のほほん71
小さな薬師の活躍によって、王国軍に勢いが戻った。兵数の差があろうとも、毒による攻撃があろうとも、本来であれば連合軍に負けるはずがないのだ。
ただ連合軍も負けてはいない。
王国軍が攻勢に出ても必死に食らいついていた。
このままではまた帝国に攻め入られる時間を与えてしまう。
そう考えた将軍が一部の兵たちを呼び集めていた。
それは将軍と共にした歴戦の将たちではなかった。
筆頭はオランド、それに付き従うアリア、やる気のないルーシュ、親衛隊から除名されたバラン、そして一番場違いだと言われるであろうヴィータだった。
「将軍、なぜ俺らを呼んだんです?」
「お前達をここに呼んだのは、この均衡状態を崩すための策を考えてもらおうと思ってな」
「将軍! お言葉ですが」
そう言ったのはバランだった。
「オランドさんもアリアさんもわかります。ルーシュもやる気はないですが能力はあるのは知っています。ですがなぜここにヴィータがいるのでしょうか?」
「必要だからだ」
「……必要?」
「そうだ。お前の言いたいことはわかる。だが俺が必要だと、そう思ったから呼んだのだ」
「……わかりました」
バランは納得出来ないようだ。
「さて、俺は口を挟まん、考え、そして準備しろ。連合軍には負けんだろう。だが時間経てば経つほど帝国が喜ぶだろう。そうならない手を考えよ」
将軍はそう言って口を噤む。
一番最初に口を開いたのはオランドだった。
「将軍は他の将ではなく、俺らに考えろと言った。その意味を理解出来ない奴はいるか?」
「1人いるでしょう?」
「お、俺はわからないであります!」
「だろうな」
「しゃーないな」
「なぜお前が呼ばれたんだ……」
ヴィータは戦うことしか出来ない。
わかるはずもなかった。
王国の兵士たちと違い、鎖帷子しか装備していないヴィータは戦場で非常に目立っていた。王国の象徴とも言える重装備を装備せず、王国から支給される武器を装備せず、二刀で戦っているのだから。
オランドが率いる隊に編成されたヴィータはアリア、ルーシュと共に戦場を駆けていた。その活躍は兵士だった頃のヴィータを知っている兵たちにとって驚くべき程の活躍だった。1人倒すのが精一杯だったヴィータが2人、3人と次々と倒していく様は夢なのではと疑われるほどだった。
ヴィータが兵士を辞めたことを知っているが、一緒に戦ったことのない兵士たちはなぜ兵を辞めさせられたのか不思議に思うほどだ。要請を受け、援軍としてやってきたバランは知らないことだった。
「ヴィータはとにかく話をしっかり聞いてろ」
「はいであります!」
「現状は薬師の活躍によって、毒の対策が出来ました。そのおかげで攻勢に出れるようになった訳ですが」
「連合軍の兵士が多く、攻めきれないという訳ですね? アリアさん」
「えぇそうです」
「このまま戦い続けて連合軍の兵糧が尽きるまで粘ることは出来る。だがそんなことをすりゃあ無駄に兵を消耗して、更には帝国に攻め入られられるかもしれないな」
「どうしたものか……」
バランは一人悩み、ヴィータは緊張した面持ちでじっと話を聞いている。ルーシュは知らん顔だった。そんな中、オランドとアリアはルーシュを見ていた。
「さぁルーシュ、お前の意見を聞こうか」
「ルーシュ、答えなさい。あなたはもう案を考えてあるのでしょう?」
「俺ぁ、なーんにもありませんよ。オランド隊長にアリアさん」
「まったく……相変わらずやる気ねぇなお前は」
「ヴィータをうまく使ってコソコソするのはもうやめなさい」
「陰に隠れるのは構わん。だがこのままじゃまた帝国に王都まで攻め入られる。昔と違ってお前には一緒に飯を食う友もいれば、守りたい仲間がいるだろう。そろそろしっかりしろ」
「それは自分自身に言ってるんですか?」
「うるさいぞアリア。ルーシュ、こんなかで一番そういうことに向いているのはお前だ。失敗しても俺が全部責任取ってやる」
オランドにそう言われたルーシュがポリポリと頭をかく。
ふぅとため息ついて口を開いた。
「連合軍の兵数は倍近くいる。けどそれはあくまで連合だからだなぁ。王国を一対一で倒せないから仕方なく組んだだけの穴だらけの連合だぁ」
「そうだな。あくまでも王国と戦うためだけに組んだ連合、お前の言う通り俺も戦っていてそう感じた」
「連携もあまりとれていない、ただ同時に攻め込んでいるだけ、町に攻め込んだ連合軍も一つの国が勝手に暴走して攻め込んだだけだった。その穴だらけの連合軍の隙間を掻い潜って兵糧を燃やす。そうすりゃ、勝手に動揺して勝手に崩れてくれるはずだぁ。そこを将軍に畳みかけてもらえばいいんじゃねーか?」
「ふん! 言うだけなら簡単だぞルーシュ!」
バランが口を挟む。確かに言うだけなら簡単だ。
「どうするルーシュ?」
「俺ぁ……」
「ちゃんと考えてあるのでしょう? 早く言いなさい」
「アリアの姉さんは厳しいねぇ。これはスラム街出身の俺の案だ。王国兵のプライドは捨ててもらうぜ?」
「ならその案は却下だ!」
「バラン。お前は黙って聞いてろ」
「し、しかし」
「そのプライドのために帝国に攻め入られていいのか?」
「……それは……」
「プライド保つために王国滅ぼしちゃ意味はない。案がないなら黙って聞いてろ」
「……わかりました」
オランドがバランを黙らせる。そして目でルーシュに続きを促した。
「北西に森がある。以前馬鹿な将2人が使った森だぁ。偵察兵が言うには奇襲されないように50人くらいは兵を伏せてるって話だぁ。それを利用する」
「どう利用する?」
「連合軍が使っている装備を奪うんだ。その奪った装備を使って連合の兵士に成りすます。成りすまして兵糧を溜め込んでる拠点を燃やして回ればいい」
「悪くないが、それをやるんだったら奇襲の方がいいんじゃねーか?」
「いんやこれが出来るのは一度きりだ、一度の奇襲で完全に崩せなきゃ意味はねぇ。立ち直られたらそれ以降ずっとその作戦は使えなくなる。やるなら兵糧を燃やして帰ってもらった方がいい。今は殲滅するよりその後の帝国の動きの方が大事だな」
「……そうだな。で、何人で行ってどこまでやる?」
「テキパキ動ける奴を100かき集めて、2か所は潰したい。知られたらお終いだぁ。伝令もしっかり潰す。まぁあくまで1つの案だ。もっといい案があるならそっちの方がいい」
「誰か他に案はありますか?」
アリアがそう言って周りを見渡す。
だが誰も何も言わない。
バランだけは納得いかないようだが。
「バラン。何か案はあるのか?」
「……ありません」
「なら決まりだ。将軍」
「わかった。バランお前はどうする。納得出来ないなら別の者を呼ぶが?」
「……やります。それで王国の民が守れるならば」
「よし、ルーシュ、お前は兵を編成しろ。オランド、アリアはその補佐をしてやれ」
「「「はっ!」」」
「俺はどうすればいいでありますか?」
「ヴィータ、お前は装備の修理は出来るか?」
「い、一応は」
「なら連合軍の捕虜から奪った装備を使える程度に直してもらう。バランお前も手伝ってやれ」
「「はっ!」」
こうしてオランド達は動き出す。ルーシュはめんどくせぇとぼやき、オランドとアリアに背中を叩かれながら編成を。ヴィータはバランと一緒に装備を修理することになった。