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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
鍛冶職人編
56/92

のほほん55

カーン!

カカーン!


「馬鹿者! 焦り過ぎだ!」


「はいであります!」


カーン!

カーン!


カーン!


「一定のリズムで打て! ズレればズレるほどおかしくなっていくぞ!!」


「はいであります!!」


カーン!

キーン!


「お前は初心者か!? もっと丁寧に打て馬鹿者!!」


「はいであります!」


カーン!

カーン!

カン!


「力が弱すぎる! もっと強く打て!」


「はいであります!」


何日も何日もそれは続く。


プラチナ鉱石が手に入らなければヴィータは銅で丁寧さを身につけようとし、鉄で力加減を身につけようとする。手に入れば待ってましたと言わんばかりにドラゴスに見てもらいながら少しでもうまく打てるようになろうと必死に打ち続ける。


「どう?」


「……30点! これじゃ鉄製で十分と言われるだけですよ! 鉄製10本、20本近く価値が違うんですからね!」


「むぅ」


「頑張りなさいヴィータくん。ティアちゃんもまだ粗があるわよ。魔法付与は夢のまた夢ね」


「むむむ」


ただ速く打つだけでは足りない。


銅のように丁寧に打っているだけで出来上がっていくわけではない。

鉄のように打ち漏らさないようにしながら力強く打っているだけでは足りない。

銅と鉄に比べて圧倒的に早く固まってしまう。

その前に打ち切らなければならないのだから。


ドワーフにとって銅、鉄、プラチナはいつでも手に入る鉱石として知られている。

なぜならドワーフ達の集落は鉱山の中だとか鉱石が取れる地中にあるからだ。


ドワーフが鍛冶職人として一人前になり師匠の元から巣立った後、さらなる高みを目指して集落に残る者もいれば、新天地を求めて旅に出る者もいる。夢見る者はミスリル、オリハルコンを求めて世界を巡る。


対して人間はドワーフのように鉱山の中で暮らす者はほとんどいない。銅、鉄は見つかってもプラチナが見つかる鉱山はそうそうない。ドワーフの国と交流がある国もなかなかない。そのためプラチナは高価な物とされている。


銅や鉄は毎日打つことが出来たヴィータだったが、流石にプラチナとなると毎日打つことなど出来なかった。


………………………………


夢を見る。


いつもの夢だった。

見慣れた夢だった。

最初は素手だった。


何度か見た後、鉄で作られたヴィータの専用武器2号を手に持つようになっていた。


結末だけを言えば素手の時と同じ死だ。

ただ過程は違った。

夢なのに、夢の中のヴィータは自分自身の意思で自由に動き回れた。


戦えば死ぬ。

絶対に勝てない。

それはもうわかりきっていた。


逃げることも出来ただろうに、ヴィータは絶対に逃げ出すことはしなかった。


目の前には帝国将。

でも後ろにはレフィリアがいた。


必ずだ。


レフィリアの怯えた顔を見るたび、ヴィータは自らを奮い立たせた。

負けるとわかっていても、死ぬとわかっていても、夢だとわかっていても。


体は動く、自分の体とは思えないほどの速さで動き回る。

前後左右。時には空を蹴り飛び回る。

けれど帝国将には隙が無かった。

どれだけ速く動き回っても帝国将はヴィータを見失うことなく目で追っていた。

すべてが見えているようだった。

帝国将を傷つけるには剣を交えるしかなかった。


何度も、何度も、剣を交える。

交えるたびにヴィータの持つ二刀は欠けていく。

帝国将の持つ剣は鎧は欠けることも傷つくことも無いのに。

剣を交えるたび、ヴィータは傷ついていく。動きが鈍っていく。


目の前にいるのは帝国将。

夢が始まった時と同じ。


無傷だ。


ヴィータと違い余裕もある。

余力もある。

圧倒的な実力差があった。


変わらずレフィリアは怯えていた。


ヴィータの手に持つ二刀のうち一刀はすでに折れ、もう一刀は次、剣を交えれば折れる。


ついに帝国将から動き出す。

遊びは終わりだと告げるように。


たった一振り。

瞬時にヴィータに詰め寄った帝国将の一振りだ。


避けることも逃げる事も出来ないヴィータは折れていない一刀で身を守ろうとする。


結果はわかりきっていた。

それでも本能が身を守ろうとしたのだろう。


防ごうとして構えた一刀は元々なかったかのように折れた。

そして帝国将の凶刃はヴィータの体を2つに斬り裂いた。


帝国将は笑った。

レフィリアは絶望していた。

ヴィータはまた何も出来なかった。


・・・

・・


「また夢か……まだ守れない。まだ足りない。もっと……もっと……」


夢を見るたびヴィータの頭には目には理想の二刀が映る。

手を伸ばしても触れることすら出来ない二刀が。


まだ日も昇っていない真っ暗な部屋。

着替えて身支度を整え、静かに音を立てずに1階へ降りた。

そして鍛冶場へ入って準備する。


ヴィータの散財が今始まろうとしていた。


目の前にあるのはティアが一生懸命やりくりして用意してくれたプラチナ鉱石がある。


勝手に使えば怒られること間違いなしだ。

もしかしたらもうやってられないといなくなるかもしれない。

けれど、それでも鉱石に手を伸ばした。


「朝早くに何をしておる?」


「師匠」


「また商人娘にどやされるぞ」


「大事な人を守りたい。そのためには必要であります!」


「ガッハッハ。好きにやれ、ワシも一緒に怒られてやろう」


「ありがとうであります!」


プラチナ鉱石を溶かし、ハンマーをしっかり握りしめる。


「いいか駄目弟子。丁寧に、力強く、そして速くだ。お前の理想を打ち作り上げるために全力を尽くせ」


「はいであります!」


目を閉じる。

目を閉じてなお映り続ける理想の二刀を見続ける。


強く思う。

レフィリア様を守りたいと。


目を開ける。

ハンマーをゆっくりと振り上げ力を籠める。


そして……


カーン!!

カーン!!

カーン!!


覚えている。ドラゴスの打つ姿を。

覚えている。ドラゴスの教えを。


カーン!!

カーン!!

カーン!!


何度も素早く打ち続ける。

ドラゴスは何も言わない。

ただじっと完成を待っていた。


・・・

・・


出来上がった物はヴィータが追い求める理想にはまだまだ遠い二刀だった。

ただそのプラチナの輝きは悪くない出来だとわかる。

少なくとも鉄で作ったヴィータ専用武器2号より優れていた。

ヴィータ専用武器3号の完成だ。


「どうだ駄目弟子」


「まだまだ程遠い出来であります」


「ガッハッハ。そうだろうな。顔に出ておるぞ!」


「さて、何か弁明することはありますか? へっぽこ店主」


振り返るとそこにはティアとルナがじっと見ていた。


「てぃ、ティア!? や、やぁおはよう……朝早いんだね」


「日も昇ってないうちからカンカン聞こえてくれば誰だって目は覚めますよ! それよりもそれプラチナですよね!?」


「……ご、ごめん」


「鉄と違うんですよ!! 全く! 最近大人しいと思ったらすぐこれですか!!」


「ティアちゃん、いつものことでしょう?」


「お師匠様……ですけどへっぽこ店主はしばらくおかずを2品減らしますからね!」


「そんな!?」


「もう私とへっぽこ店主だけじゃないんですからね! お師匠様にドラゴスさんの食費もあるんですから!」


「まぁ落ち着け商人娘。駄目弟子が初めてまともにプラチナを打ち切ったのだ。次からはもう少し売り上げも伸びるだろう」


「ふん! 止めなかった老害ドワーフも一緒です! おかず2品減らしますからね!」


「なんだと!?」


「何をカッコつけて腕組んで『どうだ駄目弟子』ですか!! ふざけんなですよ! 許しませんからね!」


「待て商人娘。考え直せ!」


「諦めなさいなドラゴス」


「ぐぬぬ」


4人の生計を立てているティアの鶴の一声でその日からヴィータとドラゴスのおかずが2品減ることになった。だが、ヴィータの専用武器3号は出来上がった。

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