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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
鍛冶職人編
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のほほん76

アリア。


その名は王妃のように強く美しく育ってほしいと、王妃と同じ名を付けられた。

その付けられた名に負けず劣らず、小さい頃から美しかった。


両親も、その周りの者達も皆アリアに期待した。

当の本人は期待に応えるつもりは無いようだったが、

それでもアリアは優秀だった。

幼くして支援魔法を使えたその少女に期待するのは当然だろう。


ただ、その期待に応える必要が無くなった。

いや出来なくなった。

戦争が起きたのだ。


そしてアリアの住む街に敵兵が押し寄せ、家族を町に住む者達を容赦なく殺していった。


両親はアリアを逃がすために女子供を乗せた馬車に乗せた。

だが、敵兵の魔の手はその馬車にまで伸びてきた。


街は燃え盛り、馬車に乗っていた女子供のほとんどが殺されていくなか、アリアは幸運にも生き残ることが出来た。王国を守る兵士たちの手によって救い出されたのだ。


アリアは見ていた。


その兵士の背中を、そしてその兵士が一人の女性を抱きかかえて泣いていたことを。


………………………………


オランド。


その男は、兵士に志願した当初から有望だった。

誰にでも気軽に接し、誰とでも仲良くなり、そして誰もが認めるほど強かった。

将軍はオランドを一目見た時から後継者として育てることを決めた。


「俺は、大事なもん守るために、強くなるために兵に志願した!」


その立派な志を15になったばかりの男がはっきりと言いきったのだ。

周りの者達は、年上であっても志を持たない者がいる中でそう言ったのだ。

将軍が期待するのは当然と言える。


そしてその将軍の期待を超えるほどオランドはどんどん強くなり、頭角を現していく。オランドにだったら命を預けられる。そう言われるほどに人望に厚く。次期将軍はオランドで間違いないと言われるほどに強いその男は、初めての戦争でも期待以上に活躍した。


恐怖や憎悪、狂気渦巻く戦場の中でも自分を見失わず、味方を引っ張り、誰よりも先に敵陣の中へ。

初めての戦争でこれだけの活躍が出来るだろうか?

そう誰もがオランドを称えた。


その戦争は圧勝だった。

勝ち過ぎたのかもしれない。

それほどまでに圧勝だった。


追い詰められたネズミは猫を噛む。

その言葉通りのことが起きてしまうほどに敵国を追い詰めすぎた。

自暴自棄になった敵兵達が王国の一つの街を捨て身で強襲したのだ。


1つの失敗。それだけで済ませられたのかもしれない。

けれどオランドにはそう出来ない理由があった。

その街はオランドの出身地であり、幼馴染の婚約者がいる街だった。

それを知ったオランドは将軍に必死に懇願し、兵を率いてその街へ急行した。


だが結果は悲惨なものだった。

街に辿り着いた時には炎で包まれていた。

何とか生き残っていた住人から聞き出し、幼馴染を助けに走った。

その幼馴染が乗った馬車は壊され、多くの女子供が殺されていた。

オランドはその惨状に激怒し、敵兵たちを容赦なく皆殺しにした。

助けられたのは貴族の少女一人。

オランドの腕の中には事切れた幼馴染の婚約者。

オランドの心が折れたのは当然だった。


ただ、心は折れたオランドは剣を捨てなかった。

だが、誰もが期待したオランドはいなくなってしまった。


……………………………


両親を失ったアリアは親族の元で両親の願い通りに美しく成長していた。

おかしなことを口にしなければだが。


「私は兵になります」


「君は親衛隊になることだって出来るんだよ。どうしてもかい? 死ぬかもしれないんだよ?」


「えぇ、それでも私は兵に志願します。昔、そう決めましたから。今までお世話になりました」


「アリア! 待つんだアリア!」


それ以降アリアは世話になった親族に会うことはない。

アリアは親族の説得に聞く耳すら持たず、王都にある兵舎へ行き兵に志願した。

王国に属する兵士たちは、親衛隊を除き、すべてが男。

そして王国の歴史上、女が兵に志願したことはなかった。

だからこそ兵舎に住む男達、将軍であっても驚きを隠せなかった。


しかもアリアは、将軍の新人いびりに臆することなく平然としていた。

周りの自分よりも強そうな男たちが泣いたり、漏らしたりしている中でだ。

鍛錬でも同期の中で誰よりも耐えていた。

幼い頃から使えていた支援魔法を駆使して。

最初は魔力切れをおこし、耐えきれなかった鍛錬も、日々支援魔法を使い続けることで同期の中で誰よりも早く鍛錬に耐えられるようになった。


そしてそれを見て筋肉女やら男女やらアリアが気に入らないことを言われると容赦なく攻撃した。

例えそれが先輩であろうと関係なくだ。


「なんであんなに細い体しててあの鍛錬を平然とこなせるんだよ……」


「やっぱりあれだ。ゴリラ女なんだよ」


「……今なんて言いました?」


「え? あ、いや綺麗だなと……いだだだだだだ!!!」


「ふざけたこと言うのは許しませんからね」


「おら、もういいだろ。やめてやれ……えっとなんだったか」


「アリアです。オランドさん」


「そうか、アリア。女ならもっとしおらしくしな。そんなことやってっから男女って……いでででででで!!! や、やめろアリア!!! いででででででで!!! お、おい、折れる!!! 折れる!!!」


「ふん」


「な、なんで俺の時はそんなにきついんだよ……ってぇ」


「知りません」


「そうかよ。きつい女はモテねぇぞ。可愛い顔してんだからよ。持ったいねぇぞ」


「……可愛いですか。脈はありそうですね」


「何のことだ?」


「いえ別に」


「とにかく、ちったぁ慎みを持ってだな」


「オランドさん、その筋肉女に言っても無駄……ぎゃあああああああ!!!」


「そういうことするから男女って……がああああああ!!! や、やめろアリア!!! いだだだだだだ!!! おい、なんで俺だけ他の奴よりきつく締めるんだよ!!!」


「ふん!」

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