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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
鍛冶職人編
39/92

のほほん38

ティアと一緒に魔獣討伐に出た後は、すぐに鍛冶場に入っていくようになった。そしてティアが食事が出来たと呼びに行かなければずっと打ち続けるようになっていた。


カーン!


カーン!


カーン!


自分が戦える武器が欲しい。帝国将に何も出来ずに小石を蹴るように、相手にもされずに負けてしまうのは嫌だ。


武器……戦える武器さえあれば……


カーン!


カーン!


カーン!


お前には作りたいものがあるのだろう?

常に意識しろ! 自分の手にする武器をイメージしろ! お前だけの武器を!

その作りたい物を、理想を、求める物を。その手に握るハンマーに込めて打て!


ドラゴスが言っていたことが頭の中で何度も何度も再生される。


カーン!


カーン!


カーン!


どんな武器にも負けない鋭い武器を、俺が扱える俺だけの武器を


カーン!


カーン!


カーン!


無骨で構わない。飾らなくていい。

あの帝国将に負けないほど強い武器を!!


「はぁ……はぁ……はぁ……」


目の前には鉄で出来た自分のためだけに作った2本の剣がある。

何日も何日もただただ自分のためだけに打ち続けた二刀だ。


鍛冶場には何十本ものヴィータが作った専用武器もどきが出来上がっていた。


「全然ダメだ……これじゃ……ダメだ。けど……少しはましになったのか?」


何度も何度も出来上がったばかりの物を見回している。


「終わりましたかー?」


「ティア? どうしたの?」


「今何時だと思ってるんですか。もう日付変わってますよ!」


「……そうなの?」


「このへっぽこめ……ある日突然、ほとんど話さなくなるわ、そこに置いてある微妙な武器を作り続けるようになるわ。ご飯出来たと言っても出て来なくなるわ……何考えてやがりますか!」


「ご、ごめんよ」


「切りあげてお風呂入ってください! 臭いですよ!」


………………………


「出てきましたね。さぁ夕食を食べましょう」


「ずっと待ってたのか……」


「声を掛けても出てこないからですよ」


「ごめん」


「謝るくらいならちゃんと呼んだら出てきてください!」


「……そうするよ」


「「いただきます!」」


ティアが作った料理はもう冷え切ってしまっていた。待っていてくれたことのありがたみとせっかく作ってくれた料理を冷やしてしまったことへの申し訳なさがヴィータの中に渦巻いていた。


「それで、一体なんで毎日遅くまで籠ってるんですか? 理由くらい教えてください」


「夢を見たんだ。とても悔しい夢」


「夢……ねぇ……」


「うん、守りたいのに武器が無くて守れなかった夢」


「そうですか。へっぽこ店主が鍛冶を始めるきっかけになったことですね?」


「そうだね。俺が扱える俺のための武器が欲しいんだ」


「鉄の剣でも十分戦えているではないですか」


「あれじゃダメなんだ。なんていうか……あれじゃ守れない」


「ふむ」


どうやら口では説明できないことらしいとティアは察した。ティアからしてみれば鉄の剣でもハイウルフをどんどん倒していくヴィータは十分すぎるほど強いと思うのだが、それではダメらしい。


「じゃあ、さっき出来上がった2本の剣はどうなんです? 質はそこそこで形がそれっぽくなっていたように見えましたけど?」


「うーん……まぁ……使ってみないことにはわからない……かな」


「それを聞いて一応安心しました」


コホンと咳をしてティアが姿勢を正した。


「どうしたの?」


「ようやく軌道に乗ってきた商売が、どこぞのへっぽこ店主の散財のせいで、また赤字一直線になり始めまして、いい加減にしやがれと言おうと思っていたんですよ」


「……ごめん」


「……ごめんじゃないですよ!!! 全く!!! これも何度目ですか!!! 作るなとは言いませんよ!!! ですが限度を考えやがれですよ!!! このへっぽこ店主!!!」


「……はい……」


「しばらくは今日作ったもので我慢して仕事してください!!! それと今後は自分の武器を作る時はちゃんと言ってください!!!」


「わかったよ。気を付けるようにする」


「わかればいいんです。全く……心配させないでください……」


ティアは最後にヴィータに聞こえないほど小さい声でポツリと囁く。ティアが本気で心配するほど鬼気迫る勢いで鍛冶に打ち込んでいたんだろう。


「最後、なんて言ったの?」


「何でもありません! さぁ! 食べ終わったんですから! 片付けて寝ましょう!」


「そうだな。明日も早いからね」


………………………


「あれだけ打ち込んでたのに結局使わないんですか?」


「今は……ね。鉄の剣は兵士やってた時に使ってたものと似通ってるからある程度使えるんだけど、俺自身のために作った武器はなんていうか……思い付いただけの武器だから」


「思い付いただけって……そんな物のためにあんなに散財しやがったんですか?」


「いきなり実戦で使っても怪我するだけだよ」


「……確かにそうですね」


「魔獣討伐が終わって、鍛冶で何本か作った後にでも素振りするさ。失敗した鎧もあるからね」


「考えてあるならいいです。余計なこと聞きましたね」


「いいさ。さぁ、見つけたよ」


「全く分からないですよ!」


そんなこんなで素材を売り払い、鍛冶をそこそこで切り上げてヴィータは二刀を持って素振りしていた。


「ふっ! はっ! やっ!」


そんなヴィータの近くを通る人が1人。

どうやらヴィータは夢中になっているため気付かなかったようだ。


ガチャ

チリチリーン


「いらっしゃいませー!おや、来てくれたのですね?」


「おっす。来てやったぞ」


客としてやってきたのは、元気な青年だった。ティアの知り合いらしい。


「外にいる兄ちゃんは?」


「あれは私を雇ってくれているへっぽこ店主ですよ。私が売ってる武器や防具はみんなあの人が作ってるんですよ」


「へぇ……俺より年下だろうに凄いな。素振りもなんか様になってたぞ?」


「ハイウルフ3匹を1人で平気に倒しちゃうくらいの人ですよ」


「まじ?」


「まじです」


「多芸だねぇ……」


「鍛冶と戦いに関してはです。でもそれ以外が酷いんですよ」


「ふーん? まぁいいや。見せてもらうぜ」


「ごゆっくりー」


・・・

・・


「毎度ありー!」


「また来るぞー」


ガチャ

チリチリーン


元気な青年が店から出ると、汗を流しながら素振りをしているヴィータの姿が。


「さて、やってみるか……」


ヴィータは切り株に置かれた鉄の鎧の前に立つ。


目を閉じてイメージする。

鎧を両断するイメージを。

そして目を開けて試す。


カキン!


鎧は傷が少しついた程度で両断なんて夢のまた夢のようだ。


「よう」


「!?」


「そんなに驚くなよ。あんたが雇ってる商人の行商であんたの作った武器を買ってな。その時にここで売ってるって教えてもらったんだよ」


「な、なるほど、お客さん」


「そゆこと。それで何しようとしたのよ?」


「え゛!? いや……その……」


「いいから言ってみろって」


「両断出来るかなーと……」


「ふーん。今のままじゃ無理だろうよ」


「まぁ……」


「あんたの作った武器、試し斬りさせてもらうぜ。よーく見てな」


元気な青年はそう言って、先ほど買った鉄の剣を取り出した。

そして鎧に向かって一振り。すると弾かれることなく胸の辺りまで斬れていた。


「す、凄い」


「ん~俺じゃこれぐらいか……しかし頑丈な鎧だな。俺は斬り落とすつもりだったんだが……」


「十分凄いよ」


「んでわかったか?」


「何が?」


「何がってな……ホントにハイウルフ一人で狩れてるのか?」


「い、一応は」


んーと頭をかきながらヴィータの目の前に鉄の剣を向けた。


「今なんか見えてる?」


「何も見えない」


「見えねーのか。じゃあ魔力ってわかるか?」


「わからない」


「そこからか……魔力ってのはな魔法を使うための力だな。魔法は使える奴が限られてくるんだが、魔力は誰にでも扱えるんだ。その力を扱えるようになると俺がやったみたいに鎧を斬れるようになるわけよ」


「……誰にでも扱える力」


「人によっては魔力を見えたり、感じ取れたりするんだが、あんたはどうやらどっちの才能もないみたいだからな。苦労するぜー?」


「才能がないのはわかってるから……」


「ま、精々頑張れよ~じゃあな~」


元気な青年は手をひらひらさせて帰っていった。

その後しばらく鎧に攻撃してみるが、青年のように斬ることは出来なかった。

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