のほほん62
レフィリア様捜索隊は俺、エレノア様、親衛隊3名の5人だ。
親衛隊に選ばれた5人、しかもその筆頭までいる。何が起こっても遅れは取るまい。エレノア様が向かう先は俺が立ち寄ったことすらない人気がない通路だった。
進めば進むほど人気が無くなり、不気味なほど暗い。
王都にこのような危険な場所があるとは思わなかった。
人が攫われたら真っ先に思い浮かびそうな、そんな場所だった。
奥へ奥へ進むと大きな家が一軒だけ建っていた。明かりが灯っていることから賊がいるのかもしれない。
「助けてください!!! 襲われそうなんです!!!」
家の近くで女の声が聞こえてきた。
この声はレフィリア様だろう。
「エレノア様! この声は!」
「……はぁ……」
「どうかされましたか?」
「……いえ」
「賊かもしれません。もしもの時は俺が先陣を切りましょう!」
「わかりました。行きますよ!」
俺はチャンスだと思った。
ここでレフィリア様を自らの手で助け出すことが出来れば、レフィリア様の専属になれるかもしれないと。そしてそのチャンスを認めてくれたエレノア様、譲ってくれた他の親衛隊たちに感謝した。
「えっと、ティアに呼ばれたんだけど……どうしたのレフィー?」
「ヴィータさん、助けてください! 襲われそうなんです!」
「わかった」
「貴様ヴィータ! ついに愛称で呼ぶことにも、ため口を聞くことにも抵抗が無くなったか!! 許さんぞ!!! 羨ましい!」
「え、エレノア殿!? えっとレフィーどういうこと?」
「兵士を辞めたと聞いていたが……賊にまで成り下がったのか!?」
「え?」
「ヴィータ! 同期の俺を忘れたか!?」
俺は怒り狂うエレノア様の前に立ち、かつての同士ヴィータと向かい合う。
「あ、バランか。その恰好……親衛隊に入れたんだね」
「そうだ! 俺はお前と違い親衛隊にまで這い上がったぞ! 対してお前はどうなんだヴィータ! レフィリア様を使って王を脅す気か!?」
「え?」
「とぼけるな!」
「バラン! あの愚か者からレフィリア様を連れ戻しなさい!」
「はっ!!!」
俺は兵士の頃から使い続けていた大剣を抜いた。
ヴィータは見たことも無い形の二刀を手に持っている。
レフィリア様の前で血を流すのは気が引ける。
ヴィータを無力化すればそれでいいだろう。
あいつは弱いからな。
案の定、俺に目の前まで詰められてから動き出そうとした。あいつは兵士を辞めて怠けたんだろう、俺の動きについて行くことすら出来ていない。
情けない奴め!
カッコつけて二刀流なんてやるからそうなる。
「うわっ!」
「兵士を辞めてさらに弱くなったなヴィータ! 同期の恥だ!」
「よくやりましたバラン! スカッとしましたよ!!!」
「お褒めの言葉ありがとうございます! エレノア様! それでこの愚か者はどうされますか?」
「放っておきなさい!」
「はっ!!! さぁレフィリア様。城へ戻りましょう!」
俺はレフィリア様に手を伸ばした。
レフィリア様の手を取れるなんて実に光栄だ!
と思っていた時期が懐かしい。
「触らないでください!!! 何ですかあなたは!?」
「……え……」
「ヴィータさん、大丈夫ですか?」
レフィリア様がヴィータに怪我がないかどうか確かめていた。
一体なぜこいつが心配されているんだ?
「お、俺は大丈夫だよレフィー」
「れ、レフィー? なんだその呼び名は?」
「あなたにレフィーなんて呼ばれたくありません! 近づかないでください!!!」
「そんな!?」
「レフィリア様! いい加減にしてください! 城へ帰りますよ!」
「離しなさいエレノア!!」
「エレノア様! これは一体どういうことですか!?」
「バラン、あなたはよくやってくれました。私はあなたのことを誇りに思いますよ。ただやり過ぎた。それだけです」
「やり過ぎた?」
俺は訳が分からなかった。
「さぁ行きますよレフィリア様!」
「嫌です!」
「あの者に迷惑をかけすぎれば、嫌われてしまうかもしれませんよ?」
「……そ、それは……」
「また視察すればいいではないですか。行きましょう」
「エレノア殿、一体どういう事でありますか?」
「レフィリア様の暴走です。ヴィータ、今回はあなたに一応謝っておきます。レフィリア様が迷惑を掛けました」
エレノア様は少々強引にレフィリア様を城へ連れ戻していった。
それからだった。俺の転落人生の始まりだ。
レフィリア様の護衛の任に着けば。
「それ以上近づかないでください!!」
「そんな!?」
悪い意味で俺はレフィリア様に顔を覚えられてしまったようで、レフィリア様が近くを通れば敵意を剝き出しにしていた。たまらずエレノア様に相談するも。
「私はあなたはよくやったと思います」
「で、ではなぜ俺は嫌われてしまったのでしょうか?」
「そうですね。わかりやすく言えば、兵士が民に剣を向けたということです。レフィリア様はそれが許せないのですよ」
「そんな!? 俺はそのようなつもりは……」
「わかっていますよ。しかしレフィリア様にはそう見えたのです」
それから俺は何かあるたびにレフィリア様の目の敵にされ、しまいには『それ以上近づくなら舌を噛みます!』などと言われてしまった。
「バラン、あなたは本当に親衛隊としてよく王国に尽くしてくれています」
「……はい」
「しかしあなたはレフィリア様に嫌われてしまった。私も何とか説得しようと試みましたが、話の場を設けることすら許されませんでした」
「…………はい」
「このようなことをあなたに言わなければならないのは非常に心苦しいのですが、親衛隊から除名することになってしまいました。しかし私はあなたの味方ですよ。あの時私は心の底からスカッとしました。何か困るようなことがあれば私を訪ねてくださいね」
俺は親衛隊から除名された。
そして懐かしの兵舎に戻ることになった。
「おやぁ? 懐かしーなー。バランじゃないかー」
「ルーシュか……」
「落ち込んでるねぇ。『舌を噛みます!』だったかぁ?」
「なっ!? なぜそれをお前が知っている!?」
「あっはっはっは!!! いいネタありがとう! あれだけ自慢してたのによぉ」
「うるさいぞ!!」
「安心しろ。もう兵舎にいる連中のほとんどは知ってらぁ!」
「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
俺はしばらくの間ネタにされた。
なぜ、どうしてこうなってしまったのか。
俺は未だに理解出来ない。