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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
鍛冶職人編
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のほほん52

「さて、ティアちゃんに魔法付与を教える前に、やってもらわなければならないことがあるわ」


「む、それは何でしょうかお師匠様?」


「あの人が持ってきたアクセサリーは完璧だったわ。けれど、このお店に置いてあるアクセサリーは私から見れば80点かしら」


「むむむ……手厳しいですね」


「アクセサリーは360度、どこから見ても精巧に出来てなければいけないわ」


「もちろん、そうなるように作っていますよ!」


「そうかしら? ちょっと待ってなさい」


ルナはそう言って近くにある指輪を持ってきた。


「さぁ、これを見て同じことを言えるかしら?」


「……指輪についている綺麗な石の所に僅かな隙間が……」


「よく見つけました。ヴィータくんがやってる鍛冶も同じ、僅かな歪みは評価を下げるわ。そしてそれは魔法付与にも同じことが言える。その僅かな隙間のせいで完璧な魔法付与が出来なくなってしまうの」


「なるほど……自分が作ったものだからと過信していました」


「ティアちゃんの作るアクセサリーは人間の中ではかなり精巧な作りよ。でもエルフからすれば粗いのよ」


「ぐぬぬ」


「どうせ教えるなら、私はあなたが作るアクセサリー、そして弓、矢もエルフから見ても唸らせることが出来るくらいになってもらわないと私の沽券に関わるわ。わかるわね?」


「わかりました! お師匠様を唸らせることが出来るほどのアクセサリーを作ってみせましょう!」


「よろしい! あなたならそれ以上言う必要はないわね?」


「今以上に細かく丁寧に完璧を目指して精進いたします!」


「ティアちゃんなら出来るわ。待ってるわね」


「はい! お師匠様!」


ティアはルナの教えの通り、アクセサリー作りを始めた。

打倒お師匠様! と気合を入れティアは頑張るのであった。


「さぁ、今度はコン太くんよ」


「はい! よろしくお願いします!」


「まず最初にポーションを作ってもらいます。やってみなさい」


「は、はい!」


緊張した面持ちでせっせと薬草を煎じて本に書かれた通りの分量を混ぜ合わせ、火を通した水の中に薬草を入れて混ぜ合わせる。


ボン! という音が調合場に響き渡りポーションが完成した。


「……出来ました……」


「コン太くんは上手くいったと思う?」


「……全然ダメです」


「そうね。全然ダメね」


「……グスッ……」


「泣かないの。ポーションは作ろうと思えば薬草と水さえあれば正直な話、誰でも作れてしまうのよ」


「そうなんですか?」


「えぇ、ただし、ほとんど効果のない、今コン太くんが作ったようなポーションになるけどね」


「じゃあ、どうしたらいいんですか?」


「私が作ってみるわ。ちょっと待ってね」


ルナは井戸から水を持ってきて、その性質を調べ、薬草を煎じてコン太と同じように混ぜ合わせる。そして混ぜ合わせながら魔力を使っていた。


ボン! という音が調合場に響き渡りポーションが完成する。

コン太とは比べ物にならないほどの高品質のポーションが出来上がった。


「わぁ……凄い」


「何が違うと思う? 思ったことを言ってみて」


「えっと……本に書いてあった薬草の量と全然違う量を水と混ぜてました」


「そうね。他にはあるかしら?」


「あ、後は手がキラキラ光ってたから……魔力を使ってたのかな……」


「ふふ、正解。コン太くんには魔力がキラキラ光るように見えるのね?」


「はい、ティア姉さんに優秀な証って言ってもらえました!」


「そうね。優秀な証よ。さて、ポーションの話に戻るわね」


「はい!」


「薬師は誰にでもなれる。けど本物の薬師になるのはとっても難しいのよ」


「本物の薬師?」


「そう。王都で売られているポーションを見てきたけど、ほとんどが運よく薬師を名乗れてる人たちね」


「そうなんですか?」


「えぇ、水の性質と薬草の量、そして魔力がうまく混ざり合っただけで、たまたま出来たそれなりの品質のポーションを売ってるだけの薬師さんなの。だからコン太くんが教えてくださいってお願いしても、たまたま出来たポーションを売ってるだけだから断られちゃったって訳よ」


「…………」


「その薬師さんたちにこの王都以外から持ってきた水でポーションを作ってほしいと頼んでも、コン太くんと同じポーションしか作れないわ」


「そうなんですか……」


ルナから教えられた事実にショックを隠せないコン太だった。


「けど、コン太くんには本物の薬師である私が教えてあげるから、コン太くんは本物の薬師になれるし、お母さんも助けてあげられる」


「本当ですか?」


「えぇ、でもポーションの調合法以外は教えてあげられるのは最初だけ、後は自分で探していかなければいけないとても大変な職業なの。道半ばで諦めてしまう人がたくさんいる。それでも……」


「僕は、お母さんを助けてあげたいです。それがとても大変でも……お母さんを助けたいです」


ルナを見るコン太の目は確固たる決意を揺るがぬ信念を覚悟を秘めていた。

誰がなんて言おうと助けたいという意思がコン太にはあった。


「そう。わかったわ。さっきも言ったけど調合法以外は教えてあげられるのは最初だけ。後は自分で探さなきゃいけないからね」


「はい!」


「よろしい! じゃあまずこれをコン太くんに渡しておくわね」


そう言ってルナはとても分厚い本をコン太に渡した。


「……何も書いてないですよ?」


「えぇ、何も書いてないわ。これからコン太くん自身がその本に書き込んでいくのよ」


「僕が……ですか?」


「そうよ。そのために必要なことを私が最初で最後に教えてあげる。ポーションを作るために必要なものは水、薬草、自分の魔力。この3つよ。まずは水、これは地域によって性質が全然違うの。薬草の量と、自分の魔力を同じだけ使っても、水が違うと品質も違ってくるわ。王都と別の国の水を使って同じものを作ろうとしても全然違う品質の物が出来てしまうわ」


コン太は渡された最初のページにルナの言ったことを必死にメモする。


「そして薬草の量。これも水が違えば薬草の量も変わってくるの。水によっては多くする必要があるし、少なくする必要もあるのよ。そして魔力、魔力は人それぞれ千差万別。水と薬草の分量が同じでもコン太くんと私が作ればまた違う品質になるのよ」


「難しいです」


「そう、とっても難しいのよ。使う水、薬草の量、そして魔力。それらすべて一から自分に合ったものを探し出さなければならないの。私が作ったポーションの品質は高い方だけど、もっともっと私が調べて作り続ければさらにいいポーションが作れるようになるわ。そしてそれはコン太くんも同じ。必要な材料を教えることは誰にでも出来る。けどそこから高品質のポーションを作るとなると、それこそ膨大な時間が掛かってしまう。コン太くんは今から本物の薬師として、その私が渡した本に自分に合った水、薬草、魔力。その3つの量を書き込みながら品質の高いポーションを作り始めるのよ」


「や、やってみます!」


「私が教えられるのはこれだけ、後はコン太くん自身の手で自分に合った分量を見つけていかなければならないわ」


「はい!」


「薬師の先輩として言えることは、水の量を同じにして薬草と魔力の量を調整しなさいな。そうすればだいぶ楽になるはずだから」


こうしてコン太の本物の薬師を目指す道は始まる。

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