のほほん30
「さぁ! そろそろ新しい武器にでもチャレンジしてください!」
「でも師匠が……」
「師匠、師匠と言いますが、私が雇われてそこそこ経ちます。一度も見たことありませんよ!」
「次来るときまでにちゃんと金属を打てるようになっておけって」
「でもその師匠から銅の剣以外は作るなと言われてないんでしょ?」
「……言われてない気がする」
「なら問題ないですよ! 銅の剣以外の売り物が私も欲しいんですから!」
「失敗すると思うよ? それに、俺いい武器が出来てるかどうかわからないし」
「初めてチャレンジして完璧な武器が作れる人なんていませんよ! それに店主がわからなくても、私にはお母様が与えてくれたいい目がありますから、何の問題もないです!」
「……うーん……わかったよ。出来たら見てくれ」
「あいあいさー!」
ティアを雇ってからしばらくしてそんな話があった。ティアがどこからか買ってきた武器大辞典という本と、ヴィータが買い漁った中にあった銅の剣以外の作り方が書かれた本を見ながら武器作りに取り掛かっていた。
カーン!
カーン!
カーン!
ドラゴスに師事してもらってから、一定の感覚で家の周りに聞こえのいい音が鳴り響く。
カーン!
カーン!
カーン!
しばらくするとティアが様子を見に鍛冶場までやってきた。
「あっつ! よくこんなくそ暑い中で出来ますね! 窓くらい開けたらどうですか?」
「……そういえば窓あったね」
「ホントへっぽこですね!」
大量の汗をかくヴィータを呆れた顔で見ながらティアは窓を開ける。
涼しい風が鍛冶場に入ってくる。
「む? この銅の剣は店主が打ったんですか?」
鍛冶場に置きっぱなしだったドラゴスが打った銅の剣を見るとティアが聞いてきた。
「それは俺の師匠が打ったんだよ」
「……ほぅ……見事ですね……人間が打てるとは思えません。店主の師匠って人間ですか?」
「いや、ドワーフだよ」
「……なんと……よく弟子にしてもらえましたね」
「鍛冶を始めて1か月くらいの時に、あまりにも酷かったらしくて怒られたんだ」
「なるほど、納得しました」
ティアにはヴィータとドラゴスのやり取りが目に浮かぶように思い浮かべることが出来たようだ。
「これは売らない方が良さそうですね」
「見本だから売られたら困るよ」
「銅の剣を作り続けたのはこれが理由ですか。それでどうですか?」
「いくつか打ってみたよ」
「これがそうですね? もう持っても大丈夫です?」
「大丈夫だよ」
ふんふんと言いながら、銅の槍、銅の斧、銅の爪なんかを手に持って眺めていた。
「どう?」
「全然だめですね。売っても最低値でしょう。50点です」
「ぐっ……ちなみになんで50点?」
「私の目利きで最低限売れると判断できれば50点です。49点以下は売れません。50点以上であれば売りましょう」
「……頑張ります」
「初めて打ってこれですから、期待してますよ店主。ここに100点満点の銅の剣があるのですから頑張ってください」
……………………
カーン!
カーン!
ガラガラガシャーーン!!!
ガチ!!
「な、なにごと!?」
裏庭から大きな音が聞こえてきた。ただ事ではないと途中で切り上げて裏庭へと急ぐ。と、そこには驚愕しているティアとヴィータが作り出してしまった大量の銅の剣もどきが散らばっていた。
「何があったの?」
「裏庭に倉庫があるのをさっき知ったので、開けてみたんですよ」
事情を説明しながらヴィータに詰め寄る。
「で!? これはなんでしょうか!?」
「えっとこれは、売り物にならない失敗した銅の剣だけど?」
「このへっぽこめ……」
「へっぽことは失礼な!」
「鍛冶職人のあなたがこれを再利用しないで誰が使うと言うんですか!?」
「え? 再利用?」
「あ゛ぁ~もう! 金属を溶かして再利用すれば作り直せるでしょ!?」
「……なるほど」
ポンと手を叩くヴィータ。
「でも、質は」
「質は落ちるでしょう。でもこんなところに詰め込んで放置するくらいなら再利用した方がいいに決まってますよ!!」
「た、確かに」
「まったく!! 質のいい物を作っているかと思えば、銅の剣以外作らないわ、失敗したからと倉庫に詰め込むわでホント私がいなかったらゴミ屋敷と化してますよ!! このへっぽこ店主!!」
「す、すいませんでした」
「早速鍛冶場へ運びますよ!」
「……はい」
倉庫に詰め込まれた大量の銅の剣もどきをティアと協力して鍛冶場へ運び込む。
ガチャ
チリチリーン
その途中、お客が入ってきたようだ。
「おや珍しいですね。誰か来たみたいです」
「そうみたいだね」
2人でどんなお客が来たのか興味が沸き、カウンターへと移動する。
「いらっしゃいませー!!」
ティアは接客は慣れているようで元気よく声を掛ける。お客は長身の男だった。物静かだが凛としたその佇まいと無駄のない歩き方は熟練の冒険者のようだ。
長身の男は銅の剣と銅の槍を眺めていた。
「この武器を作ったのは誰かな?」
「あ、俺です」
「ふむ……若いね。ところでここは銅以外は扱っていないのかな?」
「お客さん。申し訳ないですね。このへっぽこ店主はまだ銅からしか作れないようでして」
「そうか……ふむ……そうだな、このまま何も買わないで帰るのもあれだ。この銅の剣を貰おう。いくらかな?」
「それでしたら銅貨75枚ですよ! 質は私が保証します!」
「買おう」
「毎度ありー!」
「店主、今後に期待するよ。頑張ってくれ」
「あ、はい!」
長身の男は期待を込めてヴィータに言って出ていった。
「……余裕のある男と言うのはやはり惹かれますね。それに強そうでした」
「うん。間違いなく強いと思う」
「へっぽこ店主もそう思いますか」
「俺もあんな風になりたいな」
「私は難しいと思いますけどね!」
「が、頑張るさ!」
「ならあの大量の銅を早く使い切ってください! じゃないと銅鉱石買ってきませんからね!」
「おう! 頑張ってくる!」
いつの間にかこの家の管理運営をティアがするようになっていた。
ヴィータには鉱石の見分けなど出来ないだろうということで、ティアが行商ついでに質のいい鉱石を安く仕入れてくるようになっている。計画性のないヴィータにとってはありがたいことだが、どちらが店主なのかわからなくなってきていた。