のほほん46
「切れ味をもっとよくするにはどうしたらいいんだろう」
そんなヴィータの一言がティアの嘆く、ヴィータの散財に繋がっていくことになった。ヴィータ専用武器2号。鉄で作られたその二刀はヴィータの理想には程遠い出来だ。
使い始めてからずっと違和感を感じているらしい。
斬ることで手に残る違和感、ヴィータ曰く引っ掛かりを感じるそうだ。
「そういえば本に斬ることに特化してる武器があったような……」
ヴィータは本を片っ端から漁る。
気になったら見つけるまで夢中になって探すタイプらしい。
あれじゃない、これじゃないとヴィータの部屋は本で埋め尽くされていく。
「あった! 東方発祥の刀……これを作れば何かヒントを得られるかもしれない」
ヴィータは部屋を片付けることなく
刀のことが書かれた本を持ち出し鍛冶場に篭る。
ヴィータの散財がまた始まる瞬間だった。
「……はぁ……」
とため息をつくのは、今日も来るはずのない客が、もしかしたら来るかもしれないからと一応カウンターに座って内職を続けるティアだった。
ティアの行商は毎日することではない。
ある程度売り物が出来上がったら行商に行くのだ。
ヴィータが毎日売れる装備を作ってくれていれば、早くて3日、遅くても6日に1回は行商に行く。ティアが自前で持ってきたのはリュックサックと小さな荷車1台。
小さな荷車にある程度乗せて、一気に売り捌くのがティアのやり方だ。ヴィータが作る装備はティアの目利きで、王都内の上位に入る。
鍛冶を始めたばかりのヴィータがなぜ上位に入れるのか。
それはヴィータが尋常じゃないほどの集中力で鍛冶に打ち込み続け、師の教えが的確だからだろう。大きな目標を持つヴィータだからこそ出来ることなのかもしれない。
ヴィータの作る装備は売れ行きがいい。
ティアはヴィータには言わないが、ヴィータが作るものは質が良い物ばかりだ。
ティア自身が自信をもって物を売っていることもあり、一度ティアから装備を買った人達はティアの姿を見ると買わなくとも、立ち寄り話をする。ティアの人気があることも理由の一つだろうが。
そんなヴィータの鍛冶に対する集中力は時に欠点になる。
作ってみたいと思った装備を何度も何度も作ってしまうこと。
例えそれが売れない物でもだ。
需要がある装備であれば、ティアがため息をつくことはないだろう。突発的に作ってみたいと思い至ったヴィータは、必ず自分の部屋の本を漁り散らかし、見つけたら急いで鍛冶場に入っていく。
カウンターにいるティアが簡単に気付けてしまう程度の癖。
普段のヴィータは落ち着いているから気付いてしまうのだ。
「……全く。相談しろといつも言っているのに、これだからへっぽこ店主は」
「店主さんまた何か新しい物を作り始めたみたいですね」
「コン太くんもわかるようになりましたか。その通りですよ。売れないものを作り続ける予兆ですよ」
「ティア姉さんも大変なんですね」
「わかってくれますか。コン太くんは私のオアシスですよ。またあれこれ節約をしなければなりません」
ふぅ……と頭を抱えるティアだった。
「ところでコン太くんは私に何か話があるのでは?」
「そうでした。ポーションをいくつか持ってきたので見てください」
「へっぽこ店主と違って働き者ですね。どれどれ……」
一つ一つのポーションを手に取り、売れない物を分けていく。
「売れそうなポーションはこのくらいですね」
「……失敗ばかりでごめんなさい」
「良いんですよ。少しは上達したのではないですか? このままどんどん作って、質の高いポーションを作れるようになってください」
「頑張ります! 後、このポーションを持って帰っていいですか?」
「これは確か治病のポーションですか?」
「そうです。お母さんのために作ってみました。あまりうまくいってないけど……」
「もちろんいいですよ。ちゃんと報告してくれるのは嬉しいです。コン太くんは偉いですね」
ティアはコン太の頭を撫でる。コン太は嬉しそうに目を閉じて気持ちよさそうだ。
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「ただいま!」
「おかえりコン太……コホッ……コホッ……」
「お母さんだいじょぶ?」
咳き込むお母さんに近づいてコン太は背中をさする。
「コホッ……ありがとうコン太。コン太のおかげで収まったわ」
「うん! あとこれ飲んで! 僕が作ったポーションなんだよ。少しは効いてくれるはずだから……」
「コン太、ありがとう」
お母さんは迷うことなくコン太に渡されたポーションを飲み干した。
「どう? お母さん」
「不思議ね! 苦しくなくなったわ!」
「よかった! また持ってくるね!」
「えぇ」
コン太はお母さんの夕食作りを手伝い、2人でおいしいねと言いながら夕食を食べて、明日も早いからとお母さんと一緒のベットに入って寝静まった。
お母さんは寝静まったコン太を見てからコン太に気付かれないようにゆっくりと離れていく。
「コホッ……コホッ……コホッ」