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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
鍛冶職人編
69/92

のほほん68

「コン太くんコン太くん!」


「ティア姉さんなんですか? どこか痛むんですか?」


「いえいえ痛みませんよ。それより、へっぽこ店主は出ていきましたか?」


「えっと、ルーシュさん達と出ていきました」


「そうですか、行きましたか!」


ヴィータと話していた時はしおらしかったティアが突然元気になった。


「よーし! コン太くん! 今すぐ王都に帰る準備を……うぐぅ……」


「だ、ダメですよ! 安静にしてください! お医者さんはその傷治るまで2週間はかかると言ってました! 無茶したらダメです!」


「そんなに寝ていられませんよ! 5日で治してみせます! コン太くんも手伝ってください!」


「無理ですよ!」


「コン太くんがポーションを作ってくれればいいんです! お母様に頼んで薬草を準備してもらえば何とかなるでしょう?」


「うーん……でも……どうしてそんなことしてまで怪我を治そうとするんですか?」


「ふっふっふ! いつかこんな日が来るのではないかと、密かにへっぽこ店主に頼んで王国兵達が使う装備を作ってもらっておいたのです!」


「そういえば倉庫にたくさんありましたね」


「そう、それです! それを売り込みに行くのですよ!」


ティアは大声を上げ、手を強く握りしめて語った。

でも怪我が治っているわけではない。

時々体を硬直させていた。


「そんなに簡単に出来るんですか?」


「そのためのへっぽこ店主ですよ! へっぽこ店主の名前を使ってうまく軍の偉い人と話が出来れば後はこっちのもんですよ!」


「うーん」


「そのためにはまず戦争が終わる前にこの忌まわしい傷を治して王都に戻らねば! 稼ぎ時です! うまくいけばおかずが増えます!」


「……わかりました。僕に出来ることをやります。だから安静にしていてください」


「それでこそ私の愛しいコン太くんですよ!」


どんな時でも逞しいティアだった。

そんなことを知らないヴィータは王国兵たちが滞在している砦へやってきていた。


「将軍! お話があります! お時間よろしいでしょうか?」


「今なら大丈夫だ。入ってこい」


「はっ!」


ルーシュはヴィータを連れて、将軍のいる個室に来ていた。


「失礼するであります!」


「失礼します!」


「……お前は、ヴィータか! どうしたのだ?」


ルーシュはヴィータを連れてきた経緯を将軍へ説明する。


「そうか、すまなかったなヴィータ。兵でないお前に戦いをさせてしまった」


「将軍! 謝る必要はないであります! 俺は当然のことをしただけであります!」


「……そうか……」


将軍はそのヴィータの言葉を聞いて嬉しそうに笑った。


「大した活躍は出来ないでありますが、俺も僅かながら力を貸させて欲しいであります!」


「うーむ……そうだな……」


「兵を辞めることになったとはいえ、ここにいる者達は皆、同じ仲間であります!」


「ふっ……そうか。ならば遠慮はせんぞ? 昔のようにこき使ってやる」


「お、お手柔らかにお願いするであります!」


「ルーシュよ。ヴィータに必要最低限の防具を用意してやれ、後は皆にわかるように王国の証を」


「はっ!」


「お願いするであります」


「わかった。では俺はこれで失礼します!」


ルーシュは敬礼をして部屋から出ていった。


「ヴィータよ。それがお前の武器か?」


「はいであります!」


「見せてくれ」


「ど、どうぞ!」


将軍はじっくりとヴィータの二刀を眺め、見事と一言呟いていた。


「鍛冶を始めたと風の噂で聞いていたが……始めたのは自分の武器を作るためか?」


「そうであります! そ、その……王国から支給された装備は……俺には合わなかったであります」


「そうか。もう一つ聞こう。兵を辞めたお前はなぜ自分の武器を作ろうと思った?」


「俺自身が守りたいと思う人達を守れるようになるためであります! 今もまだ自分の力不足を感じているでありますが……兵士だった頃よりは守れるようになったのではないかと思えるようにはなったであります!」


「はっはっは! そうか、兵を辞めさせる時にはどうなるかと思っていたが、立派に……実に立派に成長したなヴィータ」


「こ、光栄であります!」


「ヴィータ。お前の活躍、期待している」


「は、はいであります!」


その後、ルーシュが準備できたと報告があり、ヴィータは部屋から出ていった。

将軍は椅子に深く座り、背を傾ける。


「……本当に立派に成長したなヴィータよ。兵士を辞めさせた選択は……間違いではなかった。俺は嬉しいぞ」


1人になった将軍は子の成長を喜ぶようにそう呟いた。


「お、重い」


「重いのはわかってらぁ、王国から支給されてる防具はみんなそんなもんなのは知ってるだろーよ」


「わかってるけど……でもこれじゃ昔と変わらずまともに動けないよ」


「変わったねぇ、昔のお前だったら文句なんて言わずに黙って装備しただろうに。ま、最低限体を守れる鎖帷子くらいは着込んどけ。周りには相変わらず軟弱な奴って言われるだろうけどなぁ」


「これなら……まぁ動ける……かな」


「安心しろぉ。だーれも俺らみたいな軟弱者に期待しているやつぁいねーから、無茶して死んでくれるなよ。お前は嬢ちゃんとチビ助の借りもんなんだからな」


こうしてヴィータは必要最低限の装備で身を包み、兵士たちに挨拶に行った。

ヴィータのことを知っている面々は懐かしみ、歓迎してくれていた。


王国軍と連合軍の戦いは一進一退だ。


連合軍は数は多いが、ちゃんと連携が取れているかと言われればそうでもない。

ただ数が多いだけなら王国軍の敵ではない。普段通りならば。

士気は悪くない。だがヴィータの知っている勢いがないのだ。


どうしてその勢いが王国軍に無いのか、それは王国兵達にもわからなかった。

停滞し続ける戦況をどうにかすることも出来ず、ただただ戦いが長引いていた。

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