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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
鍛冶職人編
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のほほん40

カーン!


カーン!


カーン!


閉鎖的な人が全くいないその空間では、よく響く音。

その音がするということは人がいるということに他ならない。

レフィリアの足取りは軽くなるが、エレノアの足取りは重くなる。


「レフィリア様、あの者は元気でやっているようですよ。帰りましょう」


「エレノアはこのまま帰っていいですよ。何とか頼んでヴィータさんに護衛をしてもらうことにします」


「なっ!? あの者に護衛が務まるとでも思っているのですか!?」


「もちろんです! ですから……」


「帰りませんよ! 護衛は私の務めですからね!」


結局2人で家の前までやってきた。

すると家の中から聞きなれない怒鳴り声が聞こえてきた。

気になったレフィリアは早足で家の中へ。

そして中の光景を見て固まってしまう。

何事かとエレノアも家の中へ。


「全く! 何を考えているのですか!!! このへっぽこ店主!!!」


「……ごめん」


「前に言ったではないですか!!! 自分の武器を作るのは構いませんが、ちゃんと私に言えと!!!」


「悪かったよ……」


そこにはカウンターの近くで大声をあげて怒るティアと怒られて申し訳なさそうにしているヴィータの姿が。

怒りで我を忘れているティアはヴィータの目の前まで詰め寄って怒っている。

その姿は傍から見れば夫婦のように、やらかした夫を叱る妻のようにも見える。


(これは……私では出来ない見事な光景ですね。レフィリア様にもいい薬になるでしょう。今日だけはよくやったと褒めてやりましょうヴィータ)


「ど、どうしたのですか?」


「「え?」」


動揺を隠せないレフィリアの声は震えていた。


しかしその声でようやく誰かが来ていると知ったティアとヴィータはレフィリアとエレノアを見る。


「い、いらっしゃいませー! 情けない所を見せました!」


「っ!!」


「おや? へっぽこ店主なぜ膝をついているのですか?」


「いいから! いいから!」


ヴィータはレフィリアの存在に気付くとすぐに膝をついて、右手を胸に当てて臣下の礼をする。いきなり何やってんだと不思議そうに見るティアに必死に早くお前もやれと説得する。


「ヴィータさんそのようなことは……」


「……あっ!? れ、レフィリア様!?」


ティアもようやくレフィリアのことを王族だとわかったようですぐに膝をつく。


「ご、ご無礼をお許しください! ま、まさかこのような場所に王族の方が来るとは思っておらず……」


そんなことを言いつつティアはヴィータを見る。


「何で王族の方がこんな場所に来るんですか!? どういうことか説明しやがれへっぽこ店主!」


「い、いや前も来てたじゃないか!」


「……そ、そう言えば、あわわ、気付かないで素通りしてしまいました……し、しかしなぜへっぽこ店主が王族の方と知り合いなんですか!?」


「兵士やってた時に少し話をしたことがあるんだよ。俺のことを色々心配してくれる素晴らしい方で……」


と小声でやり取りしている2人を見て羨ましそうな顔をしているレフィリア。ティアはそのレフィリアの顔を王族の前でコソコソ何話しているんだと、違う意味で捉えてしまい余計に焦りながら話題を変える。


「そ、それでこのような場所にどういった用件でしょうか?」


「……ヴィータさんと話に来ました」


「へ?」


「王族ではなく、ただのレフィリアとしてここに来ました。ですからそのように膝をつかないでほしいのです」


「えっと……しかし」


「構いません。いえ、お願いします」


レフィリアが頭を下げたことで、2人はようやく立ち上がる。


レフィリアは思う。


こう言わなければ、普通に接してもらえることも出来ない。

王族の生まれである自分が憎いと。


「じゃあここで話すのもあれですから2階へどうぞ! さぁ! 姫様どうぞ!」


「……私はここに残っていましょう」


「エレノアありがとう」


エレノアを残し3人は2階へ。

ティアは手慣れた手つきで飲み物を用意してテーブルへ運ぶ。


「そ、その2人はどのような関係なんでしょうか!?」


我慢出来なくなったレフィリアはソワソワしながら答えを待つ。

その様子を見てティアはすぐにレフィリアの気持ちを察する。


「私は雇われの商人ですよ。たまたま出会って、今は協力関係にあります」


「ほ、本当ですか? えっと……ごめんなさい。名前を聞いていませんでしたね」


「おっと、これは失礼しました。ティアと申します。よろしくお願いします。姫様」


「ティアさんですね。よろしくお願いします。そ、そのそれで2人の関係は本当にそれだけなんですか!?」


やはり気になる2人の関係。


「安心してください。鍛冶は出来てもそれ以外はほとんどダメダメなへっぽこ店主の代わりに、出来上がった装備を売ったりして生計を立てているだけです」


「……それってもう家族みたいなものでは?」


「……ま、まぁ傍から見ればそんな風に見えるかもしれませんが違います」


「そ、そうですか。ヴィータさんはどう思ってるんですか?」


「えっと、ティアが来てくれてとっても助かっているであります。鍛冶に集中出来るのもティアのおかげなのでありがたい存在であります!」


どうやらヴィータの言いようからは協力関係以上の何かはない様子。一応一安心のレフィリアだった。


「その、お二人にお願いがあります」


「何でしょう?」


「これからも、何度も何度もここへ来て話したいと思っているんです。だから来るたびに膝をつくのをやめてほしいんです。友達と接するようにしてほしいんです」


「「…………」」


「エレノアにはちゃんと言っておきます。ですからお願いします」


「わかりました。その方が私としても助かります。姫様」


「うーん」


「姫様の気持ちを汲み取ってあげなさいよ! このへっぽこ店主!!!」


「わ、わかりました!」


「はい! それとヴィータさん、ティアさん」


「何でしょうか?」


「私も二人のようにもっと仲良くなりたいんです。ですから姫様とかレフィリア様と他人行儀で接してほしくないんです」


「……ですが」


レフィリアの心の底からの願い。

しかしヴィータには抵抗があるようだった。


「ではなんと呼べばいいでしょうか?」


「そうですね……お母様は私のことをいつもレフィーと呼んでくれていました。なのでレフィーと」


「わかりました! では遠慮なく呼ばせてもらいますよ! レフィー」


「ありがとうございます。ティアさん」


ヴィータをよそにレフィリアとティアは打ち解けていった。


「さて、そろそろ私は失礼しますよ」


「ティアさんもう行ってしまうのですか?」


「私は店番も仕事ですから、長い間空けるのは気が引けるので」


「そうですか。また話をしてくれますか?」


「もちろんですとも! 友達なんですから当然ですよレフィー」


「……ありがとう。ティアさん」


「ではでは、へっぽこ店主、ちゃんと話をしてあげるんですよ!」


「わ、わかってるよ」


そう言ってティアは1階へ行った。女二人で話に花を咲かせている間、ほとんど話をしなかったヴィータ。未だに距離感を掴めていないようだった。


「ヴィータさんは最近どうでしょうか?」


「ティアのおかげもあって、鍛冶に集中出来てますが、思うようにいかないことが多くて……レフィリア様は最近どう過ごされているでありますか?」


「…………」


「レフィリア様?」


「ヴィータさんは先ほど私が言ったことを聞いていなかったのでしょうか?」


「えっと……そ、それは……」


「レフィーと呼んでください!」


「し、しかし……」


「呼んでくれないのであれば話したくありません!」


プイっとそっぽを向くレフィリア。ヴィータはレフィリアを守るべき者として姫と兵士という関係が根付いている。友達として接することに抵抗があるようだ。エレノアの存在が無くてもそれは変わらないだろう。


「れ、レフィー……」


「はい!!」


根気負けしたヴィータがおずおずと名前を呼ぶ。

たったそれだけで満面の笑みを浮かべるレフィリア。

この微笑ましいやり取りをエレノアが見たらきっと発狂するだろう。


それからレフィリアはエレノアが時間だと告げるまでの間、心行くまで幸せそうにヴィータと話し続けていた。

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