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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
鍛冶職人編
43/92

のほほん42

「お母さん……助けたいのに。僕、どうしたらいいんだろう……グスッ……」


トボトボと歩く小さな男の子。


その男の子の歩みは遅く、ただ自分の求める答えを探して彷徨い続ける。けれどその男の子の望む答えを得ることが出来ず、今にも泣きそうな顔でそれでも歩き続ける。


王都内をすべて探し歩き

最後に行きついたのは閉鎖的な空間だった。

誰一人いない王都から隔離された別世界。


とうとう歩き疲れたのか、それとももうどうすることも出来ないと諦めてしまったのか。最後に行きついた大きな家の近くで小さく座り込んでしまった。小さく鼻をすする音がこの閉鎖的な隔離された場所では大きく聞こえるほどに辺りは静かだった。


そんな静寂を破るように元気な女の子の声が聞こえてくるようになった。


「今日もそれなりに稼げました! ところでへっぽこ店主。その二刀の調子はどうですか?」


「うーん……なんて言えばいいんだろうな……なんかこう切れ味が足りないというか、引っ掛かりを覚えるというか、これじゃ全然ダメだ」


「私には凄いとしか言いようがない動きでしたけどね。バッタバッタと魔獣を倒すその姿は見事としか言いようがなかったですよ?」


「そうかな? それでもダメだよ」


「王国の兵士なんか目じゃないと思いますけどね」


「それこそ全然だよ。何も出来ないで負けると思う」


「へっぽこ店主はホントへっぽこですね! 少しくらい自信持ったらどうですか?……おや?」


ティアが見るその先には小さな男の子がすすり泣きながら座り込んでいた。

狐の耳に尻尾がある小さな男の子だった。


「おや、獣人とは珍しいですね。王国では滅多に見ないはずですが」


「どうしたんだろう。泣いてるみたいだ」


「ボク、どうしたんですか?」


「……グスッ……お母さんが……」


「む? お母さん? 泣いていてはわかりませんよ。話を聞きますから、中に入りましょう」


面倒見が良いのだろう。ティアは獣人の男の子の手を取り、家へと連れていった。

2階へ上がり椅子に座らせて、飲み物を用意してティアも座る。

男の子は下を向いて、すすり泣いている。


「さぁ、話してください。迷子なら一緒にお母さんを探してあげますよ」


「……迷子じゃないです……」


「迷子じゃない? ちゃんと教えてくれないとわかりませんよ!」


「お母さんが……病気で……でも、お医者さんが治せないって……」


ポツリポツリと獣人の男の子が話し始める。

ヴィータとティアは獣人の男の子の話にじっと耳を傾ける。


「でも……お医者さんが凄いお薬を作れる薬師さんなら治せるかもしれないって……それで……診てもらったけど、そのお薬は作れないって……だから……自分で作ろうって……それで色んな薬師さんにお願いして、やっと受け入れてくれる人がいて……でもその人も病気で死んじゃって……」


「なるほど、何となくわかってきましたよ」


要約するとこうだ。


お母さんの病気を治してもらおうと医者に診てもらったが、薬師の作る薬でないと治せないと言われ。薬師を探してみたものの、作れる人は誰もおらず。自分で作れるようになろうと必死に薬師に頼み込み、ようやく弟子入り出来た矢先にその薬師が病気で死んでしまったという。


薬師自体の人口は少なく、子供に教えられるほど簡単な仕事ではない。


薬師は使用者の少ない回復魔法を扱える者と同等に貴重な存在で、その薬師も高品質なポーションを作れる者はそういない。低級なポーションは安価で手に入れられはするが、効果は大したものではない。回復魔法を使える人が一人いれば十分だと冒険者や国の偉い人達は考えてしまっている。


膨大な知識が必要な薬師一人育てるより、回復魔法を使える人を探した方が楽。それがこの世界の人達の考え方だ。それ故に、医者が欲する薬を作れる薬師の存在は非常に少ない。


獣人の男の子は母親を助けたい一心で王都に存在する薬師を必死に探し、必死に頼み込み、ほぼすべての薬師に断られ、ようやく受け入れてくれた師も失い、どうしていいかわからずこのヴィータとティアが住む家に歩いてきた。


「困りましたね。王都にいる薬師では作れない薬なんて、手に入れられませんよ」


「……グスッ……」


「そう言えば君の名前は?」


「……コン太……」


「よし、コン太。君は師匠に何か教わることは出来たのか?」


「ポーションの作り方を……ちょっとだけ……」


「つ、作れるんですか!? 凄いじゃないですか!」


「……でも全然いいのじゃなくて……」


「コン太。俺の目を見てくれるかな?」


「……はい……」


ヴィータに言われ、コン太はヴィータの目を見る。


「君はお母さんを助けたいんだね?」


「助けたい!」


コン太の目は真剣だった。

母親を助けたいという気持ちは本物のようだ。


「コン太の気持ちはわかった。じゃあここで自分で勉強しながら作ってみるのはどうだろう?」


「えっと」


「王都にいる薬師には作れないなら、自分で作れるようになるしかないんだろ?」


「……うん」


「ここには一応、誰も使っていない調合場があるんだ。そこでなら思う存分作れるはずだよ」


「いいの?」


「ティア、大丈夫かな?」


「なぜ私に話を振るのかわかりませんよ」


「お、お金のこと俺じゃわからないし」


「仕方ないですね。コン太くん」


「はい」


「君は本当にお母さんを助けたいのですか?」


「助けたいです!」


「……わかりました。お金のことは何とかやりくりしましょう。へっぽこ店主、鉱石の数減らすことになりますよ」


「わかった。一緒に頑張ろう、コン太」


「よ、よろしくお願いします!」


こうして薬師見習いが雇われることとなった。

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