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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
鍛冶職人編
71/92

のほほん70

「要請を受け、王都より兵を率いてきた! 門を開けてくれ!」


「来たか、よし今開ける。開門!」


開門の号令で門が開く。

王国の兵士たちとその後をついて行く馬車が砦へ入ろうとする。


「待て! この馬車はなんだ?」


「この馬車はそこの小さい商人の物だ。ヴィータの知り合いと聞いて俺が許可した」


「バラン殿! わかりました」


「ついでに将軍に紹介しようと思っている。将軍は今どこに?」


「将軍は執務室におられるはずです」


「わかった。ありがとう」


「はっ!」


門を通り、少しするとティアが口を開く。


「意外ですね。バランさんって偉い人なんですか」


「親衛隊から除名されたとはいえ、それなりに修羅場を生き抜いているんだから当然だ」


「このまま将軍さんに挨拶出来るのです?」


「あぁ、交渉の場くらいは設けてやる。だから……」


「とっても助かります。もちろんレフィーにはちゃんと報告しておきますとも!」


「頼んだぞ! 絶対だからな!」


「約束は守りますよ! 信用第一の商人ですからね!」


上手くいくかどうかは別ですけどとバランに聞こえないように小声で呟いていた。バランと装備運びを手伝わされた兵士数名、そしてティアとコン太で将軍のいる執務室へ。


「将軍! バランです。王都より参りました!」


「入れ」


「はっ!」


ドアを開けバラン達は部屋に入った。


「ん? その荷物とそこの者達はなんだ?」


「ヴィータの知り合いの者達です。交渉させてほしいと頼まれたので報告のついでに紹介させてもらいます!」


「ヴィータの……」


「初めまして、ティアと申します。この獣人の子がコン太と言います」


「初めまして!」


「ふむ。それで交渉とは?」


「はい! 勝手ながら、以前から私の店主ヴィータに王国の兵士たちが使う装備を作ってもらっていました。それを見ていただき、もしお目にかかれば買っていただきたいと思い、バランさんに頼んで紹介してもらいました」


「そこの兵士たちが持っている装備がヴィータが作った物ということだな?」


「はい。そうでございます」


将軍は直接ヴィータの作った装備を手に取って確かめた。


「いい出来だな」


「店主は自覚はありませんが、腕は確かでございます。馬車一台分しか持ってきていませんが、気に入っていただけたのであれば幸いです」


「わかった。値の交渉は別の者にさせる。その者と交渉してくれ」


「ありがとうございます!」


ティアはやったぜと拳を握り締めて喜んだ。


「あのあの、ティア姉さん」


「どうかしましたか?」


「えっと……」


挨拶をした後からずっと黙っていたコン太が小声でティアに話しかけた。


「報告は以上です!」


「ご苦労だった。下がっていい」


「はっ!……何してる? 2人とも早く行くぞ」


「いえちょっと将軍さんと個人的に話したいことがいくつかありまして」


「何を言っている? 将軍は忙しい身だ。そんな時間はない」


「店主のことでお願いしたいこともあります。将軍さんよろしいですか?」


「……わかった。バラン行っていいぞ」


「わかりました。失礼します」


バラン達兵士は部屋から出ていった。


「ティアと言ったか。話とは何かな?」


「いえ、話があるのはコン太くんです」


「ふむ?」


「さぁコン太くん」


「えっと、将軍さんはどこか怪我とか病気とかしてませんか?」


「俺はどこも怪我などしていない。なぜそう思う?」


「将軍さんの顔色が優れませんし、装備を見てもらった時にも、怪我した足を庇うような歩き方をしていたように見えました。気のせいではないと思います」


「……ふむ……」


「コン太くんは薬師になるためにたくさん勉強しているんですよ。私にはわかりませんが、コン太くんが言うなら本当なんでしょうね」


コン太は確信をもって言っていた。

将軍は悩み、そして打ち明けた。


「俺はこの戦争で足を斬られてな、それだけなら問題はなかったが、連合軍の連中の装備には毒が塗ってあったのだ。このことは他の者達には他言無用だ」


「なんで隠しているんですか? 早く治さないと取り返しがつかないことに……」


「今俺が戦線から離脱すれば、兵の士気が下がる。それだけは何としても避けねばならんのだ」


「……でも」


「例え戦争が終わった後に死ぬことになろうとも、引くわけにはいかん」


「お医者さんとか薬師さんは知らないんですか?」


「医者は1人知っている。残念だが王国には優秀な薬師はいないのだ。治せないと言われたよ」


将軍は死を覚悟していた。

解毒魔法もあるにはある。だがそれでは打ち消せない強力な毒だった。

日に日に毒は将軍を蝕んでいく。


そして王国軍は焦っていた。連合軍の持つ毒は強力で負傷した兵士たちは次々と毒に倒れていった。


何とかしようにも毒の対策がない。だが毒はどんどん兵士たちを蝕んでいく。

急ぎ連合軍を倒さねば、兵士だけでなく王国の民たちにも危険が迫る。

攻めるに攻めれない状況を必死に打破しようと将軍は頭を悩ませていた。


「……あの! 僕に怪我を見せてもらえませんか?」


「いいだろう」


「あと、将軍の怪我を知っているお医者さんを呼んでください」


「わかった」


将軍はコン太に言われた通り、事情を知っている兵士を呼び、医者を呼んだ。

医者が来るまでの間、将軍の足の怪我を見た。

将軍の斬られた足は毒によって青白くなっており、膿んでいた。

それを見たコン太はティアに頼み持ってきたポーションを取りに行ってもらった。


「治せるか?」


「わかりません。でもやるだけやってみます」


「頼む。まだ倒れる訳にはいかんのだ」


事情を知っている医者が部屋に入って来た。


「こんな小さな子が薬師? 信じられませんが……」


「コン太くん言われた物持ってきましたよ!」


「ティア姉さんありがとうございます」


ティアに持ってきてもらったのは解毒ポーションと回復ポーションだ。


「飲めばいいのか?」


「まず、半分は直接傷口にかけます。とってもしみますけどいいですか?」


「構わん。やってくれ」


コン太は将軍から許可を取り、解毒ポーションと回復ポーションを両方半分ずつ傷口にかけた。普段、滅多に表情に出さない将軍が顔を歪ませる。


「ぐぅぅ!」


「我慢してください。回復魔法を使います。ヒール」


「君は……回復魔法も使えるのか」


医者は驚いていた。回復魔法も使える薬師は本当にごくわずかだからだ。


「将軍さん。残ったポーションは飲んでください」


「……わかった」


コン太の言われた通りにポーションを飲んだ将軍は、時間が経つと少しずつ血の気が良くなったように見える。


「どうでしょうか?」


「だいぶ楽になった。助かった」


「良かったです。後は解毒ポーションを染み込ませた包帯を巻けば、膿みは無くなっていくと思います」


「そうか」


将軍はほっと一息ついた。


「5日ほど解毒ポーションと回復ポーションを半分傷口にかけて、半分飲んでください。えっと……後は」


「先ほどのように回復魔法を使い、解毒ポーションを染み込ませた包帯を巻けばいいんですね?」


コン太の言いたいことを医者が代わりに自分に言い聞かせるように言った。


「はい! それで毒は抜けていくと思います。ある程度毒が抜ければ解毒魔法でも治せると思います」


「こんなに小さいのに、実に優秀な薬師だ。こんな薬師が王国にいたとは……」


「ヴィータの仲間は優秀だな」


「将軍さんは本当に動かなきゃダメなんですか?」


「あぁ、こればかりはな」


「……わかりました。僕が言ったことをちゃんと守ってください! 1日忘れれば3日は遅れますから」


「約束しよう」


将軍に物怖じせず、立派に薬師として仕事をしたコン太をティアは誇らしげに見ていた。


「これだけ効果のあるポーションを是非とも他の毒に侵されている兵士にも使いたいのですが、薬師さん……コン太という名前でしたね。まだポーションは余っていますか?」


「えっと……」


「その話は私がしましょう!」


「わかりました。ティアさんと言いましたね? では……」


その後ティアとコン太は交渉し、王国印の装備や残りのポーション、そして調合用の道具を持ちに王都へと戻る。


王国軍は毒対策のために小さな薬師の言った薬草を大量に用意した。

商人娘の交渉の元、小さな薬師は砦で解毒ポーションと回復ポーションを作る。

その結果、毒にうなされていた兵士たちは次々と回復していく。

その活躍をヴィータは知らない。

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