直っていた。堂々と布団を抱きしめている。対するエレノアはヴィータに対してさらなる憎しみを覚えていた。


「あ、あれは……勢いあまってつい……最高のシチュエーションでした。死んでも忘れることはないでしょう。ヴィータさんも満更ではないようでしたし……デヘヘ」


「っ~~~!!!」


「エレノア、支度をお願いしますね。お父様達にはバレないようにお願いします」


「……わかりました。レフィリア様は支度が出来るまでどうされますか?」


「私はここにいます」


レフィリアは真顔で言った。


「レフィリア様!? そうだ! ヴィータが知ったら嫌われるかもしれませんよ!」


「バレないから大丈夫です! ここには私とエレノアしかいないのですから! もしバレても知らなかったで通せばいいのです! さぁ早く行ってください!」


「……はい……ヴィータ……覚えてやがれ……覚えてやがれ……」


レフィリアはエレノアが支度出来るまでベッドから離れなかった。エレノアは支度している間ずっとブツブツと何かを呟き、周りの者達に怖がられていた。

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