のほほん74
魔法付与。
それは何の効果もない装備に様々な効果を与えてくれる。
力の無い者に力を、魔力の無い者に魔力を
さらなる力を求める者に、さらなる魔力を求める者に
何の変哲もないノーマルアイテム、それをマジックアイテムに進化させる。
それを可能とする技術。
それが魔法付与。
「ついに教えてもらえるのですね!」
「えぇ、でもやることは大して変わらないわよ」
「そうなんですか?」
「ティアちゃんが作ったアクセサリーに魔石と素材を馴染ませるだけ」
「馴染ませるですか」
「粉状にした魔石と素材を少しずつ丁寧に丁寧にね」
作ったアクセサリーが欠けていたり、隙間が出来ていたりすればその分だけ魔法付与の効果が薄くなってしまう。魔法付与をする元のアクセサリーの品質が100であれば100までの効果を付与することが出来る。しかし、品質が50のアクセサリーに100の効果がある付与は出来ない。
だからルナはティアにすぐには魔法付与を教えなかった。魔法付与を先に教えてしまえばアクセサリー作りも、魔法付与も中途半端になってしまう。実際にそうなった細工職人は後を絶たない。
完璧な出来のアクセサリーをより一層完璧な物へ昇華させる。そのための魔法付与であって、中途半端な物を誤魔化す為の魔法付与ではないとルナは言う。
「ダンジョンで手に入る装備には時々魔法付与されたものがありますよね? その魔法付与された物の効果が質が低くても高いのはなぜでしょうか?」
「簡単よ。何十年も何百年もダンジョン内にある魔素を吸収し続けたからよ」
「ふむ」
「ティアちゃんだってやろうと思えば同じことは出来るわよ」
「どうすればいいのですか?」
「簡単よ。1つのアクセサリーを何十年とかけて魔力を吸収させ続ければいいの」
「無理ですね!」
「なら、100点満点のアクセサリーを作って100点満点の魔法付与をするしかないわね」
「それが出来るのは1つのアクセサリーにつき1度きり……ですか」
「そゆこと。器用な人なら出来るかもしれないけど、2つのことを同時に極めるなんて普通は無理よ」
「私には出来ませんね!」
「アクセサリー作りに関しては、ティアちゃんは合格よ。日々怠らなければ誰にでも誇れる細工職人になれる。私が教えられることは魔法付与だけね」
「ついにこの時がやってきました!」
ティアは自身で用意した上質な魔石と上質な素材をルナに教えられたように、砕き、粉状にしていく。少しでも粗があればその分だけ魔法付与の効率が落ちるそうだ。ルナにいいと言われるまで30分近く魔石と素材を砕き粉状にし続けた。
そしてその粉状になった魔石と素材を混ぜ合わせ、アクセサリーにティアの魔力を充てながら振り掛けていく。何度も何度も細かく細部まで振り掛け馴染ませる。
「ぷはー! どうですかお師匠様?」
「初心者にしては……と言ったところかしら?」
「やはりそうですよね。難しい」
「やって見てわかったでしょう? 同じところを何度も何度も馴染ませてしまえばバランスが悪くなって効果が低くなってしまう」
「アクセサリーの全体に等しく馴染ませるってことですよね」
「そ。細かく丁寧に、魔法付与もアクセサリー作りの延長よ。集中と根気、後はティアちゃんが何年も何十年も続けて、経験を重ねること」
「頑張ります!」
「頑張りなさい!」
……………………………………
「ティアはルナに魔法付与を伝授してもらったようだな。さて、駄目弟子。お前もそろそろ覚えてみるか?」
「いいんですか?」
「銅、鉄、プラチナ。お前は日々それらを打ち続け、ワシが納得出来る程度にはなったと言うわけだ。完璧には程遠いがな。覚える覚えないは駄目弟子次第だ。どうする?」
「お願いするであります!」
「いいだろう! 途中までは細工職人の魔法付与と一緒だ」
どのような効果を付与したいか。
それで必要な素材は変わってくる。
魔石と付与したい効果の素材と言うわけだ。
魔石と素材の質が高ければ高いほど魔法付与した装備の効果も良くなっていく。
元となる装備の質もその分良くなければならないが。
「いいか駄目弟子。ワシがいつも口を酸っぱくして言っていることを言ってみろ!」
「銅で丁寧に的確に打てるように。鉄で力強く打てるように。プラチナで素早く打てるように」
「そうだ! 丁寧に、力強く、そして素早く打つことが必要なのだ! それは魔法付与にも言える! 魔法付与は出来上がった武具にするものだ! 均等に馴染ませるために丁寧に、馴染ませるためには折れない程度に力強く、付与出来る時間が限られているからこそ素早く打つ必要があるのだ」
「すべてはこのためにという事でありますか」
「いいや違う。魔法付与も所詮は通過点にすぎん。銅、鉄、プラチナ。この3つを打てるようになれば、魔法付与、そしてミスリルへ。そしてそのさらに先にオリハルコンが待っておる。お前はプラチナでも満足出来なかった。なら次はミスリルだ。お前はどこまで行くのだろうな?」
「どこまでも……」
「ガッハッハ! 馬鹿はいい! 余計なことを考えずどこまでもと言えるのだからな! さぁ魔法付与を教えてやろう!」
「お願いするであります!」
ヴィータはドラゴスに師事されたことを言われた通りにやった。
魔石と素材を砕き、粉状にして混ぜ合わせる。
「よーし、そのぐらいでいいだろう。後は魔力を使い、さっき言った通り全体に均等に馴染ませる。それだけだ。駄目弟子! やってみろ!」
「…………」
「どうした?」
「魔力の使い方がわからないであります!」
「そうか……そういえばそうだったな。お前は何のために鍛冶をしている?」
「師匠、それは……」
「いいから答えろ駄目弟子!」
「は、はい! えっと……俺自身が守りたいと思う者を守れるようになるためであります!」
「それは誰だ? 口にしなくていい。しっかりと頭に思い浮かべろ!」
「…………」
ヴィータは思い浮かべる。
自分自身が守りたいと思う者達を。
思い浮かぶのは
文句を言いつつもなんだかんだ言って助けてくれるティア。
一緒に暮らし、母を助けたいと願い今も努力するコン太。
そして誰よりも守りたいと思える存在。
憎悪や狂気の戦場の中であっても心の中に残り続けていた。
その人は勇気を与えてくれる。
その人は暖かい時間を与えてくれる。
その人を守るためならば死ぬとわかっていても何度でも死地へ赴ける。
その人を守るためならばどんな地獄であろうと自分を見失わずにいれる。
その最も大切な人の名は
レフィリア。
「駄目弟子! そのままワシが教えた通りにやってみろ!」
「……はい!」
カーン!
カーン!
カーン!
カーン!
カーン!
カーン!
不思議と魔石と素材が混ざり合った粉が今打つ物に馴染んでいく。
ヴィータにはなぜなのかわかっていない。
「ふむ、そんなものだろう」
「出来たのでありますか?」
「目利きが出来んのは不便だな駄目弟子!」
「うぐ」
「安心しろ! ちゃんと出来ておる! まぁ大したことないがな!」
「精進するであります!」
「うむ! 駄目弟子、今後も常に守りたい者のことを思い浮かべながら打て、それがお前自身の昔から変わらぬ鍛冶をする目的なのだからな!」
「はいであります!」
ドラゴスは鍛冶場から出ていく。
ヴィータはまた忘れないうちに魔法付与を始めた。
「ドラゴスさん」
「どうした? 商人娘」
「へっぽこ店主は魔法付与が出来たのですか?」
「うむ、問題なく出来たぞ!」
「へっぽこ店主は魔力を使えるようになったのです?」
「何だお前は、この家で一番一緒に過ごしておるのに気付いていないのか」
「何がです?」
「駄目弟子は昔から、それこそ出会った頃からずっと無意識に魔力を使っておる」
「む!? 本当ですか! 目で見ることも、感じ取ることも出来ていないのにどうやって?」
「条件は集中することだ」
「へっぽこ店主はいつも集中してるではないですか」
「あいつは集中力が上がると目の色が変わる。言葉通りな」
「目の色が変わるですか……それが?」
「魔力を使っている証だ。目の色が変わっても視界が変わるわけではないのだろうな。だからあいつは魔力を使っている感覚はわからん。促してやることは出来るがな」
「そうですか。まぁ鍛冶に関しては無知ですからね。ドラゴスさんお願いしますよ!」
「任せておけ。だがもうそろそろワシが教えてやれることはなくなるだろうがな」