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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
英雄誕生編
86/92

のほほん85

帝国との戦争は予想を遥かに上回る劣勢を強いられていた。王国軍はどうする事も出来ず、少しずつ少しずつ拠点を奪われていった。そうなってしまうことになった理由はたくさんある。


最もな理由は将軍という絶対的支柱が失われてしまったから。


将軍の地位を受け継いだばかりのオランドにはまだまだ経験が少なかった。少なすぎた。将軍に比べ経験が圧倒的に少なく、全ての兵たちの信頼を勝ち取る時間がなさすぎた。


しかし、うまく機能しない王国軍を必死にまとめようとしているオランドは立派なものだろう。将軍が示し続けていたように、怪我が治ったオランドは誰よりも前を走り、誰よりも勇敢に戦っているのだから。


オランド以外にも問題はあった。新たに将になったばかりのルーシュやバラン達も隊を上手くまとめているとは言い難い。帝国と戦うにはまだ早すぎた。


もし、この王国軍に、オランドの隣にアリアの他に将軍が補佐していれば、また違った結果になっていたかもしれない。それほどまでに将軍の抜けた穴は大きかった。


そういう意味では将軍が倒れたことを知った帝国がすぐに攻め込んできたのは、これ以上ない的確な判断だった。事実、王国は敗戦に敗戦を重ねているのだから。


将軍が知らず知らずのうちに焦りだしていた世代交代の波の脅威、それは将軍だけではない。将軍と共に戦い抜いた歴戦の勇士たちにも同じことが言えた。老いには勝てず、かつて将軍と共に王国の名を轟かせたほどの勢いがなくなっていた。


王国軍は帝国の猛攻に耐えきれず、踏ん張り切れずに撤退するしかなかった。その代償として多くの兵士が死んでいく。歴戦の勇士たちが殿を務め散っていく。オランド達はただただ自分たちの未熟さを嘆いていた。


帝国は強かった。


王国と同じように世代交代をしているはずなのに。王国とは違う在り方の帝国が常に強国なのは理由があった。王国のように後継者たちを育ててはいない。自らの意思で強くなろうとしているのだ。


地位が名誉が女が金が欲しければ、自らを鍛え力をつけて奪い取れ、その力を示せ。それが帝国の在り方だった。代々の王も王位に就きたいと願う王族達が力で奪い合ってきた。貴族たちもその名を名乗りたければ力を示してきた。


そしてそれは兵士達も同じだ。


将になりたければ、将軍という地位に就きたければそこにいる者を自らの力を示し、蹴落とす。その地位に就いたとしても安心は出来ないのだ。さらなる高みに手を伸ばすために、手に入れたものを奪われないように、日々力をつけるべく戦ってきた。その在り方から、将になったその次の日には一兵卒に蹴落とされるなど当たり前だった。


帝国に身を置く者達なら誰でも知っていること

常に激しい競争の中に身を置いていた。


その中で勝ち取り居座り続けている将達は尊敬され、その信頼も厚かった。それだけの力が帝国の将達にはある。その勢いは留まることを知らなかった。


かつてヴィータが王の間で戦った帝国将は、その後さらに力をつけ、若くして将軍になっていた。オランドとは違い、自らの力で将軍の地位にいた者を蹴落とし上り詰めた。


帝国将軍はそれで満足していない。

次に狙うは王という地位。

全てを手に入れるという大きすぎる野望。


帝国将軍にはそれを叶えるに足る力があった。

今はまだ帝国の将軍。

だがその力は、その牙は王国を食らいつくすに十分な力だった。


王国は窮地に立たされている。

王がある決断を迫られるほどに。


そして王は決断した。


「皆の者。王都にいる兵をすべて集めろ。王都を捨てる」


「な!? お待ちください。まだ負けたわけではありません!」


「勝ち負けではない。そのようなものにこだわり多くの民を死なせるわけにはいかないのだ。私の先祖たち、代々の王は私を攻めるだろう。愚王と罵るだろう。それで構わん。多くの民の命を守れるならな」


「……王……」


「聞けば新たに受け継いだ将軍は、周辺の町や村の民たちを逃がすために時間を稼いでいるというではないか。負けると決めつけ逃げてばかりの腰抜けと罵る者もいるが、私はその将軍を誇らしく思う。さぁ、私の命令を聞け。王都にいるすべての民たちを一人でも多く守るために」


「はっ!」


「それと、レフィリア達を呼んでくれ」


王はレフィリアを呼んだ。そのレフィリアは不安そうな顔をしていた。王の間には今、王とレフィリアとエレノアしかいない。


「お父様。何でしょうか?」


「来たか。レフィリアよ。エレノアと共に王都から、いや、王国から離れるのだ」


「っ! なぜですか!?」


「聡明なお前ならもうわかっていることだろう。王国は恐らく滅ぶ。友好国にはもう使者を送っている。お前を受け入れてほしいとな。そこで静かに暮らせ」


「……お父様……」


「お前は小さい頃から、平民の家族に憧れを抱いていたと言っていたな? その夢を叶えればいい。エレノアよ。これからもレフィリアを頼めるか?」


「……はい。この命ある限り」


「まぁ、私から頼まずともお前ならやってくれるとは思うがな」


「……お父様。お父様はどうされるのですか? 一緒に、一緒に行かないのですか?」


「私はここに残る」


「なぜですか?」


「私は形だけの王。王族として生まれなければ、王位にはついていなかっただろう。周りの者達が優秀でなければ、王国はこれまでのように強国として知らしめていなかったであろう。私が王であれるのは周りの者達のおかげよ。その周りの者達が、王国の兵士たちが今なお命懸けで帝国と戦い民を守らんとしている。形だけの王だが、その兵士たちを置いて逃げるつもりは無い。王として最後までここに残る。それが私が誓ったこと、愚王と罵られようと何と言われようとも……な」


王の目にはその決意が見て取れた。いつからそう思うようになったのか、それはわからない。レフィリアはその父親を説得出来るとは思えなかった。


「わかり……ました」


「以前の帝国との戦争。あの王の間であったこと、その時のことでやはり私には王に向いていないと思い知らされた。そしてあの時、あの帝国の者がいずれ王国を呑みこむだろうと感じていた。その予感は的中した。もはやどうする事も出来ないだろう。呑みこまれる前に早く王都から、王国から離れるのだぞ。何ならヴィータと言ったか? その者と一緒に逃げるといい、そして逃げた先で一緒に暮らすといい。迫る帝国からの逃避行。その中でさらに愛を育めるかもしれんぞ?」


王はニヤリと口元を動かし言った。


「お、お父様! こんな時に、な、何を言っているのですか!」


「…………」


顔を赤らめるレフィリアを見て、笑う王。そして密かに拳を握り締めるエレノア。


「こんな時だからこそだ。唯一の心残りは孫の顔を見れないという事だろうな!」


「お、お父様! 孫だなんて……そんな……デヘヘ」


「……孫……レフィリア様とあの野郎の子? そんな……あり得ない」


レフィリアとエレノアは実にわかりやすい反応を見せる。

王は思う。

もっと家族として接することが出来ていればよかったと。


「さて、レフィリアよ。最後に顔を見せてくれ。最愛の妻の生き写しであるお前の顔を」


「……最後だなんて言わないでください」


「そうだな。さぁ見せてくれ」


王は静かにレフィリアの頭を撫でる。それは我が子を想う父親の姿だった。


「父親らしいことが何一つ出来なくてすまなかったな」


「そんなことありません。私はお父様の娘として生まれてこれて幸せ者です」


「そうか……ありがとうレフィリア。エレノア、レフィリアを頼んだぞ」


「はい、必ず守り抜きます。親衛隊隊長として、レフィリア様の友として、生まれた時から見続けてきた姉として」


レフィリアとエレノアは王の元から離れていった。王はレフィリア達が去った後、父親ではなく、一人の男として、王として王都に共に残ると言った忠臣達と共にオランド達王国兵が守り抜いた民たちのために動き出した。

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