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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
鍛冶職人編
65/92

のほほん64

「どうしたのティアちゃん? 何か悩み事かしら?」


「あ、お師匠様。悩みではないですが、気になることが1つありまして」


ある日、魔獣討伐を終え、昼食を食べ、そしていつも通り各自の仕事を始めた頃。

ティアが店のカウンター前で考え事をしていた。


「気になること?」


「えぇ、へっぽこ店主のことですよ」


「ヴィータくんがどうかしたの?」


「以前から疑問に思っていたんですけどね? やたら強いんですよあのへっぽこ店主。本人は弱いって言ってるんですけどね」


「ふぅん?」


「冒険者ギルドの人達とも時々話すんですけど、王都周辺の魔獣は強いから戦いたくないと。兵士の連中に任せとけばいいとよく聞くんです。戦いに関しては無知な私ですが、そんな私から見てもへっぽこ店主の最近の動きは昔に比べてさらにキレが増してるように見えるのですよ。こう……洗練されてきた感じがするのです」


「同じ魔獣と戦い続けて慣れたのではないかしら?」


「そうなんですかね……ところでお師匠様もドラゴスさんも強いですよね。時々1人でフラッと王都から出てますし」


「私もドラゴスも長く生きてるからそう見えるのよ」


「そう言えば2人は知り合いなんですか?」


「色々あって故郷で過ごしていたけど、私も昔は世界を旅したことがあるの。その時に知り合ったのよ」


「なるほど」


エルフもドワーフも人間よりはるかに寿命が長い。

中には1000年以上生きている人もいるとか。


「でもやはり気になります。お師匠様とドラゴスさんのレベルはいくつなんですか? 聞いちゃいけないことなんでしょうか?」


「隠してないから平気よ。私は66。ドラゴスは確か……54だったかしら。ずいぶん昔に上限になってそれっきり上がってないわ」


「わぁ……将軍とか英雄とか宮廷魔術師とかになれるレベルではないですか! 1人で出歩けるわけですよ」


「なってくれと頼まれてもなる気はないけどね。それにレベルがすべてじゃないわ」


「それはわかってはいるんですが、やはり知りたくなってしまうものですよ。お師匠様の知り合いで一番レベルが高い人っていくつなんです?」


「私が知ってる中では私の故郷、神秘の森に住んでる大長老様よ。レベルは102ね」


「100を超えている人ってやはり存在するんですね!」


「ふふ、そうね。大長老様は人間のおとぎ話にも出てくる伝説の勇者の仲間だったのよ」


「まじですか」


「まじよ。ちなみにその勇者のレベルは121だったそうよ。大長老様が知る限り世界最高レベルだったって言ってたわ」


「人間が世界最高レベル保持者だったとは……さすが勇者ですね! 生き証人がいるなら実際の話も聞いてみたいです!」


「私は当時生まれてなかったから、大長老様の話を聞いただけだけど、それでもいいなら話せるわよ。聞きたい?」


「聞きたいですよ!」


「そう。じゃあ……」


おとぎ話の伝説の勇者。


その昔、悪い魔王とその配下の魔族は世界を征服しようとすべての種族に対し戦いを挑んだ。その時、伝説の勇者が現れ、仲間たちと共に魔王とその配下たちを倒し世界を救った。


その仲間は獣人の剣士、エルフの魔法使い、人間たちの中で聖女と呼ばれる僧侶の3人。そのおとぎ話は作る時にわかりやすい方がいいと事実とは違う物語になった。


魔王。その種族は実は魔族ではなく人間だった。

魔王は人間の国で迫害され追い出され、行きついたのが魔族の国だったそうだ。人間に復讐を誓った魔王は魔族と協力したのではなく、魔王自身の力ですべての魔族を支配した。


それが物語の始まり。


復讐を誓った魔王の力は当時世界最強の名を欲しいままにしていた。

その力を使い、獣人、エルフ、ドワーフなどの種族をすべて支配していった。

世界の9割を魔王自身の力で支配した。


「凄いですね魔王さん。人間だったって言うのも驚きですが」


「えぇ、ドワーフ達に自分の武器と防具を作らせてさらに強くなっていたそうよ。剣を振れば大地が裂け、魔法を使えば地形が変わる。そう聞いたわ」


「その魔王さんの目的は世界征服なんです?」


「いいえ、大長老様が言うには人間を1人残らず滅ぼすことだったそうよ。それが終われば魔王自身も死ぬつもりだったらしいと聞いたわ」


「ほぇ~」


「魔王が人間の領土に攻め入って、人間を半分ほど滅ぼした頃、勇者と聖女が立ち上がったそうよ」


魔王は人間たちを容赦なく殺した。

もし目的が世界征服、世界統一なら果たされていたかもしれない。


ただ魔王の目的は人間を滅ぼすことだった。


勇者と聖女はその魔王が引き起こした地獄を見て立ち上がった。

一人でも多くの人を助けてみせると。


勇者と聖女が立ち上がった当初は弱かった。

どうしようもなく弱かった。


だから生き残った人間たちは無理だと思っていた。が、希望はあった方がいいと勇者と聖女を人間の領土から逃がした。そして勇者と聖女に言った。自分達人間が生きている間に強くなって助けに来いと。


そこから勇者と聖女の冒険が始まる。獣人を助け出し、エルフを開放し、ドワーフを救った。力をつけ仲間を連れてきた勇者一行は人間の滅びの危機を救いだした。


「勇者を送り出した人々はまさか本当に自分たちを救うとは思っていなかったらしいわ」


「これが本当の勇者さんの物語ですか。凄い人ですね!」


「おとぎ話とされているのはここまでね。実際は勇者の一太刀は魔王を傷つけただけで、魔王は確実に人間を滅ぼすための力を蓄えるために魔族の領土へ帰っていっただけらしいわ」


「ではその後どうなったのですか?」


「勇者は獣人の剣士、大長老様、そして聖女様を連れて魔王を説得しに行ったそうよ」


「説得ですか」


「そう、人を滅ぼしても虚しいだけだって。力で支配した魔王の周りにも心の底から魔王の手助けをしようとする仲間たちがいたらしいわ。その人たちのためにも戦いを終わらせるべきだってね」


「ふむふむ」


「けど説得は失敗した。勇者が戦いをやめてもいずれまた魔王が世界に牙を剥く。だから仕方なく戦うことにしたみたいね。勇者だけは最後の最後まで説得しようとしていたらしいけど。説得に応じた魔王の仲間も言っていたそうよ。止めてあげて欲しいと。自分たちの力では止められないからと。そして最後に勇者たちと魔王の戦いが始まったの」


「やはり、レベルもみんな100を超えていたんでしょうね!」


「そうじゃなかったらしいわよ。魔王と戦う前の勇者は80くらいだったと言っていたわ」


「じゃあ魔王と戦った後に121なんていう驚異的なレベルになったのですか!」


「正確には戦いの中でレベルが極端に上がったそうよ」


最後の決戦は魔族領の平地。


「城じゃなかったんですね!」


「魔王は手を貸してくれた魔族たちに対してちゃんと王として振る舞っていたらしいわ。魔族の街の人々は皆、王を尊敬していたそうよ。だから戦いに巻き込まないように話をして平地に移動したって聞いたわ」


「戦いを終わらせればよかったのに……」


「人間に対する復讐心は消えなかった。だから勇者と決着をつけたらしいのよ」


実際の戦い。

最初は魔王の優勢だった。


剣術は獣人の剣士を遥かに上回り、攻撃魔法も大長老様よりも優れ、回復魔法も聖女様より効果があった。


それでも勇者は怯まなかった。

逃げなかった。

最後まで説得しようとした。


戦いの中で魔王を含む、勇者たちは全員レベルが急激に上がっていくのを感じ取っていたそうだ。伝説にある聖女様の回復魔法は瞬時に傷を癒すとある。それは魔王との戦いの中で出来るようになったとか。


その激戦の中、獣人の剣士は次第に戦いについていけなくなった。

大長老様も急激に強くなる魔王の魔法に対応出来なくなった。


ついて行けたのは勇者と聖女の二人。


聖女の魔力も尽き

魔王の魔力も尽き

勇者の魔力も尽きた。


そして最後は勇者と魔王の一騎打ち。

最後の最後、魔王が事切れるその瞬間まで勇者は説得を続けた。

結果は勇者の勝利。ただ魔王は最後の最後まで応じなかった。


「復讐を誓った魔王は最後の最後に1つだけ勇者にお願いしたそうよ」


「なにをですか?」


「魔族を巻き込んだのは俺だから、俺のように迫害されないようにしてやってほしいって」


「……ちゃんと考えていたんですね。魔王さんは」


「たくさんの人を巻き込んだけれどね。魔王の死を知った魔族たちは皆泣いていたって聞いたわ。その戦いが終わって少しした時にレベルを見たらさっき言ったレベルになっていたらしいわ」


「面白い話でした! ところで、大長老様のような高いレベルの人の上限を調べる方法はあるのですか?人間が調べるには占い師か、使い捨ての魔法紙を使わなければならないのですよ」


「その魔法紙を使えばいいじゃない」


「残念ながら30までしか調べられないのですよ」


「あらそうなの? 人間にもちゃんと伝わっていたはずなんだけど……ずいぶん劣化してしまったのね」


「本来の魔法紙は違うのですか?」


「えぇ、本来は100まで知ることが出来るのよ。それ以上は神秘の森に行って精霊に見てもらわなければならないけれど」


「お師匠様は今持っているのですか?」


「ヴィータくんに使うのね?」


「やはり気になるのですよ!」


「仕方ないわね。はいこれ」


「さすがお師匠様! ありがとうございます! ではさっそく」


ティアは早速、魔法紙をもってヴィータを探す。


「ここにいましたか」


「ん? ティアどうしたの?」


「これを使ってほしいのですよへっぽこ店主」


「これは?」


「ちょっとしたおまじないに使う魔法の紙ですよ。握ってください!」


「……握ればいいんだね?」


「はい!」


ヴィータはティアに言われるがままに魔法紙を握りしめた。


「これでいいの?」


「えぇ! ではこれで失礼します!」


「何だったんだ?」


ティアは店のカウンター前まで戻って魔法紙を確認した。


「……やはりそうですか。おかしいと思ったんですよ」


「どうだったの?」


「お師匠様、どうぞ」


「ふぅん」


その紙には


【38/81】


と書かれていた。


「どうするの?」


「どうしましょう」


ティアはその魔法紙を突然ビリビリと破って捨てた。


「見なかったことにしましょう!」


「あらあら、王国に知らせれば喜ばれるわよ?」


「私たちの生活の方が大事ですよ!」


「ふふ、そうね」


ティアが王国にヴィータのことを伝えなかったことによって、ヴィータが兵士として世界中に名を知らしめる未来はなくなった。

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