のほほん37
ゴソゴソとハイウルフの素材を漁る。
「また残ってるではないですか。へっぽこ店主の目は末期ですか!?」
「……ごめん」
「まぁいいです。もう結構経ちますが、目利きに関してはもう諦めました。自分の打った剣と他の職人が打った剣の区別すら出来ないのですから……」
「なんでそんなに見分けられるのさ」
「私は逆にどうして見分けられないのかが不思議ですよ。小粒ほどしか見えないほどの遠くの魔獣は見える癖に」
「俺はどうしてティアがそんなに目が悪いのか不思議だ」
「む、言うようになりましたねへっぽこ店主」
そんな話をしながら魔獣を倒す。そしてまた漁る。
「そういえば、防具はつけないんですか?」
「物凄く軽いものならいいかな……」
「軽いですか? 王国兵だったんですから重装備でもいいのでは?」
「あれは重すぎて俺には無理だよ。軽くて動きやすい方がいい」
「ふむ、戦いに関しては無知ですからね。私が口出しすることではないのでしょう。あ、また見逃してますよ!」
「む」
「これはもう私1人で漁った方が早く終わりそうですね」
「ごめん」
「構いません。役割分担ですよ。私は戦えませんからね」
魔獣討伐を切り上げて、集めた素材を冒険者ギルドへ売り、ティアが作る昼食を食べて一休み。そしてティアは客が訪れることがない店番を、ヴィータは鍛冶を始める。
「……60点!」
「全然点数上がらないな」
「へっぽこ店主の師匠も鉄は大変だと言っていたでしょう? 少しずつ良くなっているのは間違いありませんからね。たまには銅を使ったり、防具でも作ってみてわ? 気分転換は必要ですよ」
「確かにそうだね。でも失敗すると思うよ?」
「へっぽこ店主が最初から成功させるなんて全く思ってないから大丈夫です。お金の心配をしてくれてるならご心配なく。魔獣討伐に私が出向いてから、利益はちゃんと出せるようになってますから」
「そ、そっか」
「そうですとも! あれだけの素材を銀貨1枚で売り飛ばすことさえしなければ全く問題ないですよ! へっぽこ店主が鉄製の武器を作り出せるようになってきてますしね」
「いつもありがとうな」
「ふ、ふふん! そうでしょう! そうでしょう! さぁ! 感謝の気持ちのお返しは腕を上げて、より一層売り上げを上げれるようにすることで返してください! 頼みましたよ」
「あぁ! 頑張るさ!」
……………………
「それでこれはなんです?」
「鉄製の鎧」
「これをどうやって装備するんですか! 胴体の部分がドロドロに溶けてるではないですか!」
「い、いや~落としちゃって……」
「まったくへっぽこですね! 質は良いのにもったいない!」
ヴィータの頭の中にある鉄製の防具はたった一つだった。5年間自分で手入れをして、装備してきたあの王国兵士が装備する重装備だった。
「し、しかもこれ私じゃ持ち上げられないですよ! なんてもの作るんですか!」
「と、とりあえず作れるものはこの防具だけだったから……」
「こんなもの背負うなんて無理です! 荷台に乗せて運ぶことは出来ても、下ろしたら最後、私一人じゃ絶対荷台に乗せれませんよ!」
ヴィータですら持って歩くのはかなりきついのだから、ティアが持てるはずがなかった。
「外にある切り株に置いておこう」
「何でそうなるんです!?」
「いや~自分の作った剣の切れ味試すには丁度いいかなって、失敗作だし」
「……まぁ……いいですけど……次からそんな馬鹿みたいに重い鎧なんて作らないでくださいね! 量産されても売り捌けませんから!」
「わかった」
「どうせ作るなら盾とか兜とか、もっと軽量化した鎧にしてくださいね!」
とりあえずヴィータは庭にある切り株の上に失敗した質のいい鉄の鎧を置いておくことにした。
……………………
夢を見る。
目の前には圧倒的な強者である帝国将がいた。
圧倒的な実力を持ち、そしてその手には帝国将のためだけに存在する美しく、それでいて斬る、突く、叩き潰すことを可能にした強力な剣があった。
対して、ヴィータの両手には何もない。
近くにはレフィリアが今にも泣きそうな顔で恐怖に体を震わせていた。
許せない。
レフィリア様をこんな風に怯えさせるあいつが許せない。
ヴィータは帝国将に素手で戦いを挑んだ。
帝国将は素手であろうと容赦なく剣を振り下ろす。
ヴィータはなす術なく体を斬り裂かれてしまった。
「うわああああああああ!!!……はぁ……はぁ……夢?」
夢だとは思えないほどのリアルな光景が見えていた。
体は汗でびっしょり濡れている。
無意識にヴィータは夢で斬り裂かれた部位に触れる。
「大丈夫……ちゃんとある」
ちゃんと俺は自分の武器を作れるんだろうか?
夢では俺は武器を持っていなかった。
こんなことで俺はレフィリア様を守れるのだろうか?
「俺は……俺は……」
守れるとは言えない。今のままでは。