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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
鍛冶職人編
35/92

のほほん34

「決めました。どうせ客なんて来ないんですから、明日から私も魔獣討伐について行きます」


「それはダメだ。危険すぎるよ」


「確かに危険でしょうね。ですがへっぽこ店主が守ってくれればいいんです!」


「俺は……無理だよ。きっと怪我させる」


「守りたい人がいるんでしょう? 私を守って今のうちに練習すればいいんです」


「ダメだ。絶対にダメだ」


ヴィータの目は真剣だ。


さっきまで怒られて申し訳なさそうにしていたのに。

ティアもそれを見て怒りなんてどこかに飛んで行ってしまった。


そしてティアは実感する。


ヴィータは今まで兵士として本気で王国の民を守ってきたんだと。


「それでも行きますよ! これでも一応支援魔法が使えますからね。これ以上赤字続きは困るんですよ!」


「……それは……」


「家のことは私が指示してましたが、王国の外ではへっぽこ店主に従います。だから連れて行ってもらいますよ!」


「怪我して痛い思いするぞ」


「痛い思いは嫌です。なのでちゃんと守ってください。もし守り切れなくて怪我しても、それは私自身がへっぽこ店主の言うことを聞かなかったんですから、自業自得です」


「…………」


「とにかくついて行きますからね! これは決定事項です! これ以上生活が苦しくなってたまるもんですか!!」


「……わかった。俺は弱い。守れると言いきれる自信はないから……でもちゃんと言うこと聞いてくれよ」


「それでいいです。自信満々に守りきれると言い張られた方が心配になりますからね!」


……………………


「いつもどの魔獣を倒しているんです?」


「倒しやすいハイウルフだよ」


「……倒し……やすい?」


「うん。ハイゴブリンは一度に5体から10体相手にしないといけないから。一人だと危険すぎる」


「まぁそうですね」


「スライムは俺の攻撃だと核まで到達出来ないから、必然的にハイウルフになるんだ」


「攻撃力が足りないと」


「そういうこと。捨て身覚悟で全力で攻撃しても届かないからね……」


「でもハイウルフって……」


「ハイウルフは多くても3匹くらいまでしか群れないし、俺の弱い攻撃でも傷つけられるから」


「そ、そうですか(おかしいですね。確かハイウルフって……)」


「じゃあ行こうか。ちゃんと言うこと聞いてくれよ?」


「え、あ、はい! もちろんですとも!」


ヴィータが買った家は、最北西に位置している。最寄りの門は西側。もし閉まり切りの門が空いていればそこから出ればいいのだが、開くことはない。わざわざ遠回りをして王都の外へ。


王都周辺の魔獣は比較的強い魔獣がいる。

主な原因は王都に住む人の人口が多いから。


すべての生き物の負の感情と空気と同じように漂う魔素が混ざり合い生まれるのが魔獣だ。魔獣の強さはその負の感情の濃さと魔素の濃さとその環境で決まる。


人が村や街を作る時の基準は当然住みやすいかどうかだ。


戦うことをしない平民には関係ない話だが、王都のような大きな都では何が起きても対処できるように綿密な設計をされている。魔素の濃さは、人が持つ魔力の回復量が関係するわけで、魔法を使う人達が必然的に多くなる都や大きな街ではとても重要だ。


負の感情はそのままだ。


喧嘩したりいがみ合ったり殺し合ったりすれば負の感情が現れる。人口が多くなればそれだけ問題が起きるため、人口が多い都や大きな街では自然と負の感情も濃くなっていく。


戦争が起きてたくさんの濃い負の感情が沸き上がってしまうと、戦争後に強力な魔獣が現れたりする。攻められている側からしてみれば魔素の濃い砦やら街やらで戦うわけだから、戦後も冷や汗ものだ。


そんなこんなで王都周辺には比較的強い魔獣が徘徊している。放置しすぎると王都に魔獣が襲ってくるため定期的に兵士たちが狩りに行くわけだ。


強い魔獣が現れることはそれだけレアな素材も手に入る。騙されてはいたがヴィータとティアが生計を立てれていたのはそのおかげである。


「いたね」


「え? どこにいるんです?」


「ん? そこにいるじゃないか」


ヴィータが指さす方をティアが目を凝らして見ていると、わずかに動く何かがいた。


「んー? あ、あのちっこいのですか?」


「そだよ」


「よく見えますね? 私にはただの点にしか見えませんよ?」


「そうなんだね。まだまだ近づくけどなるべく音を出さないようにね。気付かれたら面倒だから」


「わかりました。じゃあその前に支援魔法使いますよ?」


「あぁ、ありがとう。頼むよ」


「大したことないですけどね。魔法は私には向いていなかったようですから」


「いや、結構変わってるよ。助かる」


「そうですか? それはよかったですよ」


「じゃあ行こう」


近づけば近づくほど慎重にゆっくりと歩いて近づいていく。


「ここで待ってて」


「2匹いますよ? 大丈夫ですか? 止めた方がいいんじゃないですか?」


「何とかなるよ。それよりもちゃんと待っててくれよ」


「わ、わかりました。ですが、助けられませんからね?」


「うん」


ティアに待てと指示して、ヴィータがさらにハイウルフへゆっくり近づいていく。


トンと軽くヴィータが地を蹴る。


「……なんですかあれ……」


ティアは驚きを通り越して呆れるほどの速さでハイウルフの後ろまで詰め寄ったヴィータ。2匹のハイウルフは突然の敵に驚きはするが、すぐさま戦闘態勢へ移行しようとして……1匹は首を斬り落とされ絶命した。


さすがにもう1匹は噛みつこうと飛びかかってきた。


ヴィータは冷静にバックステップして躱し、ハイウルフの着地地点を先読みしたヴィータが攻撃。倒しきれなかったようで、反撃に出るハイウルフの引っ掻き攻撃。


攻撃を受けてしまったハイウルフの動きにはもうキレがなかった。

攻撃の軌道を知っているのか、ヴィータはギリギリで躱して止めを刺した。


「ふぅ……」


「……おかしいですね……ハイウルフって王都周辺で一番危険と聞いていたんですが……」


「そうなの? 兵士仲間は皆簡単に倒してたよ。俺は相変わらず全然だめだ。支援魔法のおかげでやっとだ」


「……そ、そうですか……(レベル20を超えた人達が1匹倒すために5人で戦うような魔獣と聞いていたんですが)」


ハイウルフ。


この魔獣は主な攻撃は噛みつきと鋭い爪の引っ掻き攻撃だ。顎がとても強く、噛みつかれると死んでも離さないほどで、首に噛みつかれれば苦しみながら死ぬことになる。引っ掻きも軽装では軽く当たっただけでも簡単に皮膚を引き裂くほどだ。


王国の兵士たちは屈強な肉体を持ち、そのすべての兵士たちが重装備をしているため重装備にある隙間に攻撃されなければ問題なく倒せるのだ。


王都周辺の魔獣討伐に駆り出される兵士たちのレベルは安全に狩るためにレベル25以上の兵士たちだけだ。レベルが25を超えている兵士たちは大体が兵歴が7年以上の強者だ。ハイウルフと言えど後れを取るようなことはほとんどない。


冒険者ならば5人でパーティーを組み、1人から2人が重装備を装備してハイウルフを惹きつけている間に残りの冒険者がハイウルフを叩く方法が主流である。


ヴィータは、王国兵だった頃にハイウルフの弱点を教え込まれており、周りの兵士が強かったおかげで戦い方を知っていた。


慎重に戦えば1人でも何とかなると勘違いしているヴィータは、1人で倒せてしまっていることが異常なことだと知らない。


「素材を集めようか」


「そうですね。ちなみにへっぽこ店主のレベルっていくつです?」


「32だよ。もう上がらないんだ」


「32!? 上限になってるとしても凄いじゃないですか!!」


「俺の周りには30超えてる人たくさんいたから。それに俺、レベル10台の新兵に負けるし」


「……嘘ですよね?」


「ホントだよ。前も言ったじゃないか。100戦3勝97敗って」


「王国の兵士って化け物多いんですね……」


「俺が弱すぎるだけだよ」


ティアはホントかよと疑いの目でヴィータを見るが、表情は真剣そのものだった。


「こんなものかな」


「ふむ? まだあるじゃないですか……ちなみにこれ何かわかります?」


「ゴミ?」


パァン! と良い音が鳴る。


「痛い! 何するんだよ!」


「これは魔石ですよ!! レア素材の一つですよ!!! この最低品質でも銀貨1枚です!!!」


「へぇ……そうだったんだ」


「へぇ……そうだったんだじゃないですよ!!! このへっぽこ店主!!! 今まで結構放置してやがりますね!!!」


「あったような……気がする」


「私の苦労を返してください!!」


「ご、ごめん」


「まったく!!! 来て正解ですね!!!」


狩りを始めて4時間ほどでヴィータ達は狩りを切り上げた。


倒したハイウルフの数は16匹。ティアが素材集めに参加したことで、ヴィータ一人での稼ぎだった場合平均で銀貨1枚だったものが、銀貨5枚へと跳ね上がった。


「ホントにこのへっぽこ店主は……呆れてものが言えませんよ!!」


とティアは怒り心頭だった。

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