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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
鍛冶職人編
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のほほん73

戦争は終わった。


戦争が終わったことで不安が取り除かれ、王都にいつもの活気が戻ってきていた。ヴィータの活躍は微々たるものだったが、王国兵だった頃のヴィータを知る者達は、誰だあいつはと驚くほどのものだった。動き回ることで精一杯だったヴィータが身軽で軽快な動きを見せた。それだけで王国の兵士たちには驚きだった。


「いやぁ……儲けさせていただきました。そしてやはり平和はいいですね!」


王都の唯一閉鎖的な場所。


2か所ある城門は閉まり切り、人気のまったくないその場所にある家の中、その店のカウンターでニヤニヤと笑う女の子が一人。


ティアだ。


戦争中しっかり物を売り、その質の高さから戦争後も装備やポーションを売ってほしいと王国から頼まれたのだ。店に人は来ないが、王国という上客を手に入れたティアは喜びを抑えきれないほどだ。


上客を手に入れたことで、ヴィータ達の生活に変化が訪れた。王国から受注される分の装備やポーションを作るために家にいることが多くなった。半日、魔獣討伐に行っていては間に合わなくなったのだ。


外に出にくくなったことでコン太とティアが薬草採取が出来なくなった。そこでティアは王国と交渉し、必要な分の上質な薬草を集めてもらうことになる。もちろん王国が受注する分の鉱石もだ。


王国は、というより将軍自身がヴィータが魔獣討伐に出なくなったことで発生する王国兵による魔獣討伐にヴィータを参加させたいと申し出てきた。


「どうだヴィータ? お前としても腕が鈍るのは嫌だろう?」


「参加させてもらえるなら喜んで参加するであります!」


「将軍さん! もうへっぽこ店主は王国兵ではないのですよ! だから……」


「もちろん、働いた分だけの金は出す」


「ぜひへっぽこ店主をこき使ってやってください!」


そんなやり取りもあり、定期的にヴィータは王国兵達と共に魔獣討伐に出かけるようになった。ヴィータの戦いぶりはティアやコン太には当たり前の物になっていたが、久しく共に行動することのなかった王国兵達には異常に映っていた。


王都周辺のスライム、ハイゴブリン、ハイウルフはもちろんのこと、魔獣討伐の遠征に行くことになってもヴィータのやることは変わらない。


常に魔獣たちのいる集団の真ん中で戦い続けるのだ。


今のヴィータが持つプラチナ製の専用武器は相当の切れ味を持っていた。ヴィータが軽く剣を振るえば魔獣たちは簡単に斬り刻まれていく。


王国の兵士たちは魔獣たちを叩き潰すことを目的として屈強な肉体を鍛え上げている。言うなれば力だ。力でごり押しだ。


ヴィータはその力がない代わりに技術で戦っている。そしてその技術を活かすために切れ味のある鋭い剣を生み出そうとしている。それは夢ではなく少しずつ現実に、実際の力として現れ始めている。


「……なぁ、あれは本当にヴィータなのか?」


「ヴィータの皮被った別人かもなぁ」


「今模擬戦したら俺勝てないかもしれん……」


「おらお前ら! 全部ヴィータ一人にやらせるつもりか!? 小遣い全部取られちまうぞ!」


王国兵たちのヴィータに対する評価が変わり始めていても、ヴィータは自分に対する評価は変わらない。相変わらず弱いまま。どれだけ魔獣を倒せるようになっても、戦場で戦い抜ける力を身につけられてもそれは変わらない。


いつまでもいつまでもヴィータを邪魔する者がいるのだ。


それは夢の中にいる。


どれだけ時間が経っても、どれだけ鍛冶の腕が上がっても、どれだけ力をつけても、その男を倒すことが出来ず、レフィリアを守れないのだから。


いつもと同じようにその男は佇んでいる。

いつもと同じようにレフィリアは怯えている。

いつもと同じようにヴィータは自分で打った二刀を手にしている。


何度同じ夢を見たことだろう。

何度同じ結末を迎えたことだろう。


何度も何度も戦い続ける。

何度も何度も挑み続ける。

何度も何度も負け続けても

結末が変わらなくとも

それでもヴィータは挑み続ける。


剣が折れようとも

骨が砕けようとも

腕が斬り落とされようとも

足が斬り落とされようとも

体が動き続ける限りヴィータは戦い続けていた。


それが例え夢であっても

それが例え同じ結末になろうとも

大切な大切な人を守りたいという一心で。


「……さん!……-タさん! ヴィータさん!」


「え? あ……っと、どうしたのレフィー?」


「どうしたのではありませんよ。急にボーっとするんですから……どこか痛むのですか? それとも苦しいのですか?」


「大丈夫だよ」


「ならいいんですけど……もう兵士でもないのに、戦争に参加したと聞いて心配していたんです。どうしてわざわざ危険な戦場へ?」


「うーん……ティアが敵兵に斬られちゃって……それで、何て言えばいいんだろうな……力が無くても自分にも出来ることをやらなきゃって思ったのかもしれない」


「戦場へ行けば死んでしまうかもしれないんですよ?」


「たぶん、死んでしまう事よりも恐ろしいことを知っているからだと思う」


「死んでしまう事よりも恐ろしいこと?」


「ティアが斬られたとき、頭が真っ白になったんだ。上手く言えないんだけど……大切な人を失うことの方が俺にとっては恐ろしい……かな」


「ティアさんは大切な人なんですね。羨ましいです」


「うん、ティアもコン太もとても大切な仲間だ。もちろんレフィーも」


「え? えっと……詳しくお願いします!」


「え?」


「わ、私のことも大切に思ってくれているんですよね!? ど、どう思っているのか詳しく知りたいなーと」


「俺を引っ張ってくれた人はたくさんいる。将軍とかオランド隊長とか師匠とかがそうだね。でも一番最初に、苦しかったりとか、どうすればいいかわからなくなっていた時に助けてくれたのはレフィーだった。だからレフィーも俺にとって守りたい大切な人なんだ」


「……ウフフ……私がヴィータさんにそう思ってもらえているなんて……デヘヘ……」


「どうしたのレフィー? 顔が真っ赤だけど、エレノア殿を呼んでこようか?」


「い、いえ、今呼ばれるとまた面倒なことになりますから……ウフフフフ」


「そっか」


「レフィリア様そろそろ……レフィリア様? どうかされましたか?」


「どうもしませんよ? 何も言われていないですから……エヘヘヘヘ」


「貴様ヴィータ! 今度はレフィリア様に何を言いやがりましたか!?」


「俺は何もおかしなことは言ってないであります!」


「そうですよ! さぁ時間なのでしょう? 帰りましょうエレノア。今日は最高の一日になりました!」


「お待ちください! いい加減この男に釘を刺さねば!」


「帰りますよエレノア! ヴィータさんまた来ます!」


「うん、またねレフィー」


「き、貴様! 待ってくださいレフィリア様!」


穏やかな日々、慌しい日々、騒がしい日々はいつもと変わらずやってくる。

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