のほほん4
(あ゛ぁ……今日もきつかったなぁ……)
1日の鍛錬を終え、汗だくになった体を拭き、食事を終えた。
そして兵舎にある鏡で自分を覗き込む。
【11】
「またレベルが上がったなぁ……でもなんで俺鍛錬について行けないんだろ……はぁ……」
ヴィータが今見ているのは魔法の鏡。これは自分の現在のレベルを知ることが出来る鏡だ。この鏡は特別な魔法がかけられている。とても高価なものだ。一応割れないように細工をしているので割れることはないが、もし間違って割ってしまえば一生を全て捧げても償いきれないほどの借金が出来てしまう。
この鏡は主要施設に設置されている。城、兵舎、冒険者ギルドなどだ。レベルがすべてという世界ではないが、自分のレベルが上がるということは身体能力が上がっている証拠。兵士たちは日々の厳しい鍛錬でレベルが上がっていることを知ると大喜びだ。厳しい鍛錬の成果が目の前の鏡に結果として現れるのだから当然だろう。娯楽が少ない兵士たちの密かな楽しみでもある。
兵に志願する者達のすべてが自分のレベル上限を知っているわけではない。レベルが10台の兵士たちは自分が20台の大台に上がれるかどうかをドキドキしながら眺めている者もいる。
20台に上がれるかどうかというのは一種のステータスでもあるため、19でレベル上限に達してしまった者のショックは計り知れないだろう。
先ほども言ったようにレベルがすべてではない。レベルが20を超えても、必死に毎日鍛錬を続けてきた遥かに下回る10台に負けることもある。
適性なんかもある。戦士としての才能がある者達は王国の兵に仕えれば上限が10台であっても戦えるだろう。しかし、王国の兵として鍛錬してレベルが20を超えていても、戦士としての才能が無ければ、役に立つのは難しい。
レベル24以下の人間たちは、自分が何に向いているのかいまいち把握出来ないのだ。
レベルが25を超えてくると自分が何に向いているのか何となくわかってくる。
鍛えているはずのない魔力が他の人より高かったりするからだ。
この世界で生きる人間の文明レベルは低く、何か理由があれば他国の土地を奪おうと画策する欲深い者達が蔓延る世界。
学校など貴族が通うものであり、平民たちのほとんどは学校に通わせるなど不可能。そして兵士志願者たち一人ひとりのレベル上限を調べ、適性検査を行うなど生きることに必死で余裕などない国々は日本のようなことは出来ない。
とはいえ、自分が何に向いているのか、それに気づくことも一つの才能なので何とも言えない。
ヴィータが兵士になってから1年と4ヶ月。兵士になったばかりの頃のレベルは5で、鏡を見ている今は11。レベルが低いうちは上がるのが早い。同期の者達もだいたい6~7上がっている。同期の中には元々レベルが10だった者がいた。
その者のレベルは現在11。どうやらレベル上限が11だったらしくそれを知って以降、鏡を見るたび涙を流している。そんな者でも日々の鍛錬をしっかりこなせている。
ヴィータはその者にレベルが追いついたにもかかわらず、未だに鍛錬について行くことが出来ていない。ヴィータの悩みの種は増えていくばかりである。
「部屋に戻って寝よ……」
………………
そんな日々を過ごしていたヴィータに一つの試練が待ち受けていた。戦争だ。上官からの通達で戦争がはじまるというお達しが来たのだ。何か深い因縁があるのか、策略なのか、侵略なのか、そんなものは一兵士であるヴィータには知る必要などないのだ。長い行軍を終え、陣を敷き、いつ何が起こるかもわからない場所に待機させられていた。
王国が最後に戦争をしたのが10年前。ヴィータがまだ物心つく前のこと。だからヴィータを含む周りにいる同期や先輩たちは緊張した面持ちで待機している。この戦争で戦果をあげてやると意気込む者もいるが、そんな者はごくわずかだ。落ち着いているもののほとんどは戦争経験者だろう。
「ヴィータ。緊張しすぎだろ」
「う、うるさい。死ぬかもしれないんだぞ」
話しかけてきたのは同じ村出身の友達だ。1年と4ヶ月ほどで見違えるようにたくましく成長していた。けれどやはり緊張しどこか震えている。きっとヴィータと同じで怖いのだろう。話しかけて少しでも気を紛らわせようとしていた。
「何とかなるって。頑張って生き残ろうぜ」
「う、うん」
「そこの二人私語は慎め!」
「「も、申し訳ありません!」」
「そ、その! 小隊長殿、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「……いいだろう。どんな質問だヴィータ」
「小隊長殿は戦争を経験したことがあるのでしょうか?」
「……ない」
「そうでありますか……」
小隊長の顔を見ると、やはりどこか緊張している。だが何かを決意したような顔をしていた。
「……だが、俺には守りたいものがある。守るために戦うのだ」
「守りたいもの……」
「もういいだろう。もうすぐ開戦だ。静かに待機していろ」
「わ、わかったであります!」
もうすぐ開戦。その言葉を聞き、ヴィータはさらに体を震わせた。