のほほん78
今日も兵士たちは日々の仕事を終えて夕食を食べる。
ある者はたまには豪勢な夕食をと仲間を連れて兵舎から出ていく。
ある者は性欲を発散したいと女を求め娼館へと向かう。
ある者は明日の準備を整え寝静まる。
ある者はさらなる高みを目指すため、体を鍛え剣を振るう。
そんな一日の終わりが訪れ始めた夜。
先ほどまで騒がしかった兵舎は静けさを取り戻していた。
そんな静けさを取り戻した兵舎の暗闇に紛れ、
1人の兵士がある兵士の部屋の前で立っていた。
「……ふぅ……」
その兵士は胸を押さえ深呼吸。
「もう……待てません」
そんな呟きを残して誰にも気づかれないように静かに部屋に入っていった。
その部屋は兵舎にある部屋の中でもそこそこ広い。
それなりの地位にいる者が与えられる部屋。
窓からは雲一つない夜空を照らす月の光が差し込んでいた。
兵士は気配を消して静かにその部屋の主の寝ているベッドに近づいた。
出来るだけ音を立てないようにしながら寝ている部屋の主の上に乗った。
「何のつもりだ? アリア」
「起きていたんですか? オランドさん」
月の光だけが部屋を満たしている。
その部屋で寝ていたオランドの上に遠慮なくアリアは馬乗りしていた。
オランドはアリアを見上げ、アリアはオランドを見下している。
お互いにじっと目を見て離さない。
「あぁ、それで何のつもりだ?」
「何のつもりだと思いますか?」
「さぁ、俺にはわからねぇな」
「そうですか。あくまでもとぼけるオランドさんを夜這いに来ました」
「男ほどじゃなくとも女も性欲くらいあるもんな。俺の知っているいい男を紹介してやる」
「紹介しなくても大丈夫ですよ。私はオランドさんを食べに来たんですから」
「そうか。残念だったな。俺はオレンドっていう名前なんだ」
「そうですか。ではいただきます」
「待て待て」
アリアは遠慮なくオランドの服を脱がそうとする。
「十分待ちました。兵士に志願し10年。オランドさんの傍で働き続けましたが一向に迫ってくる気配はありませんでしたので」
「俺は部下に手を出すような男じゃないんでな」
「えぇ、ヘタレですからね」
「ヘタレってな……」
「それに私はもう25になります。女としての価値が無くなり始めるでしょうし、危機感も感じ始めました。なので責任を取ってもらおうと思います」
「安心しろアリア。お前なら30過ぎても40過ぎてもいい女だろうよ」
「ありがとうございます。では……」
「待て待て待て」
話しながらも服を脱がそうとするアリアを阻止するオランド。
不意にアリアの手が止まる。
普段では絶対に見ることの出来ない寂しげで不安そうな顔をしていた。
「……私では……ダメですか?」
「あのな」
「私はあなたの隣に居続けました。あなたの隣で戦い続けました。守られるだけの存在ではなく、共に戦い、共に支え合い、共に生きる。それを出来ると口にするだけでなく、実際に4度、戦争で戦い、生き抜き、それを証明しました。それでもまだ足りませんか? それでもまだ……あなたが守れなかった幼馴染の婚約者を越えられませんか?」
「……アリア……」
「私では……私の力では……オランドさんの隣に立つ資格はありませんか?」
オランドは今も過去に捕らわれていた。
思い出し、苦しむ時もある。
夢で見て絶望してしまう時もある。
大切な人を失ってからずっと、ずっと乗り越えられていなかった。
「返事がもらえないならもらえないでも構いません。夜這いを決行するだけです」
「おいおいおいおい!」
先ほどまでの表情はどこへやら。
アリアはまた冷静にオランドの服を脱がそうとする。
「女として生まれてきた以上。体に傷がつかないように努力してきました。兵士に志願した後も女の体を維持するために支援魔法を使い続けて鍛錬をやり過ごしました。おかげで兵舎の男たちの言う程よく肉のついた柔らかい体のはずです。顔も周りの反応を見れば悪くないと自負しています。さすがにレフィリア様のような規格外の方と比べられては困りますが」
抵抗するオランドに今度は色仕掛けを仕掛けるアリア。
軽く服をめくり白い肌を露出させ、ペロリと自分の唇を舐める。
「このオランドさんの反応なら問題なさそうですね。自ら立ち上がってくれないのなら、無理やり立ち上がらせるだけです。元々私は待つことが苦手で、攻める方が好きですから、安心して任せてください。大人しく既成事実を作らせて責任を取ってください」
「……はぁ……そんなに俺は情けなく見えたか?」
「えぇ、とっても。忘れろとは言いません。今も愛している人なんでしょう? でもいつまでも過去に縛られているのはダメです。今のオランドさんを幼馴染の婚約者が見たらどう思うでしょうね」
「わかっちゃいるんだがなぁ……」
「だから私にヘタレと言われるんです。いい加減歩き始めてください」
「そう……だな」
抵抗しなくなったオランドの服を遠慮なく脱がし始める。
アリアがオランドのパンツに手をかけようとしたところでオランドが動き出した。
「あっ」
「悪いなアリア」
「往生際が悪いですよ」
「俺も待つのは苦手で、攻める方が好きなんだよ」
「……知ってます……」
オランドは言いながらアリアを押し倒した。
・・・
・・
・
朝、オランドは1人静かに朝食を食べていた。
そこに数名の兵士が近づいてきた。
「おはようございます。オランドさん」
「おう、おはよう」
「昨夜は随分激しくされたそうで」
「ふっ、まぁな」
「兵舎で寝ていた大半が娼館へ走って出ていきましたよ」
「悪いことしたな。今度飯くらい奢ってやらねぇとな」
「楽しみにしてます。それよりもですね……」
「あん?」
「あのアリアさんをあそこまで息絶え絶えにさせるテクニックを伝授してほしいと思いまして!」
「朝っぱらから元気なもんだ。夜に教えてやるよ」
「ありがとうございます! いやぁ……しかしアリアさんはあんな風に……ぎゃあああああああ!!!」
いつの間にか立っていたアリアが一人の兵士の関節を決める。
「そのくらいにしてやれアリア」
「知らない女の体の話ならともかく、話題の中心が私となると放っておくつもりはありません」
「い、いつの間に……」
「まぁ、男しかいない兵舎でやりゃあそうなる」
「俺らとしても色々と困りますね。あれを耐えられる男はそういませんよ」
「わかってるよ。そろそろ俺も家を買わねぇとな」
「家ですか。ふふ、楽しみに待ってます」
「アリアさんが笑った!?」
「ヒューヒュー……なぜええええええええええ!!!」
「からかわれるのは嫌いですから」
その日、オランドとアリアの話題で持ちきりだった。
祝う者もいれば、ようやくくっついたかと安心した者もいる。
中には泣いてしばらく部屋から出なかった者もいたそうだ。




