のほほん47
「ふぅ……そろそろ一言言わないといけませんね」
そんなことをティアがぼやき始めた頃。
ガチャ
チリチリーン
久しぶりのお客さんが入ってきた。
「いらっしゃいませー! 何ヵ月ぶりでしょうか、いらっしゃいと店内で言ったのは、最後に来たお客さんは私と同じ歳くらいの女の子だったはず……」
「久しぶりだね」
「おや、以前銅の剣を買ってくれたお客さんですね」
「覚えていてもらえるとは光栄だよ」
「このお店にやってくる人は滅多にいませんからね。来る人と言えば私と同い歳くらいの女の子と、行商で知り合った男の人くらいですから」
「店の話はたまに聞くよ。いい装備が置いてあるいい店だとね」
「知り合いでしたか。まぁ口伝で話題にならなければ来なそうですからね」
「出来た! 試してみよう!」
長身の男とティアが話し込んでいると、ヴィータの大きな声が店内にまで響いてきた。ヴィータは出来上がった刀を早速試さんと外に置きっぱなしの切り株に置かれている鎧の前まで移動した。
「はぁ……出来上がったのなら、さっさといつも通り装備を作ってほしいのですが……」
「ふむ……あれは刀だね」
「知っているのですか?」
「この地に移る前は愛用していた武器だからね」
「王国で需要在りそうですか?」
「この地域の国の人達には馴染みのない武器だから何とも言えないな」
「そうですか……残念ですね」
そんな話をしている2人の見る先はヴィータだ。
「うーん、重い。重いけど切れ味はどうだろう」
本に書かれていることを見よう見まねで素振りしたり、いろいろと試している。
「切れ味は……いいな。じゃあ抜刀術ってやつを試してみよう!」
ヴィータは鎧の前で刀を鞘に納めて腰を深く落とした。
そして勢いよく抜こうとした。
「……抜けない。俺の腕の長さじゃ無理なのかな」
「店主、元気だったかな?」
「ん? あ! あなたは以前店に来てくれた人ですね」
「覚えていてくれて何よりだ。ところでそれは刀だね」
「そうです! 知っているんですか?」
「あぁ、ちょっと刀を見せてもらってもいいかな?」
「あ、どうぞ」
長身の男が刀身をじっくりと眺めている。
「良い出来だね。試してみてもいいかな?」
「構いませんよ」
「ありがとう。抜刀術をするのは久々だ」
長身の男が腰を深く落とす。
ヴィータが少し離れたところでその様子を観察していた。
力を貯めているようにも精神統一しているようにも見える。
一閃
それは一瞬だった。
「良い刀だ」
「お見事です」
「2人で何の話をしているんです? 何もしてないではないですか」
どうやら気になったティアも外に出てきていたらしい。
ティアには何をしたのかさっぱりのようだ。
そのティアに教えるようにヴィータは鎧を少し叩く。
すると鎧は綺麗に斬られた部分が滑り落ちていく。
「……へっぽこ店主には見えたんですか?」
「ちょっとだけ。どうやったのかさっぱりだったけどね」
「気に入ったよ。今日は新しい武器を探していたんだが、これが欲しい。どうだろう、売ってくれないか?」
「俺には使えない武器なので買ってくれるのは助かります。そろそろティアに怒られるかなと思ってたんです」
「へっぽこ店主! わかってるなら自重してください!!」
「切れ味のいい武器を作ってみたくて……つい」
「ついじゃないですよ!! 全く!!」
そんな話をして3人は店内へ、長身の男はお金を払うと早速刀を差す。様になっていた。
「渋いですね」
「うん」
「ティア姉さん……あ、えっと、いらっしゃいませ」
「おや、新しい子かな?」
「えぇ、コン太というのですよ。かわいいでしょ~あげませんよ!」
渡さないと主張するようにコン太を抱きしめるティア。何とも微笑ましい。
「それでどうしたのですか?」
「またポーションを持ってきました」
「さすがですね。へっぽこ店主も見習ってください!」
「……はい」
「まだ小さいのにポーションを作れるのかい? 凄いじゃないか」
「ありがとうございます……でも全然ダメで……作っても何がダメなのかいまいちよくわからなくて……ごめんなさい」
「謝らなくていいんですよ。独学で覚えるのはとても大変ですからね」
「独学……か。そういえば、弓やアクセサリーも売り始めたんだね」
「えぇ、私が作っているんですよ。魔法付与が出来るようになればもうちょっと稼げるかと思うのですが、独学でやっても中途半端になりそうですし……」
「ふむ……そのポーションとアクセサリーを少し売ってもらおうか」
「いいのですか? 言っては何ですが、アクセサリーは何の効果もなく、ポーションはまだまだ質が良いとは言えませんよ」
「構わないさ」
「お客さんがそう言うのであれば遠慮しませんよ!」
そうして長身の男は刀の他にアクセサリーと質の悪いポーションを買っていった。
…………………………
とある神聖な森の奥深く。
「ようやく見つけたよ。ルナ」
「あら? 珍しいお客さんね。それに……あなたが刀を装備しているのは久々に見た」
「今、拠点としているとある王国の鍛冶職人が作っていてね。俺の故郷の職人にも引けを取らない出来だったからね」
「ふふ、珍しくべた褒めしてる。でもそんな話をしに来たのではないんでしょ?」
「あぁ、君に見せたいものがあってね。俺が気に入っている鍛冶職人と一緒に働いている2人が作った物だ」
そう言って長身の男はルナと呼ばれたその人にティアが作ったアクセサリーとコン太が作ったポーションを渡した。
「アクセサリーは良い出来ね。魔法付与が出来るようになれば……ポーションは色々もったいない、魔力をもう少し……」
ルナと呼ばれたその人は渡されたものをじっくりと見ながらブツブツと独り言を言う。
「それを作っている2人は聞くところによると、師を欲している。どうせ暇なんだろう?」
「まぁそうね。とある王国にいるんだったかしら?」
「あぁ、王都の最北西に一軒だけ大きな家がある。そこにそれを作っている子達がいるよ。エルフの君にも住みやすい静かな場所だ。一度会ってみるといい」
「わかった。行ってようかな」
そんな話がとある神聖な森の奥深くでされていた。