のほほん31
強い武器が欲しい。強い武器が、自分のための強い武器が欲しい。
カーン!
カーン!
カーン!
分厚いんじゃなくて……もっとこう……もっと、細くて……切れ味があって……
カーン!
カーン!
カーン!
「……ふぅ……」
出来上がったのはヴィータの頭の中で靄がかかったように中途半端に浮かんでくる武器の形を体現しようとしたヴィータ専用武器1号。
「こんなのじゃだめだ……全然だめだ」
銅で出来たその二刀はしっかりとした形はしている。けれど中途半端な出来だとヴィータ自身でもよくわかる。使い物にならないと。
店のカウンターではうんうんと悩むティアの姿があった。
「うーんうーん、銅を使った武器では利益はこんなものでしょう。へっぽこ店主が持ってくる臨時収入を入れてもやはり厳しい……うーん」
「新しく出来た武器を持ってきたよ。何を悩んでいるんだ?」
「あ、へっぽこ店主。生計のやりくりですよ。一応やりくり出来てはいるのです。しかしですね。やはり銅だけでは利益は中々でないのです。かなり抑えてはいますが、利益が出ない分、食費やら材料を買う余裕が……」
「いやーいつも悪いな」
「他人事みたいに言ってますけどね! シャレになってないですからね! 銅の武器は初心者がお試しで使う装備なんです。だからこのまま大量に作り続けても売れ残り始めますからね! 売れ残ったら最後、私たちの貧困生活は終わりですよ! 夜逃げ万歳です!」
「……ホント?」
「本当ですよ! 家買えるほどお金持ってたくせに、よくこんなギリギリの生活をしなければならないくらい散財しましたね! 私なら考えられませんよ!」
「……すいません」
「という訳で、そろそろ鉄に挑戦しませんか?」
「鉄に?」
「そうですとも、今も昔も兵士たちも冒険者たちも装備の主流は鉄です! それ以上はまだまだ望みませんが、鉄が扱えるかどうかでかなり利益も違いますからね」
「うーん……でも師匠が……」
「またそれですか……言いたいことはわかりますが、先ほども言ったようにそろそろ本気で厳しくなってきてるんですから」
「……むぅ……」
「鍛冶が出来なくなるとへっぽこ店主も困るのでしょう?」
「困る。それは困る、だけどなぁ」
「バレなければいいんですよ!」
「俺が隠し事出来ると思う?」
「……と、とにかくこれでチャレンジしてください!」
そう言ってティアが手渡してきたのは鉄鉱石だった。
「これは……」
「こっそり買ってきました。お試しですよ。チャレンジあるのみです!」
「わかった。やってみるよ」
「それでこそ男です!」
鉄鉱石をもって鍛冶場に戻ったヴィータは本を読みながら鉄鉱石を溶かし、鉄を取り出していた。
「……これでいいはず……だ」
カチン!
カチン!
カキン!
(む、難しいぞ! 銅と全然違う。思ったように形が変わらない)
どうやら今まで使っていた銅とは難易度が全然違うようだ。
(銅がどれだけ扱いやすかったのか、今ならよくわかる)
カチン!
カチ!
カキン!
ガチャ
チリチリーン!
「いらっしゃい……わぁ! 何ですかあなたは!?」
「ええい! どけ!!! 小娘!!!」
カキン!
カキン!
カチン!
ドドドドドドド!!! という音が聞こえてくるくらいの勢いで走る音が聞こえてくる。
「勝手に中に入らないでくださいよ!? っていうかなんて馬鹿力ですかこのドワーフは!?」
「小僧!!! 誰が鉄を扱っていいと許可したか!?」
「わぁ!? も、申し訳ないであります!」
バタンとドアが強く開くと同時に大声で怒鳴るドワーフの男ドラゴスが止めようとしたティアを引きずりながら入ってきた。
いきなり入ってきたことで驚いたことと、聞き覚えのある声を聞いて兵士だった頃の条件反射で立ち上がってしまうヴィータだった。
怒るドラゴスを落ち着かせて、2階のリビングへと移動してもらった。
ティアの用意した飲み物をテーブルに置いて3人が座っている。
「で、へっぽこ店主。この失礼なドワーフはどなたですか?」
「えっと、俺の師匠」
「ほほぅ」
「小僧! お前にはまだ鉄は早すぎる! ハンマーの使い方すら知らなかったお前には無理だ!」
「は、はい」
「待ってください! それでは私が困りますよ!」
「小娘、何だお前は?」
「私ですか? 私はへっぽこ店主に雇われた商人ですよ」
「雇われの分際で口出しする出ないわ!! 商人娘!!」
「何ですと!? 武器の相場も知らない老害ドワーフが何を言いますか!?」
「老害ドワーフだと!?」
「今時、銅貨30枚で装備なんて買えませんよ!! 何百年前の話を持ってきてるんですかね!?」
「なんだと!? 生まれたばかりの小娘が!!」
「時代遅れの老害ドワーフ!!」
「お、落ち着いて」
「小僧は黙っとれ!!」「へっぽこ店主は黙っててください!!」
「……はい……」
職人気質のドワーフに気の強い商人娘の言い争いを止めることが出来なかったヴィータはしばらく黙って見守ることになった。