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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
鍛冶職人編
58/92

のほほん57

今日も朝早くから兵士ルーシュの仕事は始まる。


同僚よりも早く起き、朝食を食べてからフラリと兵舎から出ていった。

いつも通りのんびりと最適化されたルートを通ってスラム街の入口に立つ。

ルーシュはいくつもの視線を感じ取っていた。


(おーおー見てるねぇ)


物心ついた時にはスラム街にいたルーシュは力がなかった。

だからこそ戦う力以外で何かを身につけなければならなかった。


ルーシュが初めて身につけた力は、気配を探ること、気配を消すことだ。

不自然な音を聞き取ったり、殺気を感じ取ったり、視線を感じ取ったりと様々だ。


力がないからこそ身につけなければならなかった。


生きるために、奪うために、相手に気付かれないように殺す術を身につけなければならなかった。ただ所詮は子供、大人から見れば大したことない腕だった。


それでも生き残るために様々な力を身につけていった。

相手の裏をかくために情報を知る大切さを学んだ。


そのために情報屋を見つけた。


その情報屋から情報を手に入れるために金の使い方を学んだ。

相手を罠にかけるために、人を使うことを学んだ。

1人で勝てないなら複数で狩ることをその方法を学んだ。

学んで覚えて力をつけて、そして知った。


奪うだけでは、殺すだけでは生き残れないと。


スラム街にやってくる人はなかなかいない。

スラム街では何も生み出されていない。

奪うだけでは、殺すだけでは限界だった。


飢えを凌ぐためにルーシュは兵士になった。


ルーシュは兵士になって戦う力を手に入れた。

自分には合わないと思いつつも重装備に身を包んだ。


戦争を経験した。

人を殺すことに抵抗はなかった。

……がルーシュがいた小隊の隊長はすぐに発狂して死んだ。

生き残るために仕方なく他の生き残った兵士を動かした。


将の会議を盗み聞きし、敵軍の作戦を読み、罠に嵌め、人を使った。

目立ちたくないルーシュはその手柄が他の兵士に行くように誘導した。

スラム街で生きるために学んできたことはすべて戦争で役に立った。

3度の戦争はすべてそうやって生き抜いていた。


こっそりと。


一部の上司たちには気づかれていたようだが、知らぬ存ぜぬを通している。

そんなルーシュはある程度戦えるようになると、鍛錬なんてやってられないと、他の兵士と交渉して毎日スラム街の警備に就いていた。


だからなのかもしれない、コン太の母親はルーシュに頼み込んだ。

何かあったら助けてやってほしいと。


ルーシュには両親の記憶はない。


だから母親がどうしてそこまで子の心配をするのかわからない。

子がどうしてそこまで病に侵されてしまった母親のことを思うのかわからない。


けれどそのコン太が母親を助けるために王都中の薬師に教えてもらおうと必死に歩き回ったのを知っている。コン太が必死に努力してポーションを作り続けているのを知っている。


戦う力がないルーシュが必死に生きるために身につけてきたそれと一緒だった。


何となく見守ってやろうと思った。


その親子の力だけではどうしようもなくなってしまった時、何とかしてやろうと思ったのだ。


「ふあぁ~~あ~~あ、ねむ」


「今日も早いねぇ」


「おぅよー、鍛錬なんてやってられねーからな」


「王国の兵士の言うことじゃねーな」


「ちげぇねぇ」


ルーシュの前に見知らぬ男が通り過ぎる。

いや、見知らぬわけではないか。

通り過ぎさまその男がルーシュに紙切れを渡した。


「やるねぇ、何かすんのか?」


「なーんのことだ?」


とぼけながらさりげなく渡された紙切れを見る。


”対象が戻り次第動く”


「強引だなー」


「俺の日かよーそうかぁ強引かー、兵士なんてやってられないねぇ」


「飯食えるだけでもましだろー手伝えよー」


「驕れよー」


「しゃーねぇーなぁ」


たくさんの視線が対象に向けられていた。

ただ本人は全く気付いていなかった。


「兵士さん! おはようございます!」


「おーコン太か。今日も元気だなー」


「頑張ってください!」


「おぅよー」


いつも通りコン太がスラム街から出てきて目的地に向かって歩き出す。


「コン太。ちょおっと待ってくれ」


「?」


引き留めたルーシュは元々用意していた手紙をコン太に渡した。


「これは何ですか?」


「お手紙ってやつさ。コン太がよく話すヴィータっていう店主に渡してくれぃ!」


「わかりました!」


「頼んだぞー気ぃ付けてなー」


「はーい!」


コン太は手紙を無くさないようにちゃんとしまい込んで出かけていった。


「ルーシュさんよぉー」


「なんだぁー?」


「王国史上最低最悪最弱兵士のヴィータさん連れてきて大丈夫かー?」


「ばっかおめぇ知らねーのかー。情報ってのは命と同じくらい大事だぜー?」


「わかってっけどさー。でも伝説のヴィータさんだぜー?」


「その伝説のヴィータさんはよぉー。未だに色々勘違いしながらハイウルフさんバッタバッタと1人で倒してるって噂よー」


「まじかよ!? いやさすがに嘘だろおい」


「伝説だぜ? 俺らの小遣い全部独り占めしてるヴィータさんなめんなよ」


「いやいや」


「コン太の坊主もついてってるってよぉ」


「ウルフの間違いだろ?」


「将軍様と将軍様の右腕さんと我らが誇る男女様からの証言もあるぜー。それに俺が討伐隊に参加しないってのも理由だーなー」


「……そっかーよゆーだなー」


「だろー? まー俺に任せとけってー」


「頼もしーねー」


ルーシュともう一人の兵士はいつも通り警備についていた。

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