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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
鍛冶職人編
34/92

のほほん33

カチン!


「違う!!! 何度も言っておるだろう!!! 銅と違い丁寧に打つだけではダメだ!!! もっと力強く打て!!!」


「はい!!!」


ガチ!


「馬鹿者!!! 力強く打てとは言ったが適当に打てとは言っておらん!!! 丁寧に力強くだ!!!」


「はい!!!」


カーン!


「ダメだダメだ!!! それではデコボコになってしまう!!! もっと集中しろ!!!」


「はい!!!」


カーン!


何度も何度もダメ出しをされる。

それでも何度も何度も打ち続ける。

日が傾いても日付が変わってもそれは終わらない。


「まだやってるんですか? そろそろ明日に備えて寝たいんでいったん終わってください!」


「む? もうそんな時間か。駄目弟子! 今日はここまでだ!」


「ぜぇ……ぜぇ……は、はいであります!……ぜぇ……ぜぇ」


「どうせなんでドラゴスさんも泊っていったらどうですか? お風呂ありますよ」


「そうだな……何日か空けても問題ないだろう。鉄を扱えるレベルになるまでは泊まらせてもらおうか」


それから数日。


カーン!


「もっと集中しろと言っているだろう!!! よく見て、丁寧に力強くだ!!!」


「はい!!!」


カーン!


「それではダメだ!!! お前は作りたい物があるのだろう!!?? こんな通過点程度の武器で立ち止まっていいのか!!!???」


「っ!!!」


カーン!!


「今のはいいぞ!!! 常に意識しろ!!! 自分の手にする武器をイメージしろ!!! お前だけの武器を!!!!」


「はい!!!!!」


欲しい! 自分の武器が!


カーン!!


レフィリア様を守れるだけの武器が欲しい!


カーン!!


あの帝国将のような強者にも負けないだけの力がほしい!!!


カーン!!


「休憩だ駄目弟子!!」


「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」


「いいか! お前にとって鍛冶とは自分の求める物を作り出すためにあるのだろう?」


「ぜぇ……ぜぇ……そうであります」


「なら今後は常に意識しておけ。その作りたい物を、理想を、求める物を。その手に握るハンマーに込めて打て、ただ打つだけでは身に付かん」


「はいであります!」


「お前は要領が悪い。だが大きな目標がある。その目標のためだけにハンマーを振るえ、余計なことを考えるなよ。必要なことはこのワシが叩き込んでやる」


「はいであります!」


……………………


そうしてようやく出来上がった鉄の剣。


「まぁこんなものでしょうね……50点」


「厳しい」


「ふん! そんなものが売れるなど高が知れておるわ!」


「まだまだ失敗も多いようですけどね。これで家計のやりくりも多少は楽になればいいですが……」


「かなり空けてしまったからな。そろそろ文句を言われだすだろうからワシは行くぞ」


「もう行ってしまうでありますか? まだまだ教えてほしいであります」


「鉄に関して教えることはもうない。後はお前次第だ駄目弟子。次来るまでにはまともに打てるようになっておけ」


「ご指導ありがとうであります!!!」


「うむ! ではな!」


ドラゴスは嵐のように現れ去っていった。


「さて、数日とはいえ、貯金をすべて鉄鉱石に費やしてしまったんですからね! テキパキ働いてくださいよへっぽこ店主!」


「……え゛……そうなの?」


「鉄鉱石が自然に湧いて出てくるわけないでしょう! 魔獣討伐もせずに一日中馬鹿みたいに鉄鉱石使ってたんですから、当たり前でしょう!!」


「……すいません」


「構いませんよ先行投資ですから。ですが覚えておいてくださいよ。1回失敗するたびに食事のおかずが1品無くなると!」


「な、なんだと……それは困る!」


「ではテキパキと働きますよ!」


「わかった!」


ティアの作る料理は、兵士だった頃の寂しい食事とは比べ物にならないほど、手が込んでいるのだ。もはやヴィータはティアに完全に尻に敷かれていると言っていいだろう。


ドラゴスが帰ったことで、いつも通りの日課に戻ったヴィータは今、魔獣討伐を済ませて冒険者ギルドへ行くために商業地区を歩いていた。


「おや、へっぽこ店主。ここで会うのは初めてですね」


「ティアか。装備を売ってたのか?」


「えぇそうですよ。今その売り上げで必要な食材と材料を買っているところですよ」


「いつも助かるよ」


「ふふふ、構いませんよ。私のためでもありますからね。ところでその袋一杯に入っているのは魔獣からとれた素材ですか?」


「あぁ、そうだよ。装備が鉄の剣になったからね。少しは魔獣を倒しやすくなったんだ」


「なるほどなるほど。ちょっと見せてもらっても?」


「もちろんいいよ」


「…………」


通行人の邪魔にならないよう隅へ寄って、ヴィータが集めた素材をじっと見ている。


「……おかしいですね……」


「ん? 何が?」


「いつもこれだけ集めてるんです?」


「銅の剣の時はもうちょっと少なくなるけど、大体こんなものかな」


「……ふーん……これから売りに行くんですよね?」


「そうだけど……どうしたの?」


「かなり思う所がありましてね。ちなみにハイウルフから取れるこのハイウルフのコアの相場知ってます?」


「知らないよ?」


「…………」


さも当然のように知らないと即答するヴィータに静かな怒りを覚えるティアだった。ティアの体は震えている。


「一緒に冒険者ギルドへ売りに行きましょうか」


「うん? いいけど……」


ティアの声には少しだけ怒りの感情が込められていて、ヴィータは少し不穏な空気を感じ取っていた。


「へっぽこ店主、ちょっといつも通りに素材を売ってみてください」


「わかった」


冒険者ギルドの素材買取カウンターへと足を運ぶ二人。


「あ、いらっしゃいませ! ヴィータさん今日もたくさん素材を持ってきてくれたんですね!」


「うん。今日もお願いします」


「任されました! ではお預かりしますね!」


そう言って買い取りお姉さんはヴィータから袋一杯につまった素材を受け取った。しばらくしてお姉さんがお金の入った袋を持ってくる。


「今日は銀貨1枚と銅貨35枚です!」


「ちょっと待ってください」


「へ?」


今まで黙って成り行きを見ていたティアが待ったをかけた。


「今渡した素材の中身をすべて持ってきてもらいましょうか」


「え、えっとヴィータさんこの子は?」


「俺の仲間……です」


「お姉さん、早く持ってきてください。私は素材の数はすべて把握してますから、こっそり素材を抜き取ってもわかりますからね?」


「……えっと……」


困ったような表情を浮かべる買い取りお姉さん。


「ちなみに、もうないとか、他の素材と一緒にしたとか通用しませんからね?」


「わ、わかりました……」


渋々先ほど持っていった素材を持って戻ってきた。


「こ、こちらです」


「…………」


「あ、あの?」


「ティア、どうしたのさ?」


「へっぽこ店主は黙っててください!!!」


「は、はひ!」


「冒険者ギルドではこのハイウルフのコアの買い取り額どうなっています?」


「あ……えっと……その……」


「質が悪くても銅貨50枚のはずなんですが……おかしいですね? ここにあるのは4つですけども?」


「あ! ご、ごめんなさいね? 間違えてたみたい! オホホ」


言い逃れ出来ないと判断したお姉さんは超スピードでお金を持ってきた。

その中身を確認してヴィータの持ってるお金を奪い取って中身を確認した。


「……まぁ妥当でしょう……今までの分はこのへっぽこ店主の愚かすぎるミスと言うことで見なかったことにしておきましょう」


「は、はい! ありがとうございます!」


「まぁもうこんなこと出来ないように今後は私がここへ来るので、覚悟しておいてくださいね?」


「……はい……ま、またお越しください……」


「行きますよ!! へっぽこ店主!!!」


「はい!」


…………………………


「まったく!!! 少しは人を疑うことを覚えてください!!!」


「……申し訳ないです」


家に戻るとティアはヴィータを叱っていた。

眉間にシワを寄せるティアと正座するヴィータ。


「私も過去に戻って自分自身を叱りつけてやりたいですよ!!! 目利きが出来ない!! 相場の言葉も意味も知らない!! 師匠に言われたままに捨て値で装備を売ったりするわ!!! 初対面の人を最初から疑うことをせず合鍵まで渡してくるような馬鹿者なんですから!!!」


「なんか……ごめん」


「なんか……ごめんじゃないですよ!!! 毎日あれだけの素材を売っていたんだったらあの女は銀貨50枚くらいは懐に入れてるんじゃないですかね!?……なんだかいろいろ心配になってきました! そうですよ! このへっぽこ店主は目利きなんて出来ないじゃないですか!? 絶対あれですよ!! 需要のある素材も見逃してますね!!! あぁ~過去に戻ってホントに自分を叱りつけてやりたい……私の苦労返して」


だんだん涙目になるティア。頑張れティア。負けるなティア。

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