のほほん49
兵舎、ヴィータが兵士として日々を過ごしてきた場所だ。その兵舎にある食堂で今、鍛錬を終えた者、与えられた任を終えた者達が食事をしていた。
「どうした? 元気ねーじゃねーか」
「オランドさん……いえ……最近ちょっと……いえ、かなり小遣い稼ぎが捗らなくてですね」
「はぁん?」
「今日もスライムとハイゴブリンしか狩れなくて、今月小遣いが厳しいんですよ」
「そういや最近は冒険者がやたらハイウルフ狩ってるって聞いてるな」
「俺らとしては嬉しくもあり、悲しくもありますよ」
「この周辺じゃあ、ハイウルフが一番危険で、その分一番稼げっからなぁ」
「俺らは重装備に身を包んで、日々鍛錬してますから危険はほとんどありませんからね」
「まぁな」
王都周辺に生息する魔獣は主に3体。
ハイウルフ、スライム、ハイゴブリンだ。
冒険者たちの中ではどれも危険な魔獣だが、一番危険なのはハイウルフだ。
スライムは一定の物理攻撃をほとんど吸収してしまう。
それ以上の強力な一撃を与えられる力自慢がいれば問題ない。
ハイゴブリンは人の真似をするのが得意だが、所詮は魔獣。罠にかけ一気に殲滅すれば問題ない。
ハイウルフは他の2体に比べ、耐久面では脆いが素早く攻撃力も高い。
素早く動き回るハイウルフに弓矢を当てるのは難しく、素早く動き回るため罠にもかかりにくい。ハイウルフの歯と爪は非常に切れ味があるため、攻撃を受けてしまえばほぼ重症確定だ。
そんなことから冒険者たちはハイウルフとの戦闘を避ける。
まぁ、冒険者はそんな危険な王都周辺の魔獣を倒すより、ダンジョンに潜ったり、依頼を受けたりして王都周辺で手に入らない素材を集めたり、王都から少し離れ、王都周辺より弱い魔獣を倒した方が稼ぎが良いため滅多なことでは王都周辺の魔獣を倒そうとはしない。
王国の兵士たちは冒険者達とはまた違う評価を下している。
冒険者たちと違い、あの手この手で倒すのではなく、鍛え抜かれた強靭な体をフルに使い実力で戦う。もちろん王国から与えられた重装備があるからこそ出来ることだが。
スライムは強力な一撃を与えられれば問題ないが、一撃で倒せなければ、重装備の関節部分や僅かな隙間から侵入され、味方が援護できなければそのまま溶かされたり、鋭利な刃物のようになり串刺しにあって殺されてしまうため、相性が悪い。確実に一撃で倒せる者達数名と、初めて参戦した数名での混成部隊で挑むことになる。
ハイゴブリンは数が多く、全滅させるための時間が掛かる。後れを取れば複数のハイゴブリンに取り付かれ重装備の上からでも何度も何度も強打される。
重装備だと言っても何度も強打されてしまえばたまったものではない。
小賢しい知恵も持つハイゴブリンを倒すのは一苦労だった。
兵士たちにとって慣れれば問題なく倒せるようになる相手だが、最も困るのが小遣い稼ぎに対する評価だ。
スライムとハイゴブリンから手に入る素材は安いのだ。
スライム自身は王都周辺でなくてもそれなりに出て、魔素の濃さで強弱が決まるため王都周辺のスライムでなくても同じ素材を落とすのだ。要するに強いだけで大したうまみがない魔獣だ。
ハイゴブリンも同じだ。下位に位置するゴブリンとほとんど同じ。落とす素材も大したことがない。
ハイウルフは王都で暮らす兵士たちにとってとても稼ぎになる魔獣だった。
重装備を装備している兵士たちはハイウルフの攻撃など恐るるに足らず。
強力な歯や爪があっても重装備を貫通させるほどの威力がないのだ。
だから兵士たちはうまい具合に重装備を盾にして一撃で倒す。そして他の2体の魔獣と違い、小遣い稼ぎには持って来いの素材がいくつか手に入る。
兵士たちにとってハイウルフは小遣い稼ぎの時間として喜ばれていたのだ。
「久々に美味い酒、美味い飯を食べに行きたいものです」
「お前はどちらかというと……女だろ?」
「そうですね。女の柔らかい体は最高ですからね! オランドさんも今度一緒にどうです?」
「私がいる前で堂々と女の話はどうかと思いますけど?」
「おっと……アリアさんもいたんですか」
「気にすんな! 女なんてこいつしかいねぇんだからな! だがいいのか? 娼館に入り浸ってばかりだと結婚がどんどん遠のくぜ」
「結婚ですか……俺にはまだまだ考えられませんよ! 娼館でいい女を漁っていた方がいいですわ!」
ハッハッハと笑い合うオランドと兵士。
「良い女ならここにいるじゃねーか! どうよ?」
「え?」
「いやぁ……俺はいいっすわ……男女……いでででで!!!!」
「私がいないところでどう言おうと構いませんが、目の前で堂々と言う者のことを見逃すことはしませんよ。ついでにその軟弱な体を鍛え直してあげましょう」
男女と言った兵士の関節を決めるアリア。
そのまま放っておけば骨も折ってしまいそうな勢いだ。
「アリア、その辺にしてやれ。そんなんだから男女と言われるんだ。もう少ししおらしくしたらどうだ」
「これが私ですから」
「全く……それが長所でもあるからなんとも」
「ところでオランドさんは常に近くにいるいい女に手を出しませんね」
「…………」
「俺は……こんな男女……いででででででででで!!! お、おい!! これ以上は折れる!! 折れる!!! おい! そいつよりきつくするな!!! いでででででで!!!! いってぇ……お前俺に対して容赦ないな……」
「色々と思う所がありまして」
「そ、そうかよ……しばらく痛みが引かねぇなこれ……」
「自業自得でしょう?」
上官であるオランドであっても容赦しないアリアだった。