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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
鍛冶職人編
67/92

のほほん66

「お母様!」


「あぁティア! 生きていたのね!!」


「はい!私は生きています!」


ティアとティアの母親は感激のあまりお互いを見た途端に抱きしめ合った。


馬車を連れたまま町長の住む家まで行った。最初は衛兵に止められはしたものの、ティアと顔見知りだったらしくすぐに中へ入れてくれた。


「ティア、あなたはどうして手紙の一つも寄こさないの! 家を飛び出してから今まで一度たりとも手紙を寄こさないなんて姉妹の中ではあなただけなのよ!」


「も、申し訳ありません。お母様!」


泣きながら抱きしめ合っているはずなのに、どこか演技っぽく見える。

ティアの母親はあまり心配しているようには見えなかった。


「まったく、10歳の時にいきなり大商人になってきますと言って、飛び出してからかなりやらかしてきたそうですね!」


「私は地道にコツコツをモットーに頑張っておりますとも! やらかしたことなど1度もありません!」


「ちゃんと私は知っているんですよ。ロリコン貴族に取り入って最後の最後でうっかりやらかして奴隷になりかけたこととか、偽物の冒険者とうっかり気付かず結託して密売品を売ろうとして最後の最後で裏切られて奴隷商人に売られそうになりかけたこととか」


「なぜそれを!?」


「私はあなたの母親ですよ! ちゃんと子の行く末を見届ける務めがあるのです。あなたは父親のうっかり癖を受け継いでしまったんですから、一攫千金を狙ってはダメですよ」


「わかっておりますお母様! 大商人になるため、明るい人生設計は完成しています!」


「よろしい! それでこそ我が愛娘よ!」


「お母様!」


「ティア!」


また強く抱きしめ合う二人。


「それでお姉様達のその後はどうなんでしょうか?」


「あの2人は毎月必ず手紙を寄こしてくれますよ。長女は2人目の子が出来たと報告がありました。温かい家庭を築いているそうですよ。次女は貴族の妾として地位を築いた後、子を産み虎視眈々と後継者争いに勝つための準備を進めているらしいわ」


「さすがお姉様達ですよ!」


そんな話をしつつ、ティアとティアの母親はお互いの近状を話していた。


「ふぅ……それにしてもやはり父親のうっかり癖の遺伝は相当ね」


「お母様、どういうことです?」


「王都に住んでいるなら噂くらい聞こえてきたでしょうに」


「?」


「本当に何も知らないのね。ここ最近、隣国との関係がまた危うくなっているって話」


「聞いたことないですよ」


「王国は強国として知られているけれど、その分敵も多いわ。隣国同士で連合軍を組織して、近々戦争を仕掛けてくるかもしれないのよ」


「それは……まぁ何とかなるでしょう!」


「ティアはもっと慎重になりなさい。ここが戦場になるかもしれないのですからね」


「はい! 気をつけますお母様!」


「まぁいいでしょう。しばらくここで過ごすつもりなんでしょう?」


「そのつもりです。よろしくお願いしますよ!」


「ヴィータさんもコン太くんもゆっくりしていってくださいね」


ティアの母親から聞いた不穏な噂。

それを聞きつつ、ヴィータ達3人はティアの屋敷で過ごすことになった。

町に来たばかりの頃には感じなかった不穏な空気。

それは日を追うごとに感じ取れるようになっていった。


そして始まりは唐突に訪れる。


連合軍が宣戦布告と同時に王国領内へ侵攻を開始したという報告を受けた。

さすが王国と言うべきか、その侵攻はある程度予想出来ていた。

連合軍と言っても所詮は付け焼刃、王国軍にとって取るに足らない存在。

王国に住む者達は誰もがそう思っていた。


だが結果は違った。王国軍が連合軍に遅れを取った。

敵国が帝国であるならまだ納得出来たかもしれない。


だが相手は連合軍、所詮は誰かが適当に流した噂。誰もがそう思っていた。王国の兵士たちのことをよく知るヴィータもその1人だった。誰もが信じなかったその噂を真実だと知らしめる出来事が起こる。


連合軍がヴィータ達のいる町に侵攻してきたのだ。


「あれは王国軍ですかね?」


「どうなんでしょう? 店主さんはわかりますか?」


「…………」


「へっぽこ店主?」


「すぐに屋敷に戻ろう」


ティアたちはまだ気づいていない。

ヴィータは何かがおかしいと思い言った。


言った時には遅かった。


連合軍の一部はもう町中にまで侵攻していた。

路地から5人の敵兵たちが突然現れ、ティアに襲いかかった。


「ティア!!! 危ない避けろ!!!」


「へっぽこ店主何を言って……え?」


「ティア姉さん!!」


ヴィータが突然大声を上げたことに驚き、何事かとティアが後ろを振り向いた。ティアはまさか自分が突然襲われて斬られるなど思わなかったのだろう。


驚愕の表情から体中に走る激痛に顔を歪ませた。


「この町は我が連合軍が支配する! 逆らうならこの娘のようになるぞ!」


兵士の1人がその状況を見ていたすべての人々に聞こえるように大声を上げた。誰もが硬直していた。今起こっていること、誰もが夢だと思いたくなるような状況を呑みこめていなかった。


ただ1人を除いて。


プツンと何かが切れたような音がヴィータの中で聞こえた。


「ティアに……なんてことするんだ!!!」


「逆らうなら容赦はしないぞ!」


腰に差していた二刀を抜き、ティアを斬り裂いた敵兵に襲いかかる。


「くっ! こいつ強い!」


「囲め! さっさと殺して見せしめにしろ!」


ヴィータは敵兵達の1人の首を斬り、1人の腕を斬り落とし、1人の足を斬り落とす。


「え、援軍を呼べ!」


「わ、わかった!」


「早くしろ……ぐああああああ!!!」


1人を殺し、3人を戦闘不能に追いやった。

1人は援軍を呼びに路地へ消えていく。


ヴィータは追わない。

敵兵を追うよりも大事なことがあるからだ。


「ティアしっかりしろ!!」


「……わ、私は平気です」


「コン太! ティアを屋敷へ連れて行って回復魔法を!」


「え……あ、は、はい! 店主さんはどうするんですか?」


「俺は町の人達に今起こったことを知らせてくる!」

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