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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
王国兵士編
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のほほん6

ヴィータは夢を見ていた。


前から人が、狂気を宿した目をヴィータに向け、半笑いで近づいてくる。ヴィータは必死に体を動かそうにも、体は言う事をきかない。目の前まで来た敵がゆっくりと剣を振り上げ、容赦なく振り下ろしてきたところで目を覚ました。


「うわあああああああああああ!!!!」


条件反射で体を起こしてしまったヴィータに激痛が走る。


「うぐっ……ここは?」


「気が付いたか」


「え?」


軽装の中年男が俺に近づいてきた。この人は確か医者の人だったような。


「寝てなさい。君は怪我をしているのだから」


「……怪我……」


自分の体を見ると斬り傷やら、痣やらでかなり気持ち悪い。周りを見るとたくさんの兵たちが寝ていた。腕が無いもの、足がない者、うなされている者様々だ。


それを見たヴィータは思い出す。戦場のことを、人を殺したことを、友達の死を。


「あぁあ……うわああああああああああああ!!!」


「お、落ち着きなさい! 暴れちゃダメだ!」


「ううううううううう!!! ううううううううう!!!」


何人かがヴィータに近づきパニックを起こしてしまったヴィータを抑えつける。それでもパニックは収まらない。傷口が開き、血がにじむ。恐怖に耐えきれず、気を失う。大人しくなるのは気を失っている時だけ、目を覚ませば思い出し、またパニックを起こす。


ようやくヴィータが大人しくなったのは3日後だ。

大人しくなった。けど目を覚ましている間は体を震わせ、カチカチと歯を鳴らしてしまっていた。


軽度の負傷者たちは回復魔法で治療し、完治したあとまた戦場へ。

手足を無くしてしまった者たちは、王都へ護送された。


両腕や足を失った人はもう兵として戦うことは出来ない。だから引退確定だ。そこそこの退職金をもらい出ていかなければならない。

ただ使えなくなったからさようならでは問題がある。そのため貴族の元へ送り、使用人として雇わせたりなど色々手助けをしているらしい。


片腕を失った人はまだ兵として戦うことが出来る。ただ、希望があれば退職金をもらって出ていくことが出来る。ただし、国からの手助けはない。自分で道を切り開く必要がある。この人達が兵士を辞めるのは稀だ。


回復魔法。とても便利な魔法だ。


ただし、傷が瞬時に回復するわけではない。転んで出来た擦り傷程度ならすぐに直せるだろうが、斬り傷のような重度の傷は何日もかけてゆっくりと治す必要がある。


それでも回復魔法を使うのと使わないのでは雲泥の差が出る。

骨が折れたとする。回復魔法が無ければ何か月もかかる怪我。だが、回復魔法を使えば早ければ1週間、遅くても2週間程度で治るのだ。

伝説の勇者パーティー、その一人の聖女様は傷を瞬時に回復していたそうだが、真偽は定かではない。


回復魔法が使える人はごくごくわずかで、使える人は重宝される。その中で国が定める基準値以上の回復量を満たせれば、国が支援して文字の読み書きやらなにやら色々と学ぶことが出来る。


戦争についてきた支援兵は、かなり優秀だ。だが、傷は治せても心を癒すのはとても難しい。ヴィータの体は順調に回復している。けど、心は全然だった。今もまだ寝ているときはうなされ、起きている時には恐怖で体を震わせている。


「将軍!」


「良い、そのまま治療に専念してくれ。支援兵長、負傷者の様子はどうだ?」


「負傷者の治療は順調です。ただ、戦争未経験者たちの中には精神面で問題が出てしまっています」


「……だろうな。どこにいる?」


そんな話をして、将軍は気になった兵たちに声を掛けていく。将軍には不思議な力でもあるのか、声を掛けた兵たちは次第に正気を取り戻し、落ち着いていく。

将軍はヴィータの前に立ち、様子を見て、膝をつき、話しかけた。


「どうした? 痛む場所でもあるのか?」


「……い、いえ……」


将軍の見た目は若い。見る人によっては30代後半~40代前半と言うだろうが、実際は52歳だ。日々兵たちに課している鍛錬以上の鍛錬を行なっている。レベルも年齢と同じだ。


屈強な肉体を手に入れることが出来たのは、1代前の将軍が新兵だった頃から見続け、1代前の将軍に徹底的にしごかれたから。そして、1代前の将軍の志を受け継いだからだ。


演説で将軍が言った【王を国を民を家族を恋人を友を守る】これが代々将軍の地位を受け継ぐ者達の志だ。生半可な覚悟では決して持つことが出来ないであろう覚悟だ。


将軍の地位に就くまでの間、いや、就いてからも戦争を幾度となく経験した将軍はヴィータのような状態になった者達を腐るほど見てきていた。


ある者は眠れなくなり、ある者は二度と剣を持てなくなり、ある者は発狂して死ぬ者もいた。ある者は戦場の狂気に呑まれ殺人者になる者もいた。将軍の友だった者がそれだ。自らの剣で断罪した。


1度戦場を、地獄を見た者達がそういう症状になってしまうほとんどの理由が、自分の中に確固たる決意がないまま戦場に出てしまうこと。


ヴィータはそれに当てはまる。流されるままに戦場に出てしまったからだ。


将軍はそういった者達で生き残った者達に道を示す。


「戦場で何があった? 言ってみろ。」


「……人がたくさん死んだ……それも簡単に……悲鳴が聞こえた……人の体が簡単にバラバラになっていった……友達が死んだ……狂った目で俺を殺しに来た……人を……殺した……うっ」


ヴィータの心を支配する恐怖を口にしたことで、戦場の記憶が蘇り、吐き気を催すが、将軍の大きな手がヴィータの背中を摩ると次第に落ち着いていく。


「……名は……確かヴィータだったな。お前は何のために戦った?」


「……何のため……最初は……家族のため……でも……途中から訳が分からなくなって……」


「いい志だ。だがお前にはまだ足りないようだ」


「……」


「戦場で戦い、生き抜くためには確固たる決意が必要なのだ。日々の鍛錬だけでは足りない。レベルが高いだけでは足りない。揺らがぬ信念が必要なのだ」


「……確固たる決意……揺らがぬ信念でありますか?」


「そうだ。覚悟でもいい。俺はこの王国に住むすべての民を王の手足となり守るために戦っている。例えどんなことが起きてもそれは揺るがない。それだけの覚悟だ」


ヴィータは将軍の目を見た。将軍の声には力がある。目には絶対に守るという、決意が信念が覚悟があった。ヴィータは気付く、それはヴィータ自身も含まれていると。


「そのために強くなろうとしている。例え敵がどれだけ強かろうと立ち向かえるように。どんな逆境にも負けないために」


「……将軍ほどの人でもまだ強さが足りないでありますか?」


「あぁ足りないな。この戦争でもたくさんの仲間が死んだ。それは俺の力が足りないからだ。だからこそもっと強くならなくてはならない。そのために日々自分を鍛えているのだ」


「将軍は……本当に強い人ですね」


「そう見えるのは俺が決意をもって生きているからだ。ヴィータよ、お前は今、それを探さねばならない時が来たということだ。そのチャンスを与えられたのだ」


「チャンス……でありますか?」


「そうだ。死んでしまったらそこまでだ……が、今ここにいる者達は皆生きている。生きている限り考えることが出来る。お前にはその時間が与えられたのだ。自分自身の本当の決意を探す時間を」


「……」


「この戦争はもう勝ちだ。危うく町々が村々が戦渦に巻き込まれそうになったが、そんなことは俺がさせない。これから反撃に出て国を滅ぼす。俺が兵を率いて力の差を見せつけてやる。この国のすべてを守るために」


「……では俺も……」


「お前はまだ治療中だ。連れてはいけない。これからも生きている間に何度も何度も戦争が起こるだろう。その戦争で生き抜くためにはどうしたらいい?」


「俺の……確固たる決意を……揺らがぬ信念を……覚悟を探す……」


「そうだ! そのためにはここで今もこれからも怯えて過ごすか?」


「違います」


「なら立ち上がれ。ヴィータよ。お前にはそのチャンスが与えられているのだからな」


「……はい!」


「約束しようヴィータ。俺がこの戦争を勝利で治めると。そしてしばらくの平和を勝ち取って見せよう。だからお前は日々の鍛錬を怠らず、確固たる決意を、揺らがぬ信念を、覚悟を探してみせよ」


将軍が背中をドンと叩く。ヴィータの体はまだボロボロだ。激痛が走るが、それ以上に元気を取り戻す。


「っ! ……はい!!!」


「いい返事だ。そのためにもまずは鍛錬について行けるようにしないといけないな?」


含みのある笑顔で将軍は笑う。


「うっ……が、頑張るであります!」


「その意気だ! 期待しているぞ! ヴィータ!」


そうして将軍はヴィータから離れて別の兵に話しかけていく。流されてばかりのヴィータが初めて自分の目標を手に入れた瞬間だった。

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